入浴記録の書き方|拒否と皮膚の観察を残す
目次
入浴記録は、「入浴した・しなかった」だけで終わっていることが多い記録です。ところが入浴の場面は、全身を見られる数少ない機会でもあります。ここで気づいたことを残しておくかどうかで、あとの対応が変わります。
この記事では、入浴記録に何を残すのか、拒否があったときにどう書くのか、そして皮膚の観察をどう記録につなげるのかを整理します。
結論:入浴記録は「実施の可否」「体調」「皮膚の状態」の3つ
入浴記録とは、入浴や清拭を行った状況を記録したもののことです。
残すのは3つです。実施したか(入浴・シャワー浴・清拭・中止)、そのときの体調(バイタル、訴え)、皮膚の状態。ここに、介助の内容を足すと、次に入る職員が同じ介助を再現できます。
ポイントはここです。入浴記録の価値は、皮膚の観察にあります。服を脱いでいる場面は、1日のうち入浴のときだけです。背中、臀部、足の指の間。ここを見られるのがこの時間なので、見たことを残す欄が要ります。
実施の形を分けて書く
「入浴」とだけ書くと、実際に何をしたかが分かりません。形を分けて選べるようにします。
用紙では選択式にしておきます。分けるのは5つです。一般浴(浴槽につかる)、シャワー浴、機械浴(リフト浴・ストレッチャー浴)、部分浴(足浴・手浴)、清拭。
形が変わったときは、その理由も書きます。「体調不良のため清拭に変更」「本人の希望によりシャワー浴」。形が変わっていることに気づけるのは、記録が残っているときだけです。
入浴の形は、その日の体調で変わって当然のものです。変わったこと自体は問題になりません。
中止した場合も記録します。中止の理由と、代わりに何をしたか。「発熱のため中止。清拭のみ実施」。何もしなかった場合も「入浴・清拭ともに実施せず」と書きます。空欄にすると、忘れたのか判断して見送ったのかが分かりません。
拒否があったときの書き方
いちばん書き方に差が出るのが、拒否の場面です。
「拒否」の一言で終わらせないのが要点です。どう拒否されたのか、こちらが何を試したのか、最終的にどうなったのか。この3つがあると、次に入る職員が同じ苦労を繰り返さずに済みます。
書き方の例を挙げます。
> 14時、入浴の声かけに対し「今日はいい」とのお話あり。時間をおいて15時に再度声かけ、「寒いから」とのこと。脱衣室の暖房を入れてから誘導したところ、応じられた。シャワー浴にて実施。
理由が分かると、対策が立ちます。寒いのが理由なら、脱衣室を温めておけば次は最初から応じられるかもしれません。「拒否あり」だけでは、この情報が残りません。
同じ方でも、日によって理由が違うことがあります。体調、気分、担当した職員、時間帯。理由を書き続けていると、パターンが見えてきます。
拒否が続く場合は、回数と期間を追います。「今週3回のうち2回拒否」。ここまで来たら、体調の変化か、環境か、職員との関係かを検討する場面になります。カンファレンスの材料として使えます。
無理に入れないという判断も記録に残します。入浴は本人の意向が尊重される部分なので、応じられないことをそのまま書いて構いません。本人の意向を尊重して見送った、という記録があると、ケアを怠ったのではないことが示せます。
皮膚の観察をどう残すか
入浴記録でいちばん価値が高いのがここです。見るところを決めておくと、気づきが増えます。
見るのは5か所です。仙骨部・臀部(いちばん褥瘡ができやすい)、踵、背中、足の指の間、陰部。加えて、新しい傷やあざがないかを全身で見ます。
書き方は、部位と状態を分けて書きます。「仙骨部に発赤あり、直径2センチ程度。押しても白くならない」。大きさと、押したときの反応まで書けると、程度が伝わります。
見る順番も決めておくと抜けません。上から下へ、前から後ろへ。順番が決まっていると、忙しい日でも同じところを見られます。
変化が無い日は「変化なし」で構いません。ただし、見た事実が分かる形にします。チェック式の欄に「確認済み」のチェックが入っていれば足ります。
新しいあざを見つけたときは、必ず記録して報告します。転倒に気づいていなかった可能性がありますし、虐待が疑われる場面でもあります。部位、大きさ、色。写真を残す運用にしている事業所もあります。判断は組織で行うので、見つけた人は記録して上げるところまでを担います。
褥瘡に早く気づく
皮膚の観察でいちばん大事なのが、褥瘡の兆候です。早い段階で見つかれば、深くならずに済みます。
