事故とヒヤリハット手続き2025.07.30 公開JK-04

市町村への介護事故報告|対象と期限を解説

目次

市町村への事故報告は、施設の中で書く事故報告書とは別の手続きです。ところが現場では同じ「事故報告」という言葉で呼ばれるため、施設内の記録を書いたことで済ませてしまう形が起きます。

この記事では、市町村への報告がどういう性質のものなのか、どの事故が対象になるのか、いつまでに何を出すのかを整理します。範囲と様式は保険者によって運用が違うという前提のうえで、どこを確かめればよいかまで書きます。

施設内で書く事故報告書の書き方は別にまとめています。→ 介護事故報告書の書き方

結論:市町村への事故報告は「運営基準にもとづく義務」

市町村への事故報告とは、介護サービスの提供によって事故が発生した場合に、市町村へ連絡し、必要な措置を講じ、その記録を残すことが求められている手続きのことです。

一般には、各サービスの運営基準の中に「事故発生時の対応」として定められているとされています。施設の判断で出す・出さないを決めてよいものではありません。

ポイントはここです。施設内の事故報告書は、再発防止のために自分たちで作る書類です。市町村への報告は、制度として求められている届出にあたります。目的も、読む人も、様式も違います。

施設内の記録と、市町村への報告施設内の記録自分たちで作る再発防止のため様式は自由毎回書く市町村への報告運営基準にもとづく対象と期限がある様式は市町村のもの一定の事故だけ
施設内の報告と市町村への報告が別の流れであることを示した関係の図

そのうえで、実際に何を報告するかは市町村ごとに運用が違います。国が示した様式の例はありますが、細部の取り扱いは保険者に委ねられている部分があります。自施設がどこへ何を出すのかは、所在地の市区町村の介護保険担当課で確かめるのが確実です。

対象になる事故の考え方

「どこから報告するのか」がいちばん迷うところです。判断の軸は3つあります。

1つ目が、けがの程度です。医療機関で治療を受けた場合を目安にしている市町村が多くあります。骨折、縫合、入院といった形です。

2つ目が、死亡に至った場合です。ここは程度を問わず対象になるのが一般的です。

3つ目が、その他、市町村が定めたものです。食中毒や感染症の発生、職員による虐待が疑われる事案、利用者が所在不明になった場合など、けがとは別の枠で報告を求めている市町村があります。

対象を判断する3つの軸けがの程度死亡に至ったか市町村が定めたもの迷ったら電話で聞く報告するか
けがの程度・死亡・その他の3つの軸で対象を判断する図

「軽いから出さない」と自己判断しないのが要点です。判断を誤ったときの影響が、出しすぎた場合とまったく釣り合いません。受診して湿布だけだった場合が対象かどうかは、市町村によって違います。迷ったときは電話で聞いてから決めるのが、結果的にいちばん早くなります。

逆に、対象外のものまで全部出すと、市町村側も施設側も件数に埋もれます。範囲を一度確かめて、社内の基準として紙に書いておくと、担当者が変わってもぶれません。

いつまでに出すのか

期限も市町村によって運用が違いますが、共通しているのは速やかに連絡するという考え方です。

実務では2段階で動くのが一般的です。1段階目が第一報で、事故を把握した時点で電話などで連絡します。2段階目が報告書の提出で、様式に記入して後日提出します。

第一報から続報まで1第一報把握した日のうちに電話2報告書様式に記入して提3続報経過と対策が固まったら
第一報から報告書の提出、その後の続報までの流れ

第一報のタイミングは「発生した日のうち」としている市町村が多くあります。骨折の疑いで受診した段階など、確定を待たずに連絡する形になります。確定してから出そうとして数日空くと、遅いと見られることがあります。

報告書の提出は、第一報から数日以内としている例が多く見られます。そのあと、治療の経過や再発防止策が固まった時点で続報を出す形になることもあります。1回出して終わりとは限りません。

何を書くのか

様式は市町村が用意しているものを使います。国が示した様式の例をそのまま使っている市町村もあれば、独自の様式を持っているところもあります。

書く項目は、施設内の報告書と重なる部分が多くあります。事業所の情報、利用者の情報(年齢、性別、要介護度など)、事故の発生日時と場所、事故の種類、発生時の状況、発生後の対応、受診の状況、家族への連絡、原因の分析、再発防止策。

施設内の記録から転記できる重なる部分日時・場所・状況・対応・受診追加で要る要介護度・家族への連絡の状況後から埋める原因と再発防止策
市町村の様式に入る項目を、施設内の報告書と重なる部分で分けた層の図

施設内の報告書をきちんと書いてあれば、転記で済みます。逆に、施設内の記録が「転倒した」だけで終わっていると、市町村の様式を埋める段になって書けません。日々の報告書の質が、ここで効いてきます。

