バイタル記録の書き方|基準値と報告の線引き
目次
バイタル記録は、測って書くところまではできていても、その数字をどう扱うかが決まっていない事業所が多くあります。体温37.4度は報告するのか。血圧が普段より20高いのは。判断が人によって違うと、気づける日と気づけない日が出ます。
この記事では、バイタル記録に何を残すのか、いつ測るのか、そしてどこから報告するかの線をどう決めるのかを整理します。
結論:バイタルは「数字」と「いつもとの差」をセットで見る
バイタル記録とは、体温、脈拍、血圧、呼吸、酸素飽和度といった生命の徴候を記録したもののことです。
ポイントはここです。数字そのものより、その人のいつもとの差が大事になります。普段から血圧が150の方の150と、普段110の方の150は、意味がまったく違います。一律の基準だけで判断すると、気づくべきときに気づけません。
普段の値は、入所後しばらく測ってから決めます。数日の平均が、その方の基準になります。
そのため、記録の様式にはその方の普段の値を書いておく欄を作ります。目に入る形にしておけば、測ったその場で差に気づけます。
何を測るのか
測る項目は、その方の状態によって変わります。全員に全部を測る必要はありません。
体温は、ほぼ全員で測ります。感染症の兆候がいちばん早く出るためです。血圧と脈拍は、循環器の疾患がある方、降圧剤を飲んでいる方では必須になります。
酸素飽和度は、呼吸器の疾患がある方や、誤嚥のリスクがある方で測ります。呼吸数は測っている事業所と測っていない事業所が分かれますが、状態の変化が出やすい項目でもあります。
測る項目が増えるほど、1人あたりの時間が伸びます。人数が多い事業所では、ここが日々の負担に直結します。
誰に何を測るかは、看護職員と相談して決めます。「全員に全部」にすると時間が足りず、結局測らない日が出ます。必要な方に必要な項目を確実に測るほうが、記録として働きます。
いつ測るのか
測る場面を決めておかないと、日によってばらつきます。
測る場面は、多くの事業所で決まっています。
一般的なのは、朝の起床時、入浴の前、体調の変化があったときの3つです。加えて、医師の指示がある方は指示された時刻に測ります。
測る場面を勤務の流れに組み込んでおくと、忘れません。「起床介助のあと」「配膳の前」のように、既にある動きに紐づけます。
時刻をそろえるのが大事です。朝に測る日と昼に測る日が混ざると、推移が読めなくなります。体温は1日の中でも変動しますし、血圧は起床直後と食後で違います。
測った時刻を必ず書きます。「37.2度」だけでは、いつの数字か分かりません。入浴後に測った37.2度と、起床時の37.2度では意味が違います。
報告の線を決めておく
いちばん決めておきたいのがここです。どこから看護職員へつなぐのかを、数字で決めます。
事業所によく置かれているのは、次のような形です。体温が37.5度以上、収縮期血圧が一定の値を超えるか下回る、脈拍が一定の範囲を外れる、酸素飽和度が一定の値を下回る。
数字だけで決めないのが要点です。基準の中に収まっていても、いつもと様子が違う、本人が「しんどい」と言っている、という場合は報告します。数字は報告する理由の1つであって、唯一の理由ではありません。
線の数字は、看護職員と相談して決めます。医師から指示が出ている方は、その指示が優先されます。指示書の内容を記録の様式に写しておくと、その場で確かめられます。そして紙に書いて貼ります。頭の中にあるだけだと、人によって違う判断になります。夜勤帯に1人でいるときほど、この紙が効きます。
その方ごとに別の線を置く場合もあります。普段から血圧が高い方に一律の基準を当てると、毎日報告することになります。個別の目安を記録の様式に書いておくと、その場で判断できます。
測り方をそろえる
同じ人を測っても、測り方が違うと数字が変わります。ここをそろえておかないと、推移が意味を持ちません。
測り方がそろっていないと、推移が本物かどうか分かりません。
体温は、測る部位をそろえます。腋窩か、耳か。腋窩なら、汗を拭いてから、正しい角度で挟んで、時間まで待つ。急いで途中で抜くと低く出ます。
血圧は、測る腕と姿勢をそろえます。麻痺がある方は健側で測ります。座位か臥位か、カフの位置が心臓の高さにあるか。測る前に数分安静にすることも、数字を安定させます。
脈拍は、測る時間を決めます。15秒測って4倍するのか、30秒測って2倍するのか。不整脈がある方は、短く測ると誤差が大きくなります。