最初のサインは発赤です。皮膚が赤くなり、押しても白くならない状態。この段階で気づいて手を打てば、多くは進まずに済みます。逆に、皮膚が破れてからでは治るのに時間がかかります。
書くときは、押したときの反応まで書きます。「押すと白くなる」なら一時的な圧迫の可能性があり、「押しても白くならない」なら褥瘡の初期を疑います。この一言があるかどうかで、看護職員の判断が変わります。
同じ部位を追えるようにしておきます。前回いつ発赤があったか、大きさは変わっているか。記録の様式に体の図を入れて、位置に印を付けられる形にすると、部位の伝達が正確になります。
発赤を見つけた日は、体位交換や除圧の状況も一緒に確かめます。同じ姿勢が続いていないか、クッションが適切に入っているか。原因のほうに手が届きます。
リスクの高い方は、入浴の日以外も見る必要があります。おむつ交換のときや体位交換のときに見る形にして、その記録も残します。入浴記録だけでは、週2回しか見ないことになります。
見つけたら、看護職員へつなぎます。介護職の役割は、見て、書いて、つなぐところまでです。処置の判断は看護職員や医師が行います。
体調の確認を記録に残す
入浴は体に負担がかかるので、前後の体調を確認します。
入浴の前後は、体への負担が大きい場面です。
入浴前は、バイタルを測ります。体温、血圧、脈拍。事業所で「この数値を超えたら中止」という目安を決めておきます。目安があると、判断が人によってぶれません。
入浴後は、ふらつきや気分の変化を見ます。水分を摂っていただいたかも記録に残すと、脱水の予防につながります。入浴の前後は汗をかくため、水分の記録と組み合わせて見る価値があります。長く湯につかったあとは血圧が下がることがあります。入浴後に休んでいただく時間も、記録の欄に入れておくと運用として定着します。
数値の目安は、個々の状態によって変わります。普段から血圧が高い方に一律の基準を当てると、毎回中止になります。その方ごとの目安を、看護職員と相談して決めておきます。
事故が起きやすい場面を記録から潰す
入浴の場面は、転倒と溺水のリスクが高い時間帯です。ヒヤリハットの記録と組み合わせると、危ない場所が見えてきます。
転倒が起きやすいのは、脱衣室と浴室の出入り口です。床が濡れている、段差がある、つかまる場所がない。ヒヤリハットが同じ場所で続いているなら、環境の問題です。
浴槽の出入りも多い場面です。立ち上がるときにふらつく、またぐときに足が上がらない。ここは介助の方法と用具で変えられます。記録に「ふらつきあり」が続いているなら、手すりや台の追加を検討します。
湯温の確認も記録に残す価値があります。やけどは、起きたときの影響が大きい事故です。入浴前に湯温を測って記録する運用にしておくと、確認が習慣になります。
一人で入浴される方の場合、声かけの間隔を決めておきます。「5分おきに声をかける」といった形にして、実施した記録を残します。何かあったときに、放置していなかったことが示せます。
浴室は、事故が起きると重くなりやすい場所です。環境で防げるものは、環境で防ぐのがいちばん確実になります。
こうした情報は、ヒヤリハットの様式と入浴記録の両方に散らばりがちです。月に1度、入浴に関するヒヤリハットだけを抜き出して見ると、対策が具体的になります。
介助の内容も残す
同じ方でも、職員によって介助のやり方が違うことがあります。記録に残しておくと、そろえられます。
残したいのは4つです。移動の方法(歩行・車いす・リフト)、洗身の介助の範囲(自分で洗える部分はどこか)、注意すること(麻痺側、痛みのある部位)、使っている用具(シャワーチェア、滑り止め)。
状態が変わったのに更新されていないと、古い情報のまま介助が続きます。見直す場面を決めておくのが確実です。
これは毎回書くものではありません。入所時や状態が変わったときに更新する1枚として、記録の綴りの先頭に置いておきます。
自分で洗える部分を残しておくのが大事です。全部介助してしまうと、できていたことができなくなります。「背中以外は自分で洗われる」と分かっていれば、職員が変わっても同じ関わりができます。
入浴の順番と時間も記録から見直せる
記録がたまると、運用そのものを見直す材料になります。
入浴の順番は、たいてい前例のまま続いています。記録を並べると、いつも最後になる方の拒否が多い、午前の方は体調不良での中止が少ない、といったことが見えてきます。
時間帯も同じです。食事の直後は避ける、睡眠の直後は血圧が安定しない。記録に中止の理由が残っていれば、時間帯に偏りがあるかを確かめられます。
