家族への事故の説明|伝える順番と記録の残し方
目次
家族への事故の説明は、書類の仕事ではなく人と話す仕事です。そのぶん、経験の差がそのまま出ます。同じ事故でも、最初の電話のかけ方ひとつで、そのあとの関係がまったく違うものになります。
この記事では、いつ誰が連絡するのか、何をどの順番で伝えるのか、そして話した内容をどう記録に残すのかを整理します。謝るか謝らないかという話ではなく、伝わる順番の話として書きます。
結論:最初の電話は「起きたこと」と「いまの状態」だけでよい
家族への事故の説明で、最初の連絡がいちばん大事になります。そしてこの時点で伝えることは、実は多くありません。
起きたこと、いまの状態、これからどうするか。この3つです。原因の分析も、再発防止策も、この時点では固まっていません。無理に話すと、あとで訂正することになります。
ポイントはここです。家族が最初に知りたいのは「いま大丈夫なのか」であって、なぜ起きたかではありません。順番を間違えて経緯から話し始めると、聞いている側は状態が分からないまま不安が増していきます。
いつ連絡するのか
分かった時点で連絡するのが基本です。受診の結果を待ってからにしようとして数時間空くと、その空白が問題になります。
実務では2段階で動きます。1段階目が第一報で、事故を把握した直後。2段階目が結果の報告で、受診の結果が出た時点です。
「大したことがないから明日でいい」と判断しないのが要点です。軽く見えたけがが翌日に腫れることがあります。連絡していなかった場合、翌日の説明が「昨日のことですが」から始まることになり、なぜすぐ言わなかったのかという話が先に立ちます。
夜間や早朝に迷う場面もあります。判断の目安としては、受診した場合は時間を問わず連絡する、受診していない場合は状態を見て翌朝の連絡でもよい、という線を社内で決めておくと現場が迷いません。
誰が連絡するのか
決めておかないと、現場が管理者を待つことになります。
一般的なのは、管理者か相談員が連絡する形です。ただし夜間や休日は管理者がいません。そのときに誰がかけるのかまで決めておきます。当直の職員がかける場合、伝える範囲も決めておきます。状態の報告までにして、詳しい説明は翌日の管理者からにする、という形です。
連絡先も確かめておきます。緊急連絡先が複数登録されている場合、どの順でかけるのか。登録が古いまま使われていないことがあるので、年に1度は確認します。
伝える順番を固定する
慌てている場面なので、順番を決めておくと落ち着いて話せます。5段階です。
1つ目、名乗って要件を先に言う。「◯◯施設の◯◯です。◯◯様のことでご連絡しました。いま少しお時間よろしいでしょうか」。ここで用件が事故だと分かる形にします。
2つ目、いまの状態から言う。「意識ははっきりされていて、会話もできています」。ここを最初に言うと、聞いている側の緊張がいったん下がります。
3つ目、何が起きたかを簡潔に。「本日10時40分ごろ、居室でベッドから立ち上がられた際によろけて、床頭台に右腕をぶつけられました」。
4つ目、いま何をしているか、これからどうするか。「看護師が確認し、腫れがあるため、これから◯◯整形外科を受診します」。
5つ目、次の連絡の約束。「受診の結果が分かり次第、改めてご連絡します」。
3つ目を先に話し始めるのが、いちばんよくある失敗です。経緯から入ると、聞いている側は結局どうなったのかが分からないまま話が長くなります。不安な時間が延びるほど、そのあとの説明が入らなくなります。経緯から入ると、聞いている側は結局どうなったのかが分からないまま話が長くなります。
言い方で気をつけること
事実は事実として伝えます。そのうえで、言い方には気をつける部分があります。
推測で断定しない。「立ち上がろうとして転倒されたようです」と、見ていないことを見たように言わない。「発見したときには床に座っておられました」と、見たとおりに伝えます。
他の職員や他の利用者のせいにしない。「職員が別の対応をしていて」と言うと、体制の話に広がります。事実として必要なら伝えますが、責任の所在を最初の電話で話す必要はありません。
分からないことは分からないと言う。「原因はこれから確認します」で構いません。その場を収めるために推測を答えると、あとで訂正することになります。
謝罪については、施設の方針によります。状態への気遣いを伝えることと、法的な責任を認めることは別です。「ご心配をおかけして申し訳ありません」と「私どもの過失です」は違います。どこまで言うかを社内で決めておくと、現場が迷いません。
