ヒヤリハット報告書の書き方|例文と続けるこつ
目次
ヒヤリハット報告書は、書く前に手が止まる書類です。何をどこまで書けばいいのか分からない、書いたら注意される気がする、そもそも書く時間がない。この3つが重なって、気づいたことが紙になりません。
この記事では、ヒヤリハット報告書の欄を上から順にどう埋めるのか、例文つきで整理します。あわせて、書いても続かない原因と、その直し方まで書きます。
結論:ヒヤリハット報告書は「その場の事実」だけ書けば足りる
ヒヤリハット報告書とは、事故には至らなかったが危なかった出来事を記録する用紙のことです。書く人が求められているのは、原因の分析でも対策の立案でもありません。何が起きたかを、その場で見たとおりに書くことです。
ポイントはここです。多くの用紙に「原因」と「対策」の欄がありますが、そこを1人で埋めようとするから書けなくなります。原因を突き止めるのは、集まった何十枚かを並べて見る側の仕事です。
一般には、集めた報告を事故防止の委員会などで分析し、対策につなげる流れが取られています。書く人と分析する人が違うという前提に立つと、書く側の負担はぐっと軽くなります。
欄を上から埋める
用紙の形は施設によって違いますが、入っている欄はだいたい同じです。上から順に見ていきます。
発生した日時と場所
ここは正確に書きます。時刻を丸めないのがこつです。「午前中」ではなく「10時40分ごろ」。時間帯に偏りがあるかどうかは、集めたあとに効いてくる情報になります。
場所も具体的に書きます。「居室」ではなく「302号室のベッド脇」。同じ場所で繰り返し起きていることに気づけるのは、ここが具体的なときだけです。
対象になった人と、発見した人
利用者や子どもの氏名、そして気づいた人の名前を書きます。当事者と発見者が違う場合は、両方を書きます。
発見者の欄を空けたままにしないでください。あとから状況を確かめる必要が出たときに、誰に聞けばよいか分からなくなります。責める目的ではないことを、書式の上に一言書いておくと書きやすくなります。
何が起きたか
いちばん大事な欄です。ここだけは自由に書くことになります。
書き方のこつは2つです。1つ目が、見たことと、思ったことを分けること。「ふらついていて危なかった」ではなく「ベッドから立ち上がったときに右へ2歩よろけ、床頭台に手をついた」。2つ目が、直前に何をしていたかを1行入れることです。
書き分けの練習として、同じ場面を2通りで書いてみると差がはっきりします。「危なかった」と書くと何も残りませんが、「右へ2歩よろけた」と書けば、次に読む人が場面を思い浮かべられます。思い浮かべられるかどうかが、書けているかの目安になります。
例文を挙げます。
> 10時40分ごろ、302号室で、◯◯様がベッドから立ち上がった際に右へよろけ、床頭台に手をついた。転倒はなし。直前にトイレへ行こうとされていた。ナースコールは押されていなかった。
これで足ります。なぜ押さなかったのか、どうすればよかったかは書かなくて構いません。
そのあとどうしたか
その場で取った対応を書きます。声をかけた、付き添った、看護師に伝えた、バイタルを測った。何もしなかった場合は「経過を見た」と書きます。空欄にすると、対応しなかったのか書き忘れたのかが分かりません。
書きにくい場面ごとの書き方
型が分かっても、実際の場面では迷います。よくある4つを挙げます。
自分が当事者のとき
いちばん書きにくい場面です。書き方は変わりません。見たことを、自分を主語にして書きます。「配薬車から◯◯様の薬を取り出す際、隣の◯◯様の薬袋を手に取った。名前を読み上げる前に気づいて戻した。」
言い訳を書く欄はありません。状況として、忙しかった、似た名前だった、といった事実があるなら、それは状況として書いて構いません。責任の話ではなく、次に同じ場面が来たときの材料になります。
他の職員の動きが関係しているとき
