身体拘束の記録の書き方|経過観察に残すこと
目次
身体拘束の記録は、書く量がいちばん多くなる記録です。開始のときの書類、毎日の経過観察、そして再検討の記録。これが続けられずに途中で止まってしまうと、拘束そのものは適切でも手続きの不備として扱われます。
この記事では、身体拘束の記録に何を残すこととされているのか、経過観察の欄に毎日何を書くのか、そして続けられる形にどう整えるのかを整理します。
結論:記録は「態様と時間」「心身の状況」「やむを得なかった理由」の3つ
身体拘束の記録とは、緊急やむを得ず身体拘束を行った場合に、その内容を残しておく記録のことです。
一般には、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録しなければならないとされています。この3つが柱になります。
ポイントはここです。記録を怠ること自体が、減算の対象になります。拘束を行ったかどうかではなく、手続きを行っていないことが問われる仕組みになっているため、記録が止まると直接そこに効いてきます。
そのうえで、実務では記録が3つの場面に分かれます。開始のとき、毎日の経過観察、再検討のときです。様式もそれぞれ別になっていることが多くあります。
開始のときに残すもの
拘束を始める時点で作る書類です。ここがいちばん項目が多くなります。
残すのは6つです。対象になる方の氏名、拘束の態様(何をどうするのか)、開始の日時、予定している期間、3要件を満たすと判断した理由、本人や家族への説明の状況。
態様は具体的に書きます。「ベッド柵」ではなく「ベッドの4方向に柵を設置し、自力での離床ができない状態とする」。何がどう制限されるのかが分かる形にします。
3要件の理由は、要件ごとに分けて書きます。切迫性なら、過去にどんな事象が何回あったか。非代替性なら、何を試してどうだったか。一時性なら、いつまでとしていつ再検討するか。3つを1つの文にまとめないのが要点で、まとめると後から見たときにどの要件の説明か分からなくなります。
予定している期間は、必ず日付で書きます。「当面の間」「状態が改善するまで」では、一時性を満たしていないと見られます。日付が入っているかどうかが、そのまま要件の証拠になります。
説明の状況は、いつ、誰に、どう説明し、どういう反応だったかを書きます。緊急でその場で説明できなかった場合は、その旨と、いつ説明したかを残します。
毎日の経過観察に書くこと
ここが続かなくなる部分です。書く量を絞らないと、必ず途中で止まります。
毎日残すのは4つです。実施した時間帯、その間の心身の状況、解除を試みたかどうか、記録した職員。
心身の状況は、見たことを書きます。表情、言動、拘束している部位の状態。拘束している部位は必ず見ます。発赤、むくみ、痛みの訴え、しびれ。ここを見ずに日が過ぎると、身体的な影響に気づくのが遅れます。
短くても、必要な要素が入っていれば足ります。書き方の例を挙げます。
> 9月17日。20時00分から翌6時30分まで柵4点。表情は穏やか。22時ごろ「トイレに行きたい」との訴えあり、柵を外して誘導、5分後に戻る。柵の接触部位に発赤なし。夜間の起き上がり2回。記録者:◯◯
「異常なし」だけで終わらせないのが要点です。何も無かった日でも、表情と部位の状態は書きます。同じ文言が何日も並んでいる記録は、見ていないのではないかと疑われます。
解除を試みた記録があると、一時性の説明が強くなります。「トイレ誘導の際に柵を外した」「日中は柵を2点に減らして様子を見た」。外した時間が記録にあること自体が、続ける前提で漫然と行っていないことの証拠になります。
経過観察で見落とされやすい3点
毎日書いていても、書かれていない項目が決まっています。指導でも指摘されやすい部分です。
1つ目が、拘束していない時間帯です。「20時から6時30分まで」と書いてあれば、日中は外していることが分かります。逆に、時間帯の記載が無いと、24時間ずっと続けているように読めます。外している時間を書くことが、そのまま一時性の説明になります。
2つ目が、食事や排泄の際の対応です。その時間は必ず外しているはずですが、記録に出てこないことがあります。「食事のため9時から9時40分まで解除」と1行あるだけで、生活が制限されきっていないことが伝わります。
3つ目が、本人の訴えです。「外してほしい」と言われたなら、それは記録します。言われたのに書いていないと、聞いていなかったことになります。訴えがあったうえで、どう対応したかまで書きます。