相手によって伝え方を変える
同じ内容でも、相手によって受け取り方が違います。事前に知っておくと構えられます。
遠方に住んでいる家族は、状況が見えないぶん不安が大きくなります。「いまこういう状態で、こういう対応をしています」を具体的に伝えると落ち着きます。写真や書面での補足を求められることもあります。
普段からよく面会に来る家族は、施設の様子を知っているぶん、話が早い一方で「いつもと違う」ことに敏感です。普段の様子との違いを添えると伝わります。
キーパーソンが複数いる場合が、いちばん難しい形です。誰に伝えたかが記録に残っていないと、「自分は聞いていない」という話になります。連絡する順番と範囲を、契約の段階で決めておくのが確実です。
本人が説明を望まない場合もあります。認知症の程度によっては、本人への説明と家族への説明を分けて考えることになります。ここは一律の正解がないため、本人の意向と状態を記録に残したうえで、ケアマネジャーや保険者と相談しながら進めます。
話した内容を記録に残す
電話を切ったら、すぐ記録します。時間が経つと、言った言わないの話になったときに確かめられません。
書く場所も決めておきます。介護記録の中に混ぜると、あとから連絡の履歴だけを追うのが難しくなります。家族への連絡だけを時系列で追える欄を別に持たせておくと、説明を求められたときにすぐ出せます。
残すのは5つです。連絡した日時(分まで)、連絡した相手(続柄と氏名)、連絡した職員、伝えた内容、相手の反応。
5つ目を書いておくのが効きます。「『次は気をつけてほしい』とのお話があった」「『すぐ知らせてもらえてよかった』とのお言葉があった」。相手の言葉をそのまま書きます。評価は入れません。「ご納得いただけた」は、こちらの受け取り方であって事実ではありません。
つながらなかった場合も記録します。「17時00分、長男◯◯様へ架電、応答なし。留守番電話にメッセージを残した」。連絡を試みた事実が残っていることが大事です。
後日の説明で話すこと
第一報のあと、原因と再発防止策が固まった時点で改めて説明する場面があります。
ここで話すのは3つです。なぜ起きたと考えているか、何を変えるか、いつから変えるか。原因は、本人の状態・職員の動き・環境・仕組みの4つに分けて説明すると伝わりやすくなります。
対策は具体的に言います。「見守りを強化します」ではなく「床頭台の位置を変え、10時台の訪室を1回増やします」。何が変わるのかが分かる形にします。
この場で出た要望も記録に残します。市町村へ報告する事故の場合、家族への説明の状況を報告書に書く欄があることが多いので、ここの記録がそのまま使えます。
施設に来てもらって話すとき
電話では収まらず、来所して話す場面があります。ここも準備で結果が変わります。
準備するのは4つです。場所(他の利用者や家族の目に触れない個室)、人数(こちらが多すぎると圧迫感が出るので2名程度)、資料(事故報告書、その前後の記録、受診の結果)、時間(区切りを最初に伝えておく)。
話す順番は電話と同じです。いまの状態から入り、経緯、対応、これからの順に進めます。資料は最初から全部広げません。求められた部分を出していくほうが、話が散らばりません。
記録は必ず取ります。日時、出席者、話した内容、相手の言葉、次に約束したこと。「次に何をいつまでにやるか」を口頭で終わらせないのが、いちばん大事な部分になります。その場で紙に書いて、双方で確認します。
こちらから約束したことは、期限までに必ず連絡します。対策が完了していなくても、途中経過を伝えます。連絡が途切れることが、いちばん信頼を損ないます。
関係が悪くなったときに効くこと
どれだけ丁寧にやっても、納得されない場面はあります。そのときに効くのは、日ごろの記録です。
事故の当日だけを見せても、状況は伝わりません。その前の数週間の記録があると、状態が変化していたこと、施設がそれに気づいて対応していたことが示せます。歩行が不安定になっていた、夜間の排泄が増えていた。日々の記録が、そのまま説明の材料になります。
だから、家族対応の質は、事故が起きる前の記録の質で決まります。丁寧に説明する技術より、日々の記録が残っていることのほうが効きます。記録の書き方は介護記録の書き方にまとめました。
記録の残し方をそろえる
家族への連絡は担当者によって書き方が変わりやすい部分です。様式でそろえます。
欄は5つにします。日時(分まで)、相手(続柄と氏名)、連絡した職員、伝えた内容、相手の言葉。ここに次に約束したことを足すと6つです。