利用者の氏名を書くかどうかは市町村によって異なります。個人が特定できる情報の扱いは指示に従います。

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実際に使える様式が必要な方へ

市町村への事故報告や施設内の事故報告のExcel様式は、商い屋の介護向けのページにそろっています。この記事は制度と手順の側です。

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誰が出すのか、社内の流れを決めておく

慌てる場面なので、誰が何をするかを先に決めておきます。決めていないと、現場が管理者の到着を待ち、管理者が状況を聞き取るところから始まります。

決めるのは4つです。1つ目が、第一報を入れる人。管理者が不在のときに誰が電話するのかまで決めます。2つ目が、連絡先。市町村の担当課の電話番号を、事務所の見える場所に貼っておきます。

3つ目が、様式の置き場所。市町村のサイトから毎回探していると時間がかかります。あらかじめダウンロードして、決まった場所に置いておきます。4つ目が、提出の方法です。持参なのか、郵送なのか、電子で送れるのか。市町村によって違います。

先に決めておく4つ決めること中身置き場所第一報を入れる人管理者不在時も決め掲示連絡先担当課と休日の窓口事務所に貼る様式先に落として保存決まった場所提出の方法持参・郵送・電子掲示
第一報・連絡先・様式・提出方法の4つを先に決めておく図

この4つを1枚にまとめて掲示しておくと、夜間や休日に事故が起きても動けます。休日の連絡先が別になっている市町村もあるので、そこも確かめておきます。

迷いやすい5つの場面

範囲を決めていても、実際には判断に迷う形が出てきます。よく相談されるものを挙げます。

利用者どうしのトラブル。一方が他方を押して転倒した場合、事故として扱うのか、別の枠組みで扱うのか。市町村によって考え方が違うので、確かめておく必要があります。

自宅や外出先で起きたこと。通所の送迎中、外出行事の途中。サービス提供中にあたるかどうかが判断の分かれ目になります。送迎は多くの場合サービスに含まれます。

本人が拒否して受診しなかった場合。けがの程度が確認できないまま経過することがあります。この場合も、状況と本人の意向、そのあとの観察を記録に残して、市町村に相談するのが安全です。

既往や持病が関係している場合。転倒の原因が病気の発作だったとき、事故なのか体調の変化なのか。ここも自己判断せずに確かめます。

時間が経ってから分かったけが。翌日に腫れが出て骨折が判明した、という形です。発覚した時点で報告するのが基本になります。発生日と発覚日の両方を書きます。

これらは一度確かめれば、以後は社内の基準として使えます。同じ質問を毎回することにはなりません。

5つに共通しているのは、迷ったら電話で確かめるという一点です。聞いて「対象外です」と言われれば5分で終わります。出さずに後から問題になるほうが、はるかに時間がかかります。

報告したあとに何が起きるか

出したら終わりではありません。市町村から問い合わせが来ることがあります。

多いのが、状況の確認と、再発防止策の具体性についてです。「見守りを強化する」とだけ書いて出すと、何をどう変えるのかを聞かれます。物・手順・人のどれを変えるのかまで書いておくと、やり取りが1往復で終わります。

もう1つ多いのが、家族への説明の状況についての確認です。いつ、誰に、どう伝えたかを報告書に書いておくと、ここも一度で済みます。家族への伝え方は家族への事故の説明にまとめました。

また、報告した事故は実地指導の際に見られる対象になります。報告した内容と、施設内の記録、そのあとの委員会の議事録がそろっているかを見られます。3つの内容が食い違っていると、そこから深く見られます。転記するときに数字や時刻を写し間違えないよう、突き合わせてから出します。

控えの保存期間も決めておきます。介護の書類は種類によって保存の年数が違うため、事故の関係書類をまとめて何年持つのかを一度そろえておくと、整理のときに迷いません。年数の分かれ方は介護の書類の保存期間にまとめました。

報告を出した記録も残しておきます。いつ、誰が、どの様式で、どこへ出したか。控えを綴じておけば、あとから確認を求められたときにすぐ出せます。

第一報で何を伝えるか

電話をかける場面で言葉が出てこないことがあります。伝える順番を決めておくと落ち着いて話せます。

伝えるのは6つです。事業所名とサービスの種類事故の発生日時と場所利用者の年齢・性別・要介護度(氏名を伝えるかは指示に従います)、何が起きたかいまの状態と受診の有無家族への連絡の状況

この6つをメモの形にして、電話機のそばに置いておきます。慌てている場面では、順番が決まっているだけで話しやすくなります。

この6つをメモの形にして電話機のそばに置いておけば、慌てている場面でも順番どおりに話せます。

聞かれることもだいたい決まっています。発見したのは誰か、直前に何をしていたか、同じような事故が過去にあったか。過去の有無を聞かれることが多いので、同じ利用者・同じ場所での履歴を手元に出せるようにしておくと、その場で答えられます。

第一報の時点では、原因も再発防止策も固まっていなくて構いません。「これから確認して、報告書で改めてお伝えします」で足ります。分からないことを分からないと言うほうが、推測で答えるより安全です。

