高齢者虐待防止措置|指針・委員会・研修の3点
目次
高齢者虐待防止の取り組みは、身体拘束と並んで求められている手続きです。ところが「うちで虐待は起きていない」という前提から、指針も委員会も研修も無いまま過ぎている事業所があります。
この記事では、何が求められているのか、虐待の類型にはどんなものがあるのか、そして気づいたときにどう動くのかを整理します。起きていない事業所でも手続きが要るという点から書きます。
結論:求められているのは指針・委員会・研修・担当者の4点
高齢者虐待防止措置とは、介護サービス事業者が虐待の発生またはその再発を防止するために講じることとされている取り組みのことです。
一般には、次の4つが求められているとされています。虐待防止のための指針の整備、虐待防止のための委員会を定期的に開催し結果を職員に周知徹底すること、研修を定期的に実施すること、これらを適切に実施するための担当者を置くこと。
ポイントはここです。虐待が起きているかどうかとは関係なく、この4つが求められます。行っていない場合、高齢者虐待防止措置未実施減算の対象になることがあります。身体拘束の側とまったく同じ構造です。
記録として残すのは、指針そのもの、委員会の議事録、研修の記録、そして担当者を決めた記録の4つです。4つが1つのファイルに入っていれば、指導のときにそれを出すだけで済みます。
4つ目の担当者を置くことが、身体拘束の側には無い要素になります。誰が担当かを決めて、記録に残しておきます。
虐待の5つの類型
「虐待」という言葉が強いため、自分たちには関係ないと感じてしまいます。まず範囲を押さえます。
高齢者虐待防止法では、養介護施設従事者等による高齢者虐待として5つの類型が挙げられているとされています。
身体的虐待は、暴力を加えることのほか、正当な理由なく身体を拘束することも含まれます。介護等放棄は、必要な介護を著しく怠ることです。心理的虐待は、著しい暴言や拒絶的な対応など、心理的外傷を与える言動。性的虐待、そして経済的虐待として、財産を不当に処分することなどが挙げられています。
現場で意識されにくいのが、心理的虐待と、身体的虐待に含まれる不適切な身体拘束です。強い口調での制止、無視、子ども扱いする言葉づかい。「そんなつもりはなかった」で済まないのが、この分野の難しいところになります。
だからこそ、指針と研修で「どこからが該当するのか」を共有しておく意味があります。言葉にして共有されていないと、人によって基準がばらばらになります。
不適切なケアとの境目
虐待と呼ぶほどではないが、望ましくない関わり。これを不適切なケアと呼んで、早い段階で扱う考え方が広がっています。
境目は連続していて、明確な線はありません。呼び方が雑になる、待たせる時間が長くなる、声かけが減る。こうしたことが積み重なった先に、虐待として扱われる状態があります。
手前で拾うほうが、はるかに直しやすくなります。虐待として扱う段階になると、行政への通報や調査が入り、職員の処分の話にもなります。その手前の「気になる関わり」の段階なら、研修や声かけで戻せます。
だから委員会の議題には、虐待の事案だけでなく「気になった関わり」を入れます。ここが上がってくる事業所は、結果として虐待が起きにくくなります。
指針に書くこと
指針は、施設としての考え方と手続きを文書にしたものです。一度作れば毎年書き直す必要はありません。
一般に盛り込むとされているのは、基本的な考え方、委員会その他の組織に関する事項、研修に関する事項、虐待等が発生した場合の対応方法、相談・報告体制、成年後見制度の利用支援、虐待等に係る苦情解決の方法、その他必要な事項といった項目です。
項目を並べると多く見えますが、自事業所に合わせて書き換えるのは相談・報告体制の部分だけで足ります。他は雛形の考え方を踏まえたうえで、自施設の言葉に直す程度で構いません。
雛形をそのまま使うだけにしないのが要点です。相談・報告体制の部分には、自事業所の実際の連絡先と流れを書きます。誰に言えばよいのか、その人が不在のときはどうするのか。ここが具体的でないと、いざというときに使えません。
作った指針は職員がいつでも見られる場所に置きます。ファイルの奥にあると、存在自体が知られないまま過ぎます。
委員会の開き方
虐待防止委員会は、身体拘束適正化委員会とほぼ同じ形で運営できます。一体的に開催してよいとされている場合があるので、まとめて開いている事業所が多くあります。