測り直したときは、そのことも書きます。1回目が異常に高く、測り直したら正常だった。この場合、両方の数字と、測り直した理由を残します。低いほうだけ書くと、記録として不正確になります。
血圧計のカフのサイズも、腕の太さに合っていないと正しく測れません。細い腕に大きいカフを使うと低く出ます。事業所に何種類か置いてあるかを確かめておきます。
機器の管理も要ります。電池が弱っている体温計は低く出ます。定期的に確認する日を決めておきます。
数字以外に見ること
バイタルを測る場面は、その人と向き合う数分間でもあります。数字だけ取って離れるのは、もったいない時間です。
一緒に見たいのは4つです。顔色と表情、受け答えの様子(いつもより反応が遅くないか)、皮膚の状態(冷たい、汗ばんでいる)、訴え(どこか痛むか、気分はどうか)。
数字が正常でも、この4つに変化があれば報告の対象になります。高齢の方は、感染症があっても熱が上がらないことがあります。数字だけを見ていると、この場合に気づけません。
この4つは、数字より先に変化が出ることがあります。
記録の様子欄に、1行書けるようにしておきます。「顔色やや不良。『だるい』とのお話あり」。数字の横にこの1行があると、あとで見返したときに状況が分かります。
「特変なし」だけで済ませないのが要点です。何を見て特変なしと判断したのかが残らないと、次に読む人が確かめようがありません。
数字を並べて見る
1回の数字では、変化は分かりません。並べてはじめて見えます。
数字が並んでいると、単発では気にならなかった変化が見えてきます。
体温は、微熱が続いていないかを見ます。37度台前半が数日続くのは、ただちに高くはなくても変化のサインです。血圧は、下がってきていないかを見ます。上がるより、下がるほうが急な変化を示すことがあります。
酸素飽和度は、下がり始めると急なことがあります。普段の値を知っておくと、少しの低下にも気づけます。
グラフにできるなら、そのほうが早く気づけます。数字の列より、線のほうが傾きが見えます。電子化している事業所では、自動でグラフになる形にしておくと、毎日の確認が数秒で終わります。
グラフにするなら、目盛りを固定しておきます。日によって目盛りが変わると、傾きの見え方が変わってしまいます。
紙の場合も、1人1枚の表にして日付を横に並べると、推移が見えます。日ごとの記録に散らばっていると、追うのに時間がかかります。
感染症が疑われるときの記録
体温の記録がいちばん重要になるのが、感染症が広がりかけている場面です。ここは個人の記録を超えて、施設全体の話になります。
1人の発熱では分かりません。同じ時期に複数の方に発熱が出ているかどうかが、判断の分かれ目になります。そのため、全員の体温を一覧で見られる形にしておく必要があります。
一覧にすると、フロアごとの偏りも見えます。同じフロアに集中しているなら、そこで何かが起きている可能性があります。居室の位置関係まで見ると、さらに絞り込めます。
発熱以外の症状も、あわせて記録します。嘔吐、下痢、咳。感染症の種類によって出方が違うので、症状の組み合わせが分かる形にしておきます。
症状が出た方の居室と、行動範囲も記録しておきます。食堂の席、入浴の順番。どこで接点があったかが分かると、広がり方の見当がつきます。
こうした一覧は、平常時から作っておくのがこつです。流行してから作り始めると、比較する平常時のデータがありません。普段の体温の分布が分かっていてはじめて、「いつもより多い」が判断できます。
判断と対応は、看護職員や協力医療機関、保健所が行います。介護職に求められるのは、測って、並べて、気づいて、つなぐことです。
記録が使われる場面
バイタル記録は、いくつかの場面で読まれます。使い道が分かっていると、書く精度が上がります。
1つ目が、受診のときです。医師に「ここ1週間の体温です」と見せられると、診断の材料になります。2つ目が、看護職員の判断。数字の推移から、往診を頼むかどうかを決めます。
3つ目が、事故や急変があったときです。事故報告書にもバイタルの欄があるため、普段から記録があると転記で済みます。その前の数日の数字が残っていることが、経過を説明する材料になります。4つ目が、家族への説明です。
5つ目が、ケアプランの見直しです。状態が変わっているかどうかの裏付けとして使えます。
5つとも、書いた本人以外が読みます。だから、時刻と測り方の条件が書かれていることが大事になります。
急変に気づいたときの動き方