この3つは、いずれも拘束を弱める方向の情報です。書かないと、記録の上では24時間ずっと縛っているように見えてしまいます。実際にやっていることを、そのまま残すだけで印象が変わります。
再検討の記録
期限が来たら、続けるか外すかを検討します。その記録が3つ目です。
書くのは4つです。検討した日、検討に参加した人、現在の状態と、開始時からの変化、結論(解除/継続/方法の変更)。
検討に参加した人は、複数名を書きます。1人の名前しか無いと、組織として判断したことになりません。看護職、介護職、管理者など、職種が分かる形にしておくとなお良くなります。
継続する場合は、なぜまだ必要なのかを改めて書きます。「状態が変わらないため継続」では足りません。開始時に挙げた3要件が、いまも満たされているかを見直した形で書きます。
方法の変更も選択肢に入れます。4点柵を3点にする、夜間だけにする、時間を短くする。段階的に弱めていく記録が残っていると、解除に向けて動いていることが示せます。
解除した場合は、解除した日時とその後の状態を残します。解除して何も起きなければ、その事実が次の判断の材料になります。
誰が書き、誰が見るのか
記録は書くだけでなく、見る人が決まっていないと止まります。
書くのはその場にいた職員です。夜勤帯が抜けやすいので、シフトごとに担当を決めます。1人夜勤の事業所では、朝の申し送りの前に書く、と時間まで決めておくと確実です。
見るのは管理者かユニットリーダーです。週に1回でよいので、抜けが無いかと、内容が同じ文言の繰り返しになっていないかを見ます。ここで気づけば、月末に慌てずに済みます。
検討するのは委員会です。再検討の時期が来たものを議題に上げ、解除・継続・変更を決めます。委員会の運営は身体拘束適正化委員会にまとめました。
3つの役割が分かれていることが大事です。書いた人が続けるかどうかを決める形になっていると、判断が現場の都合に流れます。組織として決める仕組みが、拘束を長引かせない歯止めになります。
新しく入った職員には、記録の書き方を最初に教えます。拘束をしている利用者がいる事業所では、入って数日で書く場面が来ます。様式の見本を1枚見せるのがいちばん早く伝わります。
続けられる形にする
記録が止まる原因は、書く量と書く場所です。
書く量については、毎日の経過観察を1行で済む形にします。選択肢で選べる欄を増やし、自由記述は「特記」だけにします。時間帯、部位の状態、解除の有無。ここを選択式にすれば、書くのは特記の欄だけになります。
書く場所については、介護記録とは別のつづりにします。日々の介護記録に混ぜると、あとから拘束の記録だけを追うのが難しくなります。実地指導では拘束の記録をまとめて見られるので、分けておくほうが出しやすくなります。
記録する人も決めておきます。夜勤帯の記録が抜けやすいので、誰が書くのかをシフトごとに決めます。書いていない日が1日でもあると、そこを指摘されます。
月に1度、抜けが無いかを確かめる日を作ります。月末にまとめて見ると、埋まっていない日が分かります。そのとき遡って書かないことが大事です。書けない日があったなら、その事実のまま残します。
実地指導で見られる順番
どこから見られるかが分かっていると、そろえる優先順位が決まります。
最初に見られるのは、拘束を行っている人がいるかどうかです。いる場合は記録一式を出します。いない場合でも、委員会と研修と指針の有無は見られます。
次に見られるのが、記録の連続性です。開始の記録があるのに経過観察が途中で止まっている、という形がいちばん見つかります。日付を追って抜けを探されるので、月ごとに揃っているかを自分で確かめておきます。
3つ目が、再検討が行われているかです。開始から3か月経っているのに再検討の記録が1件も無い状態は、一時性を満たしていないと見られます。
4つ目が、3要件の記載の具体性です。「転倒のおそれがあるため」だけで済ませていると、切迫性の説明として弱くなります。回数や状態を数字で書いてあるかを見られます。
出す前に自分で1回通して読むのが、いちばん確実な備えになります。抜けや矛盾は、読めば分かります。指導の連絡が来てから慌てるより、四半期に1度自分で読む時間を作るほうが楽になります。
保存の年数
記録をいつまで持つかです。
一般には、身体拘束に関する記録は、サービスの完結の日から2年間保存することとされています。ただし、市町村の条例で5年とされている場合があります。保険者によって運用が違う部分なので、自施設の年数を確かめておく必要があります。