議題は5つの型で回せます。気になった関わりの共有、ヒヤリハットや苦情からの振り返り、研修の計画と実施の確認、職員のストレスや体制の状況、指針の見直しの要否。
4つ目を議題に入れているのが、この委員会の特徴です。虐待の背景には、職員の負担や人員の不足があることが多いとされています。個人の資質の問題として扱うと、原因に届きません。
議事録に残すのは、身体拘束の側と同じです。日時、場所、出席者(氏名と職種)、議題、検討の内容と結論、次回までにやること。周知した記録まで残します。
研修をどう組むか
研修は、定期的に実施することと、新規採用時に実施することが求められるのが一般的です。
内容として扱いたいのは3つです。虐待とは何か(5つの類型と、不適切なケアとの連続性)、自事業所での相談・報告の流れ、通報の仕組み。
3つ目を入れておくのが大事です。虐待を発見した場合、市町村へ通報することが求められる仕組みがあります。通報した職員が不利益を受けないよう保護される規定もあるとされています。ここを知らないと、気づいても誰にも言えません。
やり方は、外部の研修に出すだけでなく、内部で事例を使う形が効きます。自事業所で実際にあった「気になった関わり」を、名前を伏せて題材にする。一般論より、はるかに自分ごとになります。
参加できなかった職員へのフォローまで記録します。資料を渡して読んでもらい、確認印をもらう形でも構いませんが、やった事実が残っていることが要ります。
言葉づかいから見直す
心理的虐待は、日々の言葉づかいの延長線上にあります。ここは研修で扱いやすく、効果も出やすい部分です。
見直したいのは3つです。子ども扱いの言葉(「おむつ替えようね」「お利口さん」)、命令の言い方(「座って」「待って」)、否定から入る返し(「だめです」「またですか」)。
置き換えは難しくありません。「座って」を「こちらにおかけになりませんか」に、「だめです」を「いまは難しいので、◯分後にいたします」に。同じ内容でも、受け取り方がまったく変わります。
やり方としては、研修で自分の言葉を書き出してもらうのが効きます。1日で使った声かけを思い出して紙に書くと、自分の癖に気づきます。人から指摘されるより、自分で気づいたほうが直ります。
忙しい時間帯ほど言葉が短くなります。言葉づかいの問題は、体制の問題として現れることが多いという見方も、あわせて持っておきます。
気づいたときにどう動くか
いちばん難しい場面です。流れを先に決めておかないと、気づいた人が抱え込みます。
1段階目が相談です。気になったことを、担当者か管理者に伝えます。確信が無くても構わない、という前提を指針に書いておきます。
2段階目が事実の確認です。組織として、何があったかを確かめます。当事者を問い詰める形にしないのが要点で、複数の職員から状況を聞き、記録を確かめます。
3段階目が判断と対応です。虐待にあたると判断される場合、市町村への通報が必要になります。あたらない場合でも、不適切なケアとして改善の対応を取ります。
通報をためらわないことが、結果的に事業所を守ります。隠して後から発覚したほうが、はるかに重く扱われます。通報の窓口は市町村なので、連絡先を指針に書いておきます。
相談を受けた人が1人で判断しないことも大事です。組織として確認する形にしておけば、受けた人の負担が偏りません。
対応の経過はすべて記録します。いつ、誰から、どういう相談があり、どう確認し、どう判断したか。この記録が、あとで組織として適切に動いたことの証拠になります。
家族による虐待に気づいたとき
事業所の職員による虐待とは別に、在宅の利用者について家族による虐待が疑われる場面があります。通所や訪問では、これに出会う可能性があります。
高齢者虐待防止法では、養護者による高齢者虐待についても、発見した場合の通報の仕組みが定められているとされています。生命または身体に重大な危険が生じている場合は、通報しなければならないとされる規定もあります。
気づくきっかけは、あざや傷、着衣や居室の状態、本人の言動の変化、家族の言葉づかいなど、さまざまです。確信が持てなくても、気づいたことは記録に残します。日付、見たこと、本人の様子。判断は組織とケアマネジャー、市町村で行います。
職員が1人で抱えないことがいちばん大事です。訪問系では1人で気づく形になるため、持ち帰って共有する道筋を決めておきます。管理者が不在のときに誰へ連絡するかまで決めておくと、時間を空けずに動けます。
家族との関係を壊すことを恐れて黙っていると、状況が進みます。通報は家族を責めるためのものではなく、支援につなげるための入口として位置づけられています。