数字の異常に気づいたあと、何をするかを決めておきます。ここが決まっていないと、気づいても動けません。
流れは4段です。1段目、もう一度測る。機器の不具合や測り方の問題を除きます。2段目、他のバイタルも測る。体温が高いなら脈拍と血圧も、酸素飽和度が測れるなら合わせて測ります。
3段目、様子を見る。意識、呼吸、顔色、訴え。数字と合わせて状態を把握します。4段目、報告する。看護職員へ、数字と様子の両方を伝えます。
報告するときは、数字を先に言います。「◯◯様、体温38.2度、脈拍98、血圧140の80です。顔色不良で、だるいとのお話があります」。この順番だと、聞いた側がすぐ判断に入れます。
慌てている場面ほど、言う順番が乱れます。紙に順番を書いておけば、読み上げるだけで済みます。
夜間で看護職員がいない事業所では、誰に連絡するかを決めておきます。オンコールの看護職員、協力医療機関、救急。どの状態でどこへ連絡するかを紙にして、電話のそばに貼っておきます。
連絡した記録も残します。いつ、誰に、何を伝え、どう指示されたか。指示された内容は、その場で復唱して書き取ります。あとで「そうは言っていない」となる場面を防げます。
測る負担を減らす
測る人数が多いと、それだけで時間が取られます。減らす工夫を3つ挙げます。
1つ目が、測る項目を絞ること。前に書いたとおり、全員に全部は要りません。看護職員と相談して、方ごとに必要な項目を決めます。
2つ目が、機器を使い分けること。耳で測る体温計は数秒で済みます。人数が多い時間帯に向いています。腋窩で測る体温計は時間がかかりますが、より安定した値が出ます。場面で使い分けると、全体の時間が短くなります。
3つ目が、測る順番を動線に合わせること。居室の並び順に回れば、行き来が減ります。当たり前のようで、担当を人で分けていると動線が交差していることがあります。
測った直後に書くのが原則です。何人かまとめて覚えてから書くと、数字が入れ替わります。持ち運べる記録用紙か端末を使います。
電子化している事業所では、機器から自動で取り込めるものもあります。転記の手間と書き間違いが同時に減ります。ただし、機器が対応していない項目は結局手で書くので、混在する形になることは想定しておきます。
まとめ
バイタル記録は、数字とその人のいつもとの差をセットで見ます。測る項目と時刻をそろえ、報告の線を数字で決めて紙に貼ると、判断が人によってぶれなくなります。
まず手を付けるなら、記録の様式にその方の普段の値を書く欄を作るところからです。次に、報告の線を看護職員と決めて掲示すると、夜勤帯の判断が早くなります。
バイタルは、測るだけなら誰でもできます。差に気づけるかどうかが、この記録の価値を決めます。そのために要るのは、普段の値が目に入る様式と、紙に書いた報告の線の2つだけです。
なお、報告の目安となる数値や、測る項目は、個々の状態によって変わります。最終的な判断は、かかりつけの医師や看護職員にご確認ください。
バイタルは、測ることより線を決めておくことのほうが難しい記録です。数字を紙に書いて貼る。それだけで、夜勤帯の判断が変わります。
よくある質問
バイタルは全員に全部測るのですか。
その方の状態によって変わります。体温はほぼ全員、血圧と脈拍は循環器の疾患がある方で必須になります。誰に何を測るかは看護職員と相談して決めます。
どこから報告すればよいですか。
数字の線を看護職員と決めて紙に貼ります。ただし基準の中でも、いつもと様子が違う場合や本人の訴えがある場合は報告します。
感染症にはどう気づきますか。
1人の発熱では分かりません。全員の体温を一覧で見られる形にしておき、同じ時期に複数の方に出ていないか、フロアに偏りがないかを確かめます。
測り直したときはどう書きますか。
両方の数字と、測り直した理由を残します。低いほうだけ書くと、記録として不正確になります。
時刻は書かないといけませんか。
書きます。入浴後の37.2度と起床時の37.2度では意味が違います。測った条件が分かる形にしておきます。
数字が正常なら報告しなくてよいですか。
数字は報告する理由の1つであって、唯一の理由ではありません。顔色、受け答え、皮膚の状態、訴えに変化があれば、基準の中でも報告します。
普段から血圧が高い方はどうしますか。
一律の基準を当てると毎日報告することになります。その方ごとの目安を記録の様式に書いておくと、その場で判断できます。
数字はどう並べて見ますか。
1人1枚の表にして日付を横に並べると推移が見えます。グラフにできるなら、傾きが目で分かるので早く気づけます。