書くのをためらう場面です。ここも、人ではなく動きを書きます。「申し送りで伝わっていなかった」ではなく、「◯時の申し送りに、前日の◯◯様の状態変化が入っていなかった」。
名前を出すかどうかは施設の運用によります。出さなくても、いつどの場面で情報が途切れたかが分かれば、分析には足ります。
家族や外部の人が関わるとき
面会中に起きたこと、送迎の車内でのこと。関係者が職員以外のときも、書く内容は同じです。事実だけを書きます。家族の言動を評価する言葉は入れません。
何も起きなかったが危なかったと感じたとき
これがいちばん報告されません。「たまたま何も起きなかった」という感覚は、書く理由として十分です。次は起きるかもしれないという勘は、現場の人しか持っていません。
続かない原因は、だいたい3つ
書き方が分かっても、続かないことのほうが多い書類です。原因は決まっています。
1つ目が、書くのに時間がかかることです。夜勤帯に20分かかる用紙では、忙しい日に出てきません。1枚5分を目安に、選択肢で選べる欄を増やします。
2つ目が、書いた人が責められることです。一度でもそれが起きると、その職場の報告は止まります。用紙から「なぜ確認を怠ったか」のような欄を外し、状況を聞く欄に変えます。
3つ目が、出しても何も返ってこないことです。月に1度、「この報告があったので置き場所を変えました」と共有するだけで、書く意味が伝わります。
例文をもう3つ
型は1つ見ても身につきません。よくある場面で並べます。どれも「見たこと」だけで止めてあります。
誤薬になりかけた場面
> 8時05分、1階食堂で、◯◯様の朝食後薬を配る際に、隣席の◯◯様の薬包を手に取った。名前を読み上げる前に気づき、配薬車に戻した。服用はなし。両名とも同じ姓。
誤嚥になりかけた場面
> 12時20分、2階食堂で、◯◯様が主菜を口に入れた直後にむせ込み、2回咳をされた。背中をさすり、水分を少量。呼吸状態に変化なし。前日から刻みの大きさを変更していた。
離設になりかけた場面
> 15時10分、玄関ホールで、◯◯様が靴を履いて外扉の前に立っておられた。声をかけて居室へお戻りいただいた。扉は施錠されていた。直前に面会の来客があり、職員が対応中だった。
どれも3行から4行で収まっています。長く書く必要はありません。むしろ長い報告ほど、思ったことが混ざりやすくなります。
3つに共通しているのは、最後の1行に「そのとき何があったか」を置いていることです。同じ姓だった、刻みを変えていた、来客対応中だった。ここが後の分析でいちばん効きます。
用紙を直すときに気をつけること
用紙を作り替える場面もあると思います。増やすより減らすほうが効きます。
残す欄は5つで足ります。日時、場所、対象者、発見者、何が起きたか。ここに「そのあとどうしたか」を足して6つ。原因と対策の欄は、分析する側の用紙に移します。
自由記述の欄は、実際に書ける大きさにします。3行しかない欄に細かく書けと言っても無理です。逆に、半ページ空いていると身構えられます。4行から5行がちょうど良いところになります。
書く場所も見直します。事務所まで戻らないと用紙が無い形だと、その場で書けません。各フロアに置いておくだけで枚数が変わります。
分析する側が見るところ
書く側にとっても、どこを見られるかが分かっていると書きやすくなります。
分析で最初に見るのは、件数ではなく偏りです。同じ時間帯に集まっていないか、同じ場所で繰り返していないか、同じ人に集中していないか。1枚では分からず、30枚たまってはじめて見えます。
次に見るのが、書かれている「そのとき何があったか」の部分です。同じ姓の利用者が並んでいた、前日に食形態を変えていた、来客対応で人が抜けていた。ここに書いてあることが、そのまま対策の入口になります。
逆に、分析に使えないのが「注意力が足りなかった」「確認が不十分だった」といった書き方です。読んでも、次に何を変えればよいかが出てきません。書く側が事実だけで止めるのは、そのためでもあります。
