介護事故報告書の書き方|5W1Hと再発防止策
目次
介護事故報告書は、書く場面がいちばん落ち着かない書類です。利用者の対応、家族への連絡、記録の作成が同時に来るうえに、あとから市町村にも家族にも読まれます。急いで書いたものが何年も残ることになります。
この記事では、介護事故報告書の欄を上から順にどう埋めるのか、避けたい書き方はどれか、そして再発防止策をどう書けば形だけにならないかを整理します。
結論:介護事故報告書は「見た事実」と「打った手」を時系列で並べる
介護事故報告書とは、利用者に影響が生じた出来事について、何が起きて何をしたかを記録し、必要に応じて市町村へ報告するための書類のことです。書く目的は3つあり、そのどれもが「誰が悪いか」ではありません。
1つ目が、再発を防ぐための材料にすること。2つ目が、家族に説明できる状態にすること。3つ目が、行政への報告の根拠にすることです。
ポイントはここです。この3つはすべて、書いた人以外が読みます。だから、身内にしか通じない略語や、主観を含む言い方は使えません。「いつもどおり」「少し元気がなかった」では、読んだ人が場面を思い浮かべられません。
書く順番を固定する
慌てている場面で書くので、順番を決めておくと抜けません。上から4つのかたまりです。
1つ目が基本情報。発生した日時、場所、利用者の氏名、発見した人、報告した人。2つ目が発生時の状況。3つ目が発生後の対応。4つ目が原因と再発防止策です。
4つ目だけは、その場で書き切らなくて構いません。原因の分析は、落ち着いてから複数人で行うものです。その場で書くのは3つ目までにして、4つ目は日を改めて追記する運用にしている施設もあります。
発生時の状況を5W1Hで書く
いちばん差が出る欄です。5W1Hに当てはめると、抜けが見つかります。
いつ(時刻は分まで)、どこで(居室番号や場所を具体的に)、誰が(利用者の氏名)、誰に対して(関わった職員)、何を(起きたこと)、どのように(前後の動き)。
このうち「どのように」がいちばん落ちます。「転倒した」で止まってしまい、前後の動きが残りません。立ち上がろうとしたのか、歩いていたのか、座ろうとしたのかで、対策する場所が変わります。
書き方の例を挙げます。
> 10時40分ごろ、302号室で、◯◯様がベッドから立ち上がった際に右へよろけ、床頭台の角に右前腕をぶつけられた。訪室した職員(介護福祉士・◯◯)が発見。直前にトイレへ向かおうとされていた。ナースコールは押されていなかった。
避けたいのは、見ていないことを書くことです。発見したのが転倒後なら「転倒された」ではなく「床に座り込んでいるところを発見した」と書きます。どちらの向きに倒れたかを見ていないのに書くと、あとで矛盾が出ます。
主観も入れません。「気が緩んでいた」「注意不足だった」は、事実ではなく評価です。
発生後の対応を時刻つきで並べる
ここは時系列で、時刻を付けて並べます。読んだ人が、対応が遅れていないかを見る欄になります。
> 10時41分 声かけ、意識清明。右前腕に発赤あり、出血なし。 > 10時45分 看護師◯◯が確認。バイタル測定(血圧◯◯/◯◯、脈◯◯、体温◯◯)。 > 11時00分 施設長へ報告。 > 11時15分 ご家族(長男◯◯様)へ電話で連絡。 > 14時00分 ◯◯整形外科を受診。レントゲンで骨折なし。
時刻が飛んでいると、その間何をしていたのかを聞かれます。受診まで3時間空いているなら、その間の観察を書き足します。「11時30分、12時30分に訪室、変化なし」といった行があるだけで、放置していないことが伝わります。
状況の欄で迷う3つの場面
型が分かっても、実際の場面では判断に迷います。よく出るものを挙げます。
誰も見ていなかったとき
いちばん多い形です。居室で1人のときに転倒し、訪室したら床にいた。このとき書けるのは発見時の状態だけです。
> 10時40分、302号室を訪室したところ、ベッドと床頭台の間の床に、◯◯様が右側臥位で横になっておられた。ベッド柵は上がったまま。ご本人は「立とうとしてふらついた」とお話しされた。
本人の話は「お話しされた」と、発言として書きます。それを事実として断定しないのが要点です。
発見が遅れたとき
発見までに時間が空いた場合、その事実も書きます。隠すと、あとで記録の突き合わせで必ず出てきます。前回の訪室時刻が分かるなら、そこも書いておきます。
職員の動きが関係しているとき
書きにくい場面ですが、人ではなく動きを書きます。「職員の見守りが足りなかった」ではなく「10時台は入浴介助のため職員2名がフロアを離れていた」。同じ内容でも、後者は対策につながります。