かけた記録も残します。いつ、誰が、誰に伝えたか。1行あれば足ります。

保育や障害の分野でも似た仕組みがある

同じ法人で保育所や障害福祉のサービスを持っている場合、それぞれに別の報告の仕組みがあります。

保育では、重大な事故について自治体へ報告する仕組みが定められています。対象の考え方も様式も介護とは別です。詳しくは保育の事故報告にまとめました。

介護の様式で保育の事故を報告することはできません。担当する課も違うことが多く、同じ市町村の中でも窓口が分かれます。法人として複数のサービスを持っているなら、サービスごとに連絡先と様式を並べた一覧を作っておくと迷いません。

件数を恐れないための考え方

報告を出すと評価が下がるのではないか、という心配から、範囲を狭く解釈してしまうことがあります。ここは整理しておきます。

事故の報告件数が多いこと自体が、そのまま悪い評価につながるわけではありません。むしろ、規模の割に報告がゼロという状態のほうが、把握できていないのではないかと見られることがあります。ヒヤリハットと同じ構図です。

見られるのは件数ではなく、報告した事故に対して何をしたかです。原因を分けて考えたか、対策を決めたか、決めた対策が実行されたか、再発していないか。ここがそろっていれば、件数が多いことはむしろ管理ができている証拠になります。

見られるのは件数ではない見られる原因を分けて考えたか対策を決めたか実行されたか件数が多くても問題ない心配しなくてよい報告した件数出しすぎたことゼロのほうが疑われる
件数ではなく、そのあと何をしたかで見られることを示した関係の図

逆に、報告を絞っていると、同じ種類の事故が繰り返されたときに説明ができません。1件目を出していなかったことが、2件目で問われます。

社内で「出すかどうか」を議論する時間があるなら、その時間で電話をかけて確かめるほうが早く終わります。判断を保険者に預けてしまうのが、結局いちばん安全で、いちばん速い方法になります。

社内の基準を1枚にする

確かめたことは、その場かぎりにせず1枚にまとめます。担当者が変わっても同じ判断ができる状態にしておくのが目的です。

書くのは5つです。どこへ出すか(担当課の名前と電話番号、休日の連絡先)、何を出すか(対象になる事故の範囲)、いつ出すか(第一報と報告書の期限)、どの様式か(保存してある場所)、誰が出すか(管理者不在時を含む)。

この1枚は、事務所の目につく場所に貼ります。ファイルの奥に入れると、慌てている場面では開かれません。紙1枚が壁にあることの効果は、手順書を整えることより大きい場面があります。

年に1回は、内容が変わっていないかを確かめます。市町村の担当課の名称や連絡先は、組織改編で変わることがあります。様式が改訂されていることもあります。古い様式で出すと、出し直しになります。

新しく管理者になった人には、この1枚を最初に渡します。事故はいつ起きるか分からないので、着任してすぐに必要になることがあります。

まとめ

市町村への事故報告は、運営基準にもとづく手続きで、施設内の事故報告書とは別のものです。対象の範囲、期限、様式は市町村によって運用が違うため、自施設の保険者に確かめたうえで社内の基準として決めておきます。

まず手を付けるなら、市町村の担当課の連絡先と様式を、事務所の決まった場所にそろえるところからです。次に、第一報を誰が入れるのかを管理者不在のときまで含めて決めておくと、夜間や休日でも動けます。

なお、報告の対象になる事故の範囲、期限、様式、提出の方法は、保険者である市区町村によって運用が違います。最終的な判断は、所在地の市区町村の介護保険担当課にご確認ください。

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実際に使える様式が必要な方へ

市町村への事故報告のExcel様式は、商い屋の介護向けのページにあります。自治体の様式に転記する前の下書きとしても使えます。

この様式をひらく

市町村への報告は、手続きそのものは難しくありません。難しいのは、慌てている場面で「これは出すのか」を判断することです。先に範囲を確かめて紙にしておけば、その場で迷いません。

よくある質問

どの事故から市町村に報告するのですか。

医療機関で治療を受けた場合を目安にしている市町村が多くありますが、範囲は保険者によって違います。死亡に至った場合は程度を問わず対象になるのが一般的です。自施設の保険者に確かめて、社内の基準として決めておきます。

いつまでに報告するのですか。

速やかに連絡することが求められます。実務では、発生した日のうちに電話などで第一報を入れ、後日に様式で報告書を提出する2段階が一般的です。

施設内の事故報告書を出せばよいのですか。

別のものです。市町村が用意している様式に記入して提出します。施設内の報告書をきちんと書いてあれば、転記で済みます。

軽いけがでも報告するのですか。

受診して湿布だけだった場合が対象かどうかは市町村によって違います。自己判断せず、確かめてから決めます。

報告したあと何かありますか。

状況や再発防止策について問い合わせが来ることがあります。また、実地指導の際に、報告内容・施設内の記録・委員会の議事録がそろっているかを見られます。

利用者どうしのトラブルは事故になりますか。

市町村によって考え方が違います。送迎中や外出行事中の出来事、本人が受診を拒否した場合なども判断が分かれるところなので、あらかじめ確かめて社内の基準にしておきます。

保育所の事故も同じ様式ですか。

別です。保育には保育の報告の仕組みがあり、担当する課も様式も違います。法人で複数のサービスを持っているなら、サービスごとに一覧を作っておくと迷いません。