保育の事故報告|自治体に出す範囲と期限
目次
保育の事故報告は、園の中で書く記録と、自治体へ出す報告の2つがあります。同じ「事故報告」と呼ばれるため、園内の記録を書いたことで済ませてしまう形が起きます。
この記事では、自治体への報告がどの事故を対象にしているのか、いつまでに何を出すのか、そして園内の記録とどう分けるのかを整理します。範囲と様式は自治体によって運用が違うという前提で書きます。
結論:園内の記録と、自治体への報告は別のもの
保育の事故報告には、2つの層があります。
1つ目が園内の記録です。ヒヤリハットを含め、起きたことを集めて再発を防ぐために作ります。園が自分たちのために作る書類です。
2つ目が自治体への報告です。一定の事故について、市区町村や都道府県へ報告する仕組みが設けられています。制度として求められている届出にあたります。
ポイントはここです。園内の記録を書いたから自治体への報告が不要、にはなりません。目的も、読む人も、様式も違います。
対象になる事故の考え方
「どこから報告するのか」がいちばん迷うところです。
一般に、死亡事故と、治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故が報告の対象として挙げられています。あわせて、意識不明の事故なども対象として示されていることがあります。
対象かどうかを園だけで判断せず、迷ったら電話で確かめるのがいちばん早く終わります。聞いて対象外と言われれば5分で済みます。
「30日以上」は、結果が出るまで分からないという難しさがあります。受診した当日には全治何日か分からないことがあります。この場合、分かった時点で報告する形になります。
そのため、実務では受診した事故はすべて記録に残し、経過を追うのが安全です。あとから対象だと分かったときに、当日の状況が残っていないと報告書が書けません。
範囲の細部は自治体によって運用が違います。うちは何を出すのかを、所在地の自治体の保育担当課に一度確かめて、園の基準として紙に書いておきます。
いつまでに出すのか
期限も自治体によりますが、実務で動く形は2段階になります。
1段階目が第一報。事故を把握した時点で、電話などで連絡します。死亡や意識不明など重いものは、すぐに連絡します。
2段階目が報告書の提出。様式に記入して提出します。第一報から数日以内としている例が多く見られます。
そのあと、続報が必要になることがあります。治療の経過が分かった時点、再発防止策が固まった時点。1回出して終わりとは限りません。
第一報の時点では、原因も再発防止策も固まっていなくて構いません。「これから確認します」で足ります。
確定を待たないのが要点です。「全治何日か分かってから」と待っていると、遅いと見られます。分かっている範囲で第一報を入れ、あとから足します。
何を書くのか
様式は自治体が用意しているものを使います。園で作ったものを出すことはできません。国が示した様式の例を使っている自治体が多くあります。
書く項目は、園内の記録と重なります。施設の情報、子どもの情報(年齢、性別、在籍期間など)、事故の発生日時と場所、事故の種類、発生時の状況、発生後の対応、受診の状況、保護者への連絡、原因の分析、再発防止策。
様式を埋める作業そのものは、園内の記録がそろっていれば転記で済みます。
発生時の状況がいちばん見られます。「転倒した」で終わらせず、直前に何をしていたか、誰が近くにいたか、どういう体勢だったかまで書きます。
時刻も分まで書きます。発生した時刻、気づいた時刻、救急に連絡した時刻、保護者に連絡した時刻。時刻が飛んでいると、その間何をしていたのかを聞かれます。
職員の配置も聞かれます。そのとき何人の職員が、何人の子どもを見ていたか。人数が書けるようにしておくと、あとで確かめずに済みます。
子どもの氏名を書くかどうかは自治体によって異なります。指示に従います。
事故が起きやすい場面
報告の手前に、防ぐ話があります。園で起きやすい事故は、だいたい決まっています。
睡眠中がもっとも重い結果になりやすい場面です。うつ伏せ、顔にかかった寝具。ここは午睡チェック表の間隔にまとめました。
水遊びは、水深が浅くても起きます。「浅いから大丈夫」が、いちばん危ない思い込みになります。
プールと水遊びも、短時間で重大な結果になります。監視に専念する人を置くことが求められており、保育をしながらの監視では足りないとされています。
食事の場面では誤嚥と窒息です。過去に事故が起きている食材は、自治体からも注意が示されています。食材の大きさ、食材の形態、姿勢、食べる速さ。詰め込んでしまう子には特に注意が要ります。