所要時間を残しておくと、人の配置の検討にも使えます。機械浴に40分かかる方が3人続くと、その時間帯に人手が集中します。順番を組み替えるだけで、負担がならせることがあります。
こうした見直しは、四半期に1度でじゅうぶんです。毎月やる必要はありませんが、一度もやらないと前例のまま何年も続きます。
見直しの材料は、すでに毎日の記録の中にあります。新しく測る必要はありません。
見直したら、変えた内容と理由を残します。「◯月から◯◯様を午前の1番に変更。拒否が続いていたため」。変えた効果も、そのあとの記録で確かめられます。
通所と訪問での入浴記録
施設と違い、通所や訪問では入浴が主目的になることがあります。記録の重みも変わります。
通所の入浴は、家族にとって大きな意味を持ちます。在宅で入浴させるのが難しいから通っている、という方が多いためです。実施できたかどうかが、そのまま家族への報告になります。
そのため、中止したときの理由は特に丁寧に書きます。「体調不良のため中止」だけだと、家族には伝わりません。「入浴前の検温で37.8度あり、看護職員と相談のうえ清拭に変更しました」。判断の過程まで書くと、納得が得られます。
訪問入浴では、複数の職員とスタッフで動きます。役割分担と、その日の状態の共有が記録の目的になります。前回からの変化を書いておくと、次の回の準備が変わります。
在宅の場合、家族が記録を読むことが前提になります。専門用語を避け、見たことを具体的に書きます。皮膚の状態を伝えると、家族が日々のケアで気をつけられるようになります。
家族にとっては、入浴できたかどうかがその日の報告の中心になります。
連絡帳の形で記録を渡している事業所も多くあります。渡すものと、事業所に残すものを分けるか、同じにするかを決めておきます。同じにする場合は、書く言葉を家族向けにそろえる必要があります。
まとめ
入浴記録は、実施の形、体調、皮膚の状態の3つを残します。拒否があったときは、理由と試したことまで書くと、次の職員が同じ苦労をしません。皮膚は見る5か所を決めておくと、気づきが増えます。
まず手を付けるなら、皮膚の観察の欄を作って、見る部位をチェック式にするところからです。次に、拒否の欄を「有無」ではなく「何を試したか」が書ける形にすると、記録が申し送りで使えるようになります。
入浴の時間は、介助としては重いのですが、その人の全身を見られる唯一の機会でもあります。見たことを残す欄が1つあるだけで、記録の価値が変わります。
なお、入浴の可否の判断や、中止する数値の目安は、個々の状態によって変わります。最終的な判断は、かかりつけの医師や看護職員にご確認ください。
入浴記録は、書く量を増やさなくても価値を上げられます。皮膚の欄をチェック式で作る。それだけで、週2回の全身観察が記録として残ります。
よくある質問
入浴記録には何を書くのですか。
実施の形(一般浴・シャワー浴・機械浴・部分浴・清拭)、そのときの体調、皮膚の状態の3つが基本です。介助の内容を別に残しておくと、職員が変わっても同じ関わりができます。
拒否されたときはどう書きますか。
「拒否あり」だけでは次につながりません。どう拒否されたか、何を試したか、最終的にどうなったかの3つを書きます。
介助の内容はどこに残しますか。
毎回書くものではなく、入所時や状態が変わったときに更新する1枚として、記録の綴りの先頭に置いておきます。自分で洗える部分を残しておくのが特に大事です。
入浴しなかった日も書くのですか。
書きます。理由と、代わりに何をしたかを残します。空欄にすると、忘れたのか判断して見送ったのかが分かりません。
入浴の順番は見直せますか。
記録を並べると、いつも最後になる方の拒否が多い、といったことが見えてきます。四半期に1度見直すだけでも、前例のまま続く状態を避けられます。
皮膚はどこを見ればよいですか。
仙骨部・臀部、踵、背中、足の指の間、陰部が挙げられます。加えて、新しい傷やあざがないかを全身で見ます。
新しいあざを見つけたらどうしますか。
記録して報告します。転倒に気づいていなかった可能性もあり、判断は組織で行います。見つけた人は記録して上げるところまでを担います。
褥瘡はどの段階で気づけますか。
押しても白くならない発赤の段階で気づければ、多くは進まずに済みます。押したときの反応まで書いておくと、看護職員の判断が早くなります。
中止の目安はどう決めるのですか。
体温や血圧の目安を事業所で決めておくと、判断がぶれません。ただし個々の状態によって変わるため、看護職員と相談してその方ごとに決めます。