身体拘束と虐待防止基礎(ピラー)2025.09.08 公開KS-01

身体拘束の3要件とは?切迫性・非代替性・一時性

目次

身体拘束は、現場でいちばん判断に迷う場面です。転倒を防ぐためにベッド柵を4点にする、点滴を抜いてしまうのでミトンをつける。どれも本人を守るつもりの行為なのに、身体拘束にあたるかどうかで扱いがまったく変わります。

この記事では、身体拘束とは何を指すのか、緊急やむを得ない場合の3要件がどういうものか、そして3つがそろわないときにどう考えるのかを整理します。判断の入口を作ることに重点を置いて書きます。

実際に記録に何を残すのかは、別にまとめています。→ 身体拘束の記録の書き方

結論:身体拘束は原則禁止。例外は3つがそろったときだけ

身体拘束とは、利用者の身体の自由を奪う行為のことです。介護保険の指定基準では、サービスの提供にあたって、原則として身体拘束その他の行動を制限する行為を行ってはならないとされています。

そのうえで例外が置かれています。利用者本人または他の利用者の生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合です。この「緊急やむを得ない場合」にあたるかどうかを判断するのが、切迫性・非代替性・一時性の3要件になります。

ポイントはここです。3つのうち1つでも欠けたら、身体拘束はできません。どれか2つで足りるものではなく、3つ全部がそろって、はじめて例外として認められる形になっています。

原則は禁止。例外は3つそろったとき原則身体拘束は行ってはならない例外緊急やむを得ない場合だけ手続き説明・記録・組織の判断も要る
原則禁止と、3要件がそろったときだけの例外という構造を示した層の図

さらに、3要件がそろってもそれだけでは足りません。手続きとして、本人や家族への説明、記録の作成、そして継続の必要性の検討が求められます。要件を満たすことと、手続きを踏むことは別のことです。

何が身体拘束にあたるのか

「うちはやっていない」と思っている施設でも、実際には該当する行為が残っていることがあります。まず範囲を押さえます。

一般に身体拘束として挙げられているものには、次のようなものがあります。徘徊しないように車いすやベッドに体幹や四肢を縛る。転落しないようにベッドに体幹や四肢を縛る。自分で降りられないようにベッドを柵で囲む。点滴や経管栄養のチューブを抜かないように四肢を縛る。手指の機能を制限するミトン型の手袋をつける。車いすからずり落ちないようにY字型の拘束帯や腰ベルトをつける。立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使う。脱衣やおむつ外しを制限するつなぎ服を着せる。他人への迷惑行為を防ぐためにベッドなどに体幹や四肢を縛る。行動を落ち着かせるために向精神薬を過剰に服用させる。自分の意思で開けることのできない居室などに隔離する。

身体拘束にあたる行為縛る囲む立ち上がりを妨げる出られない部屋に入れる行動の制限
身体拘束にあたる行為を、縛る・囲む・妨げる・閉じるの4つに分けた図

現場で見落とされやすいのが、ベッド柵居室の施錠です。柵を4点囲いにすると、自分で降りられなくなります。転落防止のつもりでも、囲って出られない状態にすれば拘束にあたります。

ベッド柵については、何点で囲うかで扱いが変わります。片側だけ、あるいは乗り降りする側を開けている形なら、降りる自由は残ります。4点で囲って出られなくすれば拘束にあたります。転落防止と行動制限の境目がここにあります。

もう1つが言葉による行動の制限です。「立たないでください」と繰り返し制止する、立ち上がろうとするたびに座らせる。物理的に縛っていなくても、行動を制限している点では同じ性質を持ちます。スピーチロックと呼ばれることがあります。

判断に迷う行為は、迷った時点で委員会の議題に上げます。個人の判断で「これは拘束ではない」と決めないのが要点です。

1つ目の要件:切迫性

切迫性とは、利用者本人または他の利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いことを指します。

判断するときに見るのは2つです。危険の程度と、危険が生じる可能性の高さです。「転ぶかもしれない」では足りません。転んだ場合に生命や身体に重大な影響が及ぶ可能性が著しく高い、という状態が求められます。

切迫性は程度と可能性で見る成り立つ1か月に3回転倒1回は頭部を打った立ち上がりに支えが要る数字で書ける成り立たない転ぶかもしれない夜間は人が少ない体制の問題は別
切迫性の判断を、危険の程度と可能性の高さの2軸で見る図

ここでよくあるのが、職員の手が足りないことを切迫性に読み替えてしまう形です。夜間に人が少ないから危ない、というのは体制の問題であって、本人の状態から生じる切迫性ではありません。要件としては成立しません。

書くときは、具体的な事実で示します。「転倒のおそれがある」ではなく「過去1か月に3回の転倒があり、うち1回は頭部を打っている。歩行時にふらつきがあり、立ち上がりの際に支えが必要な状態」。何がどれだけ起きているかを数字で書けるなら、切迫性の説明は強くなります。