6つ目を書いておくと、次の担当が動けます。「受診の結果が出たら本日中に連絡する」と書いてあれば、担当が交代しても約束が守られます。
書く場所は、介護記録とは別の欄にします。日々の記録に混ぜると、連絡の履歴だけを追うのが難しくなります。説明を求められたときに、その方への連絡だけを時系列で出せる形にしておきます。
苦情に発展したときの流れ
説明しても納得が得られず、苦情として扱うことになる場面があります。ここも先に道筋を決めておきます。
介護の事業所には、苦情を受け付ける窓口を設けることが求められているとされています。事故の説明の延長で担当者が抱え込まないよう、苦情として受ける形に切り替えるタイミングを決めておきます。
切り替えの目安は2つです。1つ目が、同じ説明を繰り返しても話が進まないとき。2つ目が、賠償や責任の話が出てきたときです。ここからは担当者個人ではなく、組織として対応する場面になります。
苦情として受けた場合は、受付の記録を残します。いつ、誰から、どういう内容で、誰が受けたか。そのあとの経過も時系列で残します。この記録は、市町村への報告や実地指導でも見られる部分になります。
あわせて、市町村や国民健康保険団体連合会などの相談窓口があることを、必要に応じて案内します。隠すよりも案内したほうが、結果的に話が前に進みます。
担当した職員の負担にも目を配ります。1人で抱えると疲弊します。複数人で対応する形にして、経過を共有しておくことが、職員を守ることにもつながります。
まとめ
家族への事故の説明は、最初の電話で「起きたこと・いまの状態・これからどうするか」の3つを伝えれば足ります。状態から先に言うのが要点です。原因と対策は、固まってから改めて説明します。
まず手を付けるなら、伝える5段階をメモにして電話機のそばに置くところからです。次に、夜間や休日に誰がかけるのかを決めておくと、現場が管理者を待たずに動けます。
事故そのものは防ぎきれないことがあります。そのあとの関係が壊れるかどうかは、防げます。最初の電話の順番と、約束を守ることの2つでほとんど決まります。
なお、謝罪の範囲や、市町村への報告が必要になる事故の扱いは、施設の方針や保険者によって異なります。最終的な判断は、所在地の市区町村の介護保険担当課や、契約している専門家にご確認ください。
家族への説明は、技術より段取りです。順番を決めて、記録を残して、約束を守る。この3つが回っていれば、多くの場面は収まります。
家族への説明は、話す技術より段取りで決まります。順番を決めて、記録を残して、約束した日に必ず連絡する。この3つが回っていれば、多くの場面は収まります。
よくある質問
いつ連絡すればよいですか。
分かった時点で連絡するのが基本です。受診した場合は時間を問わず、受診していない場合は状態を見て翌朝でもよい、という線を社内で決めておくと迷いません。
遠方の家族にはどう伝えますか。
状況が見えないぶん不安が大きくなるので、いまの状態と対応をより具体的に伝えます。書面での補足を求められることもあります。
最初の電話で原因まで説明するのですか。
しません。この時点では固まっていないので、「これから確認します」で構いません。推測で答えると、あとで訂正することになります。
謝ってもよいのですか。
状態への気遣いを伝えることと、法的な責任を認めることは別です。どこまで言うかは施設の方針によるため、社内で決めておきます。
連絡がつかないときはどうしますか。
かけた事実を記録に残します。時刻、相手、方法、結果。連絡を試みた記録が残っていることが、あとで効きます。留守番電話に残した場合はその旨も書きます。
キーパーソンが複数いるときはどうしますか。
連絡する順番と範囲を、契約の段階で決めておくのが確実です。誰に伝えたかが記録に残っていないと、「自分は聞いていない」という話になります。
連絡の記録はどこに残しますか。
介護記録とは別の欄にします。日々の記録に混ぜると、連絡の履歴だけを追うのが難しくなります。時系列で出せる形にしておきます。
相手の反応はどう書きますか。
言われた言葉をそのまま書きます。「ご納得いただけた」はこちらの受け取り方であって事実ではありません。
来所して話すときに気をつけることは。
場所は個室、こちらの人数は2名程度、資料は求められた部分から出す。そして次に何をいつまでにやるかを、その場で紙に書いて双方で確認します。
夜間に管理者がいないときは誰がかけますか。
決めておく必要があります。当直の職員がかける場合は、状態の報告までにして、詳しい説明は翌日の管理者からにする形が取りやすくなります。