原因を4つの層で分ける
再発防止策が形だけになるのは、原因を1つに絞ってしまうからです。「本人の注意不足」で終わると、打つ手が「見守りを強化する」しかなくなります。
分けるのは4つです。本人の状態、職員の動き、環境、仕組み。
さきほどの転倒の例で当てはめます。本人の状態は「夜間の頻尿があり、日中も尿意を訴えることが増えていた」。職員の動きは「10時台は入浴介助で2名が抜けていた」。環境は「床頭台の角が立ち上がり動線上にある」。仕組みは「排泄パターンの情報が申し送りに入っていなかった」。
4つ並べると、打てる手が4つ出てきます。4つとも実行する必要はありません。いちばん確実に変えられるものから1つ選びます。どれか1つでも変えれば、次は違う結果になります。
再発防止策は「物・手順・人」のどれかに落とす
「注意する」「見守りを強化する」は対策になりません。誰がどう動くかが変わらないからです。
落とし方は3つです。物を動かす(床頭台の位置を変える、離床センサーを置く)、手順を変える(10時台の訪室を1回増やす、排泄パターンを申し送り表に入れる)、人の配置を変える(入浴介助の時間帯をずらす)。
そのうえで、誰がいつまでにやるかを書きます。ここが空だと、次の月も同じ事故が起きます。「◯月◯日までに、介護主任が申し送り表に排泄パターンの欄を追加」まで書いて、対策になります。
決めた対策は、あとで見返します。実地指導では、報告があったことよりそのあと何をしたかが見られる部分になります。
家族が読むことを前提に言葉を選ぶ
報告書は家族に開示を求められることがあります。その前提で言葉を選んでおくと、あとで書き直す必要がなくなります。
気をつけるのは3つです。1つ目が略語と専門用語。「ADL低下」「BPSD」「ムンテラ」。職員どうしでは通じますが、家族には伝わりません。使うなら、かっこで補います。
2つ目が利用者の呼び方です。記録の中で呼び捨てや愛称になっていると、読んだ家族の受け取り方が変わります。様式の中で統一しておきます。
3つ目が推測を断定に変えないことです。「立ち上がろうとして転倒された」と書いてしまうと、見ていないことを見たように書いたことになります。
そのうえで、事実を薄めないことも大事です。家族に見せることを意識しすぎて「軽微な接触があった」のようにぼかすと、あとで実際のけがとの差が問題になります。起きたことは起きたとおりに、評価を混ぜずに書く。これが結局いちばん角が立ちません。
書いてはいけない言い方
あとで問題になる書き方が決まっています。
1つ目が、推測を事実として書くこと。「ベッドから落ちたと思われる」は、見ていないなら書きません。「床に横になっているところを発見」と、見たままにします。
2つ目が、責任を認める表現を先に書くこと。「職員の確認不足により」と原因を断定して書くと、事実が固まる前に責任の所在が決まってしまいます。原因の欄には「確認の手順が定まっていなかった」のように、仕組みとして書きます。
3つ目が、家族の反応を評価すること。「ご家族は納得された」ではなく「ご家族から『次は気をつけてほしい』とのお話があった」と、言われたことを書きます。
同じように、職員の氏名の扱いも決めておきます。記録として残す必要はありますが、家族へ開示する際に個人名をどこまで出すかは施設の方針によります。その場で迷わないよう、先に決めておくのが安全です。
4つ目が、他の利用者の氏名を書くことです。同室者が関わっていても、別の方の個人情報になります。「同室の方」と書きます。
事故の種類ごとに見るところが変わる
介護の現場で多い事故は、だいたい4つに絞られます。それぞれ書き落としやすいところがあります。
転倒・転落がいちばん多い形です。書き落としやすいのは、直前に何をしようとしていたかと、履物や床の状態です。「スリッパを履いておられた」「床に水滴があった」の1行が、対策に直結します。
誤嚥・窒息では、食事の形態と体位が要点になります。前日から刻みの大きさを変えていた、ベッドの角度が浅かった。食形態の変更履歴は、事故の前後で必ず見られます。
誤薬では、いつどの薬をどう間違えたかを具体的に書きます。「配薬」「与薬」「服薬の確認」のどの段階かで、対策する場所が変わります。
離設・行方不明では、最後に確認した時刻と場所、そして扉や見守りの状態を書きます。時刻の精度がそのまま捜索の判断につながります。
種類ごとに書く項目が少し違うので、様式に種類の選択欄を作って、選ぶと追加の欄が出る形にしている施設もあります。紙なら、種類ごとの追記欄を下に並べておくだけで足ります。