2つ目の要件:非代替性

非代替性とは、身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないことを指します。

ここがいちばん厳しい要件です。「他に方法がない」と言うためには、他の方法を試したという事実が要ります。試していないのに「他に方法がない」とは言えません。

試した記録があってはじめて立つ1試すセンサー・低床・マット2記録する2週間使ってどうだったか3説明できる他に方法がないと言える
代替手段を試した記録があってはじめて非代替性が立つことを示したフロー

試す方法の例としては、ベッドの高さを下げる、床にマットを敷く、離床センサーを置く、居室の配置を変える、日中の活動を増やして夜間の睡眠を整える、排泄のタイミングに合わせて声をかける、といったものが挙げられます。

何を試して、どうだったかを記録に残します。「センサーを2週間使用したが、反応してから駆けつけるまでに転倒するケースが2回あった」。ここまで書けて、はじめて非代替性の説明になります。

あわせて、より制限の少ない方法を選ぶという考え方も含まれます。同じ目的を達成できるなら、柵で囲うよりセンサーのほうが制限は小さくなります。いきなりいちばん強い手段を選ばない、という判断が求められます。

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3つ目の要件:一時性

一時性とは、身体拘束その他の行動制限が一時的なものであることを指します。

大事なのは、「一時的」に決まった日数があるわけではないという点です。1週間ならよい、1か月は長い、という線引きではありません。必要がなくなった時点で解除する、という考え方です。

期限を決めて始める開始いつまでと日付で決める期限委員会で再検討する段階的に4点を3点、夜間だけへ解除必要が無くなった時点で日数の定めはない。始めたまま見直されないのが問題になる
開始から解除までを、期間の定めではなく再検討で区切る時系列の図

そのため、いつまでという期限を決めて始めるのが実務の形になります。「◯月◯日までとし、その時点で再検討する」。期限が来たら委員会などで検討し、続けるなら続ける理由を改めて記録します。

いちばん避けたいのが、始めたまま見直されない状態です。3か月前に始めた拘束が、誰も疑問を持たないまま続いている。これは一時性を満たしていないことになります。

解除に向けた検討の記録も残します。「日中の離床時間を増やしたところ、夜間の起き上がりが減った。来週から柵を3点に変更して様子を見る」。段階的に外していく過程が見えると、一時性の説明になります。

3つを1枚の判断シートにする

要件を頭で覚えていても、実際の場面では抜けます。判断の場で使う1枚を作っておくと、議論が早く終わります。

書く欄は5つです。対象になる行為(何をするのか)、切迫性(どんな危険が、どれだけの可能性で)、非代替性(何を試して、どうだったか)、一時性(いつまでとするか、いつ再検討するか)、結論(行う/行わない)。

1枚に収めるのがこつです。欄が多いと、急ぐ場面で開かれません。

この形にしておくと、どの要件が弱いかがその場で見えます。非代替性の欄が埋まらないなら、まだ試していないことがあるということです。一時性の欄に日付が入らないなら、期限を決めずに始めようとしているということになります。

結論が「行わない」になった場合も、同じシートを残します。検討した記録があることが、あとで効きます。

シートは委員会の議事録に添付します。あとから「なぜこの判断になったか」を追えるようにしておくと、担当者が変わっても判断の基準が引き継がれます。

3つそろっても、手続きが要る

要件を満たしただけでは足りません。手続きが3つあります。

1つ目が、本人や家族への説明と同意です。なぜ必要なのか、どういう方法で、どのくらいの期間行うのかを説明し、記録に残します。緊急でその場で説明できない場合も、できるだけ早く説明します。

2つ目が、記録の作成です。態様と時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録することとされています。ここを怠ると減算の対象になります。詳しくは身体拘束の記録の書き方にまとめました。

3つ目が、組織としての判断です。個人ではなく、委員会などの場で検討して決めます。身体拘束適正化委員会で分けて書きました。

家族から「縛ってほしい」と言われたとき

実務で難しいのが、家族のほうから拘束を求められる場面です。「転んでけがをするくらいなら縛ってほしい」という申し出は、決して珍しくありません。

このとき、家族の同意があれば拘束してよい、とはなりません。3要件を満たすかどうかの判断は、家族の希望とは別に行います。同意は手続きの一部であって、要件そのものではないからです。

ここを説明できないと、家族には「施設が手を抜いている」と映ります。制度としてできないことと、こちらがやらないことは違うと伝わる言い方をします。

伝え方としては、断るのではなく、代わりに何をするかを示します。「縛ることはできません」で終わると、見捨てられたように受け取られます。「柵で囲うことはできませんが、床にマットを敷き、センサーを置いて、夜間の訪室を増やします」と、具体的に置き換えます。

そのうえで、心配の中身を聞きます。転倒そのものを心配しているのか、けがをしたときに連絡が遅れることを心配しているのか。後者なら、連絡の体制を説明するほうが安心につながります。