園外保育では、移動中の交通と、行き先での所在確認。人数確認の回数とタイミングを決めておきます。
この4つは、事故が起きたときに「何をしていたか」を必ず聞かれる場面でもあります。逆に言えば、この4つについて手順を決めて記録を残しておけば、備えとしてはかなり進みます。
年に1度は、この4場面について手順を見直します。人が入れ替わると、決めたことが伝わっていないことがあります。
社内の流れを先に決める
慌てる場面なので、誰が何をするかを決めておきます。
慌てている場面では、考える時間がありません。決めるのは4つです。第一報を入れる人(園長不在時を含む)、連絡先(担当課の電話番号、休日の連絡先)、様式の置き場所、提出の方法。
年に1度は内容を確かめます。担当課の名称や連絡先は、組織改編で変わることがあります。様式が改訂されていることもあります。
この4つを1枚にまとめて、事務室の見える場所に貼ります。事故は園長がいる時間に起きるとは限りません。
園長の携帯番号だけでなく、副園長や主任の連絡先も並べて書いておきます。1人に頼る形だと、つながらないときに止まります。
あわせて、救急への連絡と保護者への連絡の順番も決めておきます。子どもの安全が最優先なので、救急が先です。誰が救急を呼び、誰が保護者に連絡し、誰が他の子どもを見るか。役割を分けておきます。
ヒヤリハットを集めておく
自治体への報告は重い事故だけですが、その手前を拾えるかどうかで件数が変わります。
保育のヒヤリハットは、介護と同じ考え方で集められます。「もう少しで転落するところだった」「あと少しで口に入れるところだった」。何も起きなかった出来事を集めます。
集めるこつは3つです。書式を軽くする(1枚5分)、責める欄を作らない(「なぜ見ていなかったか」は書かせない)、返す(この報告でこう変えました、と共有する)。
ベテランの職員が「あそこは危ない」と感じている場所は、たいてい当たっています。
保育特有の難しさは、子どもの行動が予測しきれないことです。だからこそ、「次は起きるかもしれない」という現場の勘が価値を持ちます。ベテランほど、危ない場面が見えています。
園庭の特定の遊具、階段、玄関。場所が絞れると、対策も具体的になります。
集めた記録は、場所と時間帯で数えます。同じ場所で続いているなら環境の問題、同じ時間帯に集まっているなら体制の問題です。
自治体によっては、重大な事故に至らないものでも報告や情報提供を求めている場合があります。うちの自治体はどうかを確かめておきます。
保護者への連絡
自治体への報告と並んで、保護者への連絡が同時に動きます。
最初の連絡で伝えるのは3つです。起きたこと、いまの状態、これからどうするか。原因の分析は、この時点では固まっていません。
状態から先に伝えます。経緯から話し始めると、聞いている側は結局どうなったのかが分からないまま不安が増します。「意識ははっきりしていて、いまは落ち着いています」から始めます。
電話では、けがの程度が伝わりにくい場面があります。
迎えに来られたときに、その場で見てもらうのが基本です。けがの部位、園での対応。見て納得されるほうが、電話で説明するより早く伝わります。
その場で答えられないことは、持ち帰って構いません。推測で答えると、あとで訂正することになります。
話した内容は記録に残します。いつ、誰に、何を伝え、どういう反応だったか。自治体の様式に保護者への連絡の状況を書く欄があるので、そのまま使えます。
他の保護者への説明が要る場面
重い事故や、他の子が関わる事故では、クラス全体や園全体への説明が必要になることがあります。
判断の軸は2つです。他の子どもが目撃しているかと、再発防止のために協力が要るか。目撃した子がいる場合、家庭でその話が出ます。園から説明が無いと、噂が先に回ります。
伝えるときは、個人が特定できない形にします。「園児1名がけがをしました」。氏名や、特定できる状況は書きません。
説明が遅れるほど、憶測が広がります。早く、事実だけを、短くが基本になります。
説明の方法は、書面での配布、クラス懇談、必要なら説明会。自治体に相談してから進めると、判断がぶれません。重い事故では、自治体の側にも公表の判断があります。
報告のあとに何をするか
出したら終わりではありません。むしろここからが本番です。
1つ目が、検証です。園内で、なぜ起きたかを確かめます。原因は1つではありません。子どもの状況、職員の動き、環境、体制。4つに分けると、打てる手が4つ出てきます。
検証は、当事者を責める場にしないことが大事です。責める場になると、次から事実が出てこなくなります。