起算日にも注意が要ります。「サービスの完結の日から」なので、拘束を解除した日ではなく、その方へのサービス提供が終わった日が起点になります。在籍している間はずっと持っていることになります。
介護の書類は種類によって年数が違うため、まとめて整理しようとすると事故が起きます。書類ごとの年数は介護の書類の保存期間にまとめました。
紙か電子か
記録の量が多いので、電子化を考える場面が出てきます。どちらにも向き不向きがあります。
紙の利点は、その場で書けることです。居室で見たことを、戻る前に書けます。選択式の欄にチェックを入れるだけなら、10秒で終わります。欠点は、集計と抜けの確認が手作業になることです。
電子の利点は、抜けが自動で分かることです。書いていない日が色で出る形にしておけば、月末に探す必要がありません。集計もできるので、拘束の総時間が減っているかどうかを数字で追えます。欠点は、端末が手元に無いと書けないことです。
現実的なのは、その場は紙で、あとで電子に転記する形です。二度手間に見えますが、転記の場面が確認の場面を兼ねるので、抜けに気づきやすくなります。
どちらにしても、後から書き換えられない形にしておくことが要ります。電子の場合は入力した日付が残るように、紙の場合は鉛筆を使わないように。記録の信頼は、書き換えられないことで担保されます。
介護記録全体をどう残すかは介護記録の書き方にまとめました。
まとめ
身体拘束の記録は、態様と時間、心身の状況、やむを得なかった理由の3つが柱です。実務では開始時・毎日の経過観察・再検討の3つの場面に分かれ、続かなくなるのは毎日の経過観察の部分になります。
まず手を付けるなら、経過観察の欄を選択式にして1行で済む形にするところからです。次に、拘束の記録を介護記録とは別のつづりにすると、実地指導のときにすぐ出せます。
記録は、拘束を正当化するために書くものではありません。外すための材料として書くと考えると、何を残せばよいかが決まります。外した時間、訴え、部位の状態。どれも解除に近づくための情報です。
なお、記録として求められる内容や保存の年数は、サービスの種類や保険者によって運用が異なります。最終的な判断は、所在地の市区町村の介護保険担当課や都道府県の指導監査部門にご確認ください。
身体拘束の記録は、量が多いぶん形で勝負が決まります。毎日の欄を1行にして、書く人と見る人を決める。この2つが回っていれば、止まりません。
記録が続いている事業所は、たいてい様式が軽いです。書く量を減らすことが、記録を守ることになります。
よくある質問
記録には何を書けばよいのですか。
態様および時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由の3つが求められるとされています。実務ではこれを開始時・経過観察・再検討の3つの場面に分けて残します。
経過観察は1行でもよいですか。
選択式の欄をそろえておけば、自由記述は特記だけで足ります。書く量を減らすことが、記録を続けることにつながります。
毎日書かないといけませんか。
拘束を行っている間は、その状況を記録として残す必要があります。書いていない日があると、そこを指摘されます。
「異常なし」だけでもよいですか。
同じ文言が並んでいる記録は、見ていないのではないかと疑われます。表情と拘束部位の状態は、何も無い日でも書きます。
解除を試した記録は必要ですか。
必要です。外した時間や、解除を試みてどうだったかが残っていると、一時性の説明になります。続ける前提で漫然と行っていないことの証拠にもなります。
記録を忘れた日は遡って書いてよいですか。
遡って書くのは避けます。書けなかった事実のまま残すほうが、記録全体の信頼を損ないません。
書くのは誰ですか。
その場にいた職員が書きます。夜勤帯が抜けやすいのでシフトごとに担当を決め、週に1回は管理者が抜けを確かめる形にしておくと止まりません。
保存は何年ですか。
サービスの完結の日から2年とされていますが、市町村の条例で5年とされている場合があります。自施設の保険者に確かめます。
予定期間は「当面の間」でもよいですか。
日付で書きます。期間が入っていないと一時性を満たしていないと見られます。期限が来たら再検討し、続けるなら理由を改めて記録します。
介護記録と一緒に書いてもよいですか。
書くこと自体は問題ありませんが、あとから拘束の記録だけを追うのが難しくなります。別のつづりにしておくほうが、実地指導のときに出しやすくなります。