話した内容は記録に残します。家族の申し出と、施設として説明した内容、そして代わりに行うこと。あとで事故が起きたときに、この記録が双方を守ります。

3つがそろわないときにどうするか

現場でいちばん悩むのが、危ないのに要件を満たさない場面です。

このときは、拘束しないという判断になります。そのうえで、危険を下げる別の手を打ちます。環境を変える、見守りの回数を増やす、日中の過ごし方を見直す、医師や家族と状態について相談する。

「拘束しない」と決めたことも記録に残します。検討したうえで行わなかった、という記録があると、何もしていなかったのではないことが示せます。事故が起きた場合にも、判断の過程を説明できます。

体制が原因で危険が下げられないなら、それは体制の課題として別に扱います。人が足りないことを拘束で埋めないというのが、この制度の考え方の中心にあります。

記録を怠ると減算になる

手続きの部分は、報酬に直接つながっています。ここを知らずに運用している施設があります。

一般には、身体拘束廃止未実施減算という仕組みが置かれているとされています。身体拘束を行っていたかどうかではなく、求められている手続きを行っていない場合に減算の対象になる、という点が要点です。

減算は手続きの不備にかかる減算になる委員会を開いていない指針が無い研修をしていない拘束ゼロでも対象減算の理由ではない拘束を行ったこと自体要件と手続きを満たせばよい
減算になるのは拘束の有無ではなく手続きの不備であることを示した比較の図

求められる手続きとして挙げられているのは、記録の作成、委員会の定期的な開催とその結果の周知、指針の整備、研修の定期的な実施です。身体拘束を1件も行っていない施設でも、委員会や研修を行っていなければ対象になります。ここが誤解されやすい部分になります。

減算は基本報酬に対してかかるため、影響は小さくありません。しかも、気づかないまま何か月も続くことがあります。

対象や割合、具体的な要件は制度改正で変わることがあります。自施設のサービス種別で何が求められているかは、所在地の市区町村の介護保険担当課や都道府県の指導監査部門にご確認ください。

まとめ

身体拘束は原則として禁止されており、切迫性・非代替性・一時性の3つがすべてそろった緊急やむを得ない場合にだけ例外が認められます。3つそろっても、説明・記録・組織としての判断という手続きが別に要ります。

まず手を付けるなら、いま行っている行為の中に該当するものが無いかを洗い出すところからです。ベッド柵の4点囲いと居室の施錠は見落とされやすい部分になります。次に、非代替性を示すために「何を試したか」を残す形にすると、判断の根拠がそろいます。

この制度の中心にあるのは、人が足りないことを拘束で埋めないという考え方です。そこを外さなければ、個々の判断はだいたい正しい方向に落ちます。

なお、該当するかどうかの判断や、記録として求められる内容は、サービスの種類や保険者によって運用が異なることがあります。最終的な判断は、所在地の市区町村の介護保険担当課や都道府県の指導監査部門にご確認ください。

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実際に使える様式が必要な方へ

身体拘束の指針や経過観察記録のExcel様式は、商い屋の介護向けのページにあります。委員会で使う様式もそろっています。

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3要件は、覚えるだけなら3つの言葉です。難しいのは、目の前の場面に当てはめることのほうです。判断シートを1枚作って、迷ったらそこに書き出す。これだけで、議論がぐっと具体的になります。

よくある質問

3要件のうち2つしか満たさない場合はどうなりますか。

身体拘束はできません。3つすべてがそろって、はじめて緊急やむを得ない場合として認められる形になっています。

ベッド柵は身体拘束にあたりますか。

自分で降りられないように囲む形は該当するとされています。転落防止の目的であっても、囲って出られない状態にすれば拘束にあたります。

向精神薬も身体拘束にあたりますか。

行動を落ち着かせる目的で過剰に服用させる形は、身体拘束として挙げられています。処方の必要性そのものとは分けて考える必要があるため、医師と相談しながら検討します。

「一時的」とは何日までですか。

日数の定めはありません。必要がなくなった時点で解除するという考え方です。期限を決めて始め、その時点で再検討する運用が取られます。

言葉で制止するのも拘束ですか。

物理的に縛っていなくても、行動を制限している点では同じ性質を持ちます。スピーチロックと呼ばれ、見直しの対象として扱われます。

人手が足りないことは切迫性になりますか。

なりません。体制の問題であって、本人の状態から生じる切迫性ではないため、要件としては成立しません。

家族から縛ってほしいと言われたら。

家族の同意があっても、3要件を満たさなければ拘束はできません。断るだけでなく、代わりに何をするかを具体的に示し、話した内容を記録に残します。

身体拘束をしていなくても減算になりますか。

手続きを行っていない場合は対象になるとされています。委員会の開催、指針の整備、研修の実施が求められるため、拘束が1件も無い施設でも必要です。

判断に迷う行為はどうすればよいですか。

個人の判断で決めず、委員会の議題に上げます。迷った時点で組織として検討するのが要点です。