職員を追い込まない仕組み
虐待の背景には、職員の側の事情があることが少なくありません。ここに目を向けないと、同じことが繰り返されます。
3つとも、個人の努力では変えられないものです。委員会でこの話ができるかどうかが、この仕組みが形だけで終わるかの分かれ目になります。
見ておきたいのは3つです。人員の状況(慢性的に足りていないか)、特定の職員に負担が集中していないか、相談できる相手がいるか。
個人の資質の問題として処理すると、原因が残ります。その職員が辞めても、同じ状況に置かれた次の人が同じことをします。委員会で体制の話を議題にできるかどうかが、この仕組みが機能するかの分かれ目になります。
職員が相談できる窓口も作っておきます。「自分の関わり方に不安がある」と言える場所があると、手前で止まります。
身体拘束の取り組みと1本にする
虐待防止と身体拘束は、求められる手続きがほぼ同じです。別々に管理すると、二重の手間になります。
まとめられるのは3つです。委員会(一体的に開催してよいとされている場合がある)、研修(同じ回の中で両方を扱う)、ファイル(年度ごとに1冊にまとめる)。
分けておくのは議事録と記録です。まとめて1本にすると、どちらの委員会で何を話したかが追えなくなります。同じ日に開いても、議事録は2本作ります。
指針も別の文書として作ります。盛り込む項目が違うためで、1つにまとめようとすると、どちらも中途半端になります。
担当者は兼ねて構いません。むしろ、同じ人が両方を見ているほうが、身体拘束の判断と虐待防止の視点がつながります。不適切な身体拘束は、身体的虐待に含まれるとされているので、もともと地続きの話です。
年度末の振り返りも一緒にやります。拘束の件数、気になった関わりの件数、研修の実施回数。同じ表で追えるようにしておくと、翌年度の計画が1回で立ちます。
まとめ
高齢者虐待防止措置として求められるのは、指針の整備、委員会の定期開催と周知、研修の実施、担当者の配置の4つです。虐待が起きているかどうかとは関係なく必要で、行っていない場合は減算の対象になることがあります。
まず手を付けるなら、担当者を決めて記録に残すところからです。次に、身体拘束の委員会と一体的に開く形にすると、集まる回数を増やさずに始められます。
虐待という言葉は重いのですが、手続きそのものは身体拘束と同じ形です。構えるより、まず担当者を決めて1回開くところから始めるのが現実的です。
なお、求められる措置の内容、委員会を一体的に開催してよいか、通報の窓口や手続きは、サービスの種類や保険者によって運用が異なります。最終的な判断は、所在地の市区町村の介護保険担当課や都道府県の指導監査部門にご確認ください。
虐待防止の手続きは、身体拘束とほぼ同じ形で回せます。委員会・研修・ファイルをまとめて、議事録と指針だけ分ける。この形にしておけば、手間は2倍になりません。
よくある質問
虐待が起きていなくても手続きは必要ですか。
必要とされています。指針・委員会・研修・担当者の4つが求められ、行っていない場合は減算の対象になることがあります。
身体拘束の委員会と一緒に開いてよいですか。
一体的に開催してよいとされている場合があります。議題と議事録は分けて残します。扱いは保険者によって異なるため確かめます。
言葉づかいも対象になりますか。
著しい暴言や拒絶的な対応は心理的虐待として挙げられています。子ども扱いの言葉や命令の言い方は、その手前の不適切なケアとして研修で扱う価値があります。
担当者は誰にすればよいですか。
決まりはありませんが、指針や研修を実際に動かせる立場の人が向いています。決めたことを記録に残しておきます。
不適切なケアは虐待ですか。
境目は連続していて明確な線はありません。虐待として扱う段階の手前で拾うほうが直しやすいため、委員会で「気になった関わり」として扱う形が取られます。
通報すると事業所が不利になりませんか。
隠して後から発覚したほうが重く扱われます。通報した職員が不利益を受けないよう保護される規定もあるとされています。
家族による虐待に気づいたときはどうしますか。
養護者による虐待についても通報の仕組みが定められているとされています。確信が持てなくても記録に残し、組織とケアマネジャー、市町村で判断します。職員が1人で抱えない道筋を先に決めておきます。
研修は何を扱えばよいですか。
虐待とは何か、自事業所の相談・報告の流れ、通報の仕組みの3つです。自事業所であった事例を名前を伏せて題材にすると、一般論より伝わります。