市町村への報告と、家族への説明は別に動く
報告書を書いたら終わりではありません。3つの流れが同時に動きます。
1つ目が施設内の分析で、委員会にかけて対策を決めます。2つ目が家族への説明。3つ目が市町村への報告です。
市町村への報告は、対象になる事故の範囲と期限が決まっています。すべての事故を出すわけではなく、逆に「けがが軽いから出さなくてよい」と自己判断すると外れることがあります。範囲は保険者によって運用が違うので、市町村への介護事故報告にまとめました。
家族への説明は、報告書をそのまま渡すのではなく、伝える順番を決めておくと落ち着いて話せます。家族への事故の説明で分けて書きました。
書いたあとに見返す仕組み
報告書がいちばん無駄になるのは、書いて綴じて終わりになるときです。見返す場面を2つ作っておきます。
1つ目が、対策の期限が来たときの確認です。「◯月◯日までに申し送り表に欄を追加」と書いたなら、その日に誰かが見ます。委員会の冒頭で前月に決めたことを確認する形にしておくと、自然に回ります。
2つ目が、同じ利用者・同じ場所で次が起きたときの見返しです。前回の報告書を出してきて、決めた対策が実行されていたかを見ます。実行されていて再発したなら対策が足りず、実行されていなかったなら仕組みの問題です。この2つは打つ手がまったく違います。
この2つの場面を決めておくだけで、報告書が「書いて終わり」から「使う書類」に変わります。書く側の納得も、ここで変わります。
見返しやすくするために、綴じ方も決めておきます。日付順に綴じるのが基本ですが、利用者ごとの索引を1枚付けておくと、同じ方の履歴をすぐ追えます。
年度末には、1年ぶんを種類と場所で数えてみます。1件ずつでは見えないことが、集めると見えます。どの時間帯に多いか、どのフロアに集中しているか。ここから翌年度の重点が決まります。
まとめ
介護事故報告書は、見た事実と打った手を時系列で並べる書類です。5W1Hで状況を書き、対応は時刻つきで並べ、原因は本人・職員・環境・仕組みの4層に分けます。
まず手を付けるなら、対応の欄に時刻を入れる形に変えるところからです。次に、再発防止策を物・手順・人のどれかに落とし、誰がいつまでにやるかを書くと、形だけの対策が減ります。
報告書は、書いた本人のためではなく、次に同じ場面に立つ人のために残すものです。そう考えると、何を書けばよいかは自然に決まります。
なお、市町村へ報告すべき事故の範囲や期限、様式は、保険者である市区町村によって運用が違います。最終的な判断は、所在地の市区町村の介護保険担当課にご確認ください。
事故報告書は、急いでいる場面で書くからこそ、順番と欄が決まっていることが効きます。考えながら書く部分を減らしておけば、慌てていても抜けません。
慌てている場面で書く書類だからこそ、順番と欄が決まっていることが効きます。考えながら書く部分を減らしておけば、抜けません。
よくある質問
事故報告書は誰が書くのですか。
発見した職員が状況の部分を書き、管理者や相談員が全体を整えるのが一般的です。原因と対策は複数人で検討して追記します。
いつまでに書くのですか。
当日中に状況と対応まで書くのが基本です。時間が経つほど時刻の精度が落ち、順番も入れ替わります。原因と再発防止策は、落ち着いてから追記する運用でも構いません。
種類によって書く項目は変わりますか。
基本の型は同じですが、転倒なら履物と床の状態、誤嚥なら食形態と体位、誤薬なら段階、離設なら最終確認の時刻というように、種類ごとに落としやすい項目があります。
軽いけがでも書くのですか。
施設内の記録としては書きます。市町村へ報告する対象になるかは別の判断で、保険者の運用によります。
「〜と思われる」と書いてもよいですか。
見ていないことは書きません。発見時の状態を、見たとおりに書きます。推測が必要な場合は、その旨が分かる形にします。
専門用語は使ってよいですか。
家族が読む可能性があるので、略語や専門用語はかっこで補うか、言い換えます。ただし事実そのものを薄めてぼかすのは避けます。
家族に見せる前提で書くのですか。
読まれる可能性がある前提で書きます。身内にしか通じない略語や、主観を含む評価は避けます。
誰も見ていなかった事故はどう書きますか。
発見時の状態だけを書きます。本人の話は「お話しされた」と発言として残し、事実として断定しません。前回の訪室時刻が分かるなら、それも書いておきます。
再発防止策に「注意する」と書いてはいけませんか。
対策としては働きません。物を動かす、手順を変える、人の配置を変えるのどれかに落とし、誰がいつまでにやるかまで書きます。