2つ目が、再発防止策を決めることです。「注意する」では対策になりません。物を動かす、手順を変える、人の配置を変える。このどれかに落として、誰がいつまでにやるかを書きます。
3つ目が、全職員への共有です。その場にいた職員だけが知っている状態では、次に別の職員が同じ場面に立ちます。会議で共有し、記録に残します。
4つ目が、対策が実行されたかの確認です。決めた期限が来たときに、誰かが見ます。ここが抜けると、決めただけで終わります。会議の冒頭で前回決めたことを確認する形にしておくと、自然に回ります。決めた期限が来たときに、誰かが見ます。ここが抜けると、決めただけで終わります。
自治体から、検証の結果や再発防止策について問い合わせが来ることがあります。重大な事故では、自治体側でも検証が行われる仕組みがあります。園としての検証が先に済んでいると、やり取りが早く終わります。
記録は事故の前から始まっている
事故報告を書く段になって困るのは、事故の当日よりその前の記録です。
家族から「前から危ないと思っていた」と言われたとき、園がその状態に気づいていたかどうかが問われます。日誌やヒヤリハットに、その子の様子が残っているか。
たとえば、最近よく転ぶようになっていた、遊具の使い方が危なっかしかった。こうした記録があり、そのうえで何かを変えていたなら、園が気づいて手を打っていたことが示せます。
逆に、記録が何もないと、気づいていなかったのか、気づいていたが何もしなかったのかが区別できません。日々の記録が、いざというときに園を守ります。
だからといって、心配なことを全部書けという話ではありません。いつもと違う場面を1行残すという、日誌の基本を続けていれば足ります。保育日誌の書き方にまとめました。
事故のあとで記録を書き足すのは避けます。日付をさかのぼって書いたものは、突き合わせれば分かります。無い部分は無いままにして、これからの記録を残すほうが結果的に良くなります。
まとめ
保育の事故報告は、園内の記録と自治体への報告の2つに分かれます。自治体への報告は、死亡事故や治療に30日以上を要する重篤な事故などが対象として挙げられています。範囲と期限は自治体によって運用が違います。
まず手を付けるなら、担当課の連絡先と様式を事務室の決まった場所にそろえるところからです。次に、第一報を誰が入れるのかを園長不在時まで含めて決めておくと、夜間や休日でも動けます。
報告の手続きそのものは難しくありません。難しいのは、慌てている場面で「これは出すのか」を判断することです。先に範囲を確かめて紙にしておけば、その場で迷いません。
なお、報告の対象になる事故の範囲、期限、様式、提出の方法は、自治体によって運用が異なります。最終的な判断は、所在地の自治体の保育担当課にご確認ください。
実際に使える様式が必要な方へ
自治体への事故報告や園内のヒヤリハットのExcel様式は、商い屋の保育向けのページにあります。自治体の様式に転記する前の下書きにも使えます。
この様式をひらく事故の報告は、出すこと自体が目的ではありません。同じことが二度起きないようにするための仕組みです。そこが動いていれば、報告はその一部として自然に回ります。
よくある質問
どの事故から自治体に報告するのですか。
死亡事故と、治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故が対象として挙げられています。意識不明の事故なども示されていることがあります。範囲は自治体によって違うため確かめます。
全治30日かどうかは当日分かりません。
分かった時点で報告する形になります。そのため、受診した事故はすべて記録に残して経過を追っておくと、あとから報告書が書けます。
園内の記録を出せばよいのですか。
別のものです。自治体が用意している様式に記入して提出します。園内の記録をきちんと書いてあれば、転記で済みます。
いつまでに出すのですか。
第一報は把握した時点で、報告書はそのあと数日以内としている例が多く見られます。確定を待たずに、分かっている範囲で第一報を入れます。
保護者にはいつ伝えますか。
分かった時点で伝えます。最初の連絡では、起きたこと、いまの状態、これからどうするかの3つを、状態から先に伝えます。
ヒヤリハットも報告するのですか。
自治体によっては、重大な事故に至らないものでも報告や情報提供を求めている場合があります。うちの自治体はどうかを確かめておきます。
他の保護者にも説明しますか。
他の子が目撃している場合や、再発防止に協力が要る場合は説明します。個人が特定できない形にし、進め方は自治体に相談してから決めます。