3つ目に見るのが、対応の欄です。その場でどう動いたかが分かると、手順のどこが機能していたかが見えます。うまくいった対応は、そのまま他の職員に共有する材料になります。
集めた先でどう使われるか
書く側にとって、この部分が見えていると納得が違います。
集まった報告は、種類と場所と時間帯で数えます。多い塊が見つかったら、そこだけ原因を層で分けます。本人の状態、職員の動き、環境、仕組み。同じ転倒でも、床が濡れていたのか、人手が足りなかったのかで打つ手が変わります。
対策は「注意する」では終わらせません。物を動かす、手順を変える、人の配置を変える。このどれかに落ちてはじめて次に効きます。
決まった対策は現場に戻ってきます。そのとき「◯月の報告から」と添えられていると、書いた人に届きます。
保育や訪問では見るところが変わる
同じ用紙を使っていても、現場によって重心が違います。
保育では、前日からの情報が効きます。睡眠、朝の機嫌、保護者からの申し送り。事故の手前の情報が保護者側にあるのが特徴なので、登園時の様子を書く欄があると役に立ちます。
訪問介護では、職員が1人で目撃者がいません。後から確かめる材料が少ないので、その場で残せることを増やします。時刻だけでもメモする、写真を1枚撮っておく。帰ってから思い出して書くと、時刻が丸まり順番が入れ替わります。
医療では、薬と処置に関するものが多くを占めます。レベルの段階を付けて集計する運用が定着しているので、段階の基準を職場でそろえておくことが先になります。
どの現場でも共通しているのは、その場で書けるかどうかです。用紙が手の届くところにあり、5分で埋まる形になっていれば、内容は自然に集まります。
新しく入った人に最初に教えること
異動や新採用のたびに説明することになります。教える順番を決めておくと短く済みます。
1つ目に、責められない書類だと伝えます。ここを最初に言わないと、あとの説明が頭に入りません。人事評価に使わないこと、枚数が多い人が注意されることはないことを、はっきり言葉にします。
2つ目に、例文を1つ見せます。説明を10分するより、埋まった用紙を1枚見せるほうが早く伝わります。自施設で実際に出たものを、名前だけ伏せて使うのが分かりやすくなります。
3つ目に、用紙の置き場所を教えます。書き方が分かっても、用紙がどこにあるか分からなければ書けません。
原因と対策の欄は、あえて説明しません。そこは書かなくてよいと伝えるほうが、最初の1枚が出てきます。慣れてきた人が書きたければ書けばよい、という扱いにしておきます。
半年ほど経ったら、その人が書いたものを一緒に見返す時間を取ると定着します。書いたものが読まれていると分かることが、いちばんの動機づけになります。
まとめ
ヒヤリハット報告書は、その場の事実だけを書けば足ります。原因と対策は、集めた側が分析する部分です。時刻と場所を丸めず、見たことと思ったことを分けて書くのがこつになります。
まず手を付けるなら、いまの用紙から「なぜ怠ったか」のような欄を外すところからです。次に、書く場所を各フロアに置くと、その場で書ける形になります。
用紙を軽くして、責める欄を消して、返す。この3つが回っていれば、ヒヤリハットは自然に集まります。集まりさえすれば、分析する材料には困りません。
なお、事故に至った場合の取り扱いや、行政への報告が必要になる範囲は、保険者である市区町村によって運用が違うことがあります。最終的な判断は、所在地の市区町村の介護保険担当課にご確認ください。
ヒヤリハットは、書く人の負担を下げた分だけ集まります。研修で「書きましょう」と言うより、用紙から欄を1つ減らすほうが効くことがあります。
ヒヤリハットは、書く人の負担を下げた分だけ集まる書類です。用紙から欄を1つ減らすほうが、研修を1回やるより効くことがあります。
書き方の型は、慣れれば考えなくても出てきます。最初の数枚だけ、例文を横に置いて書いてみるのが近道になります。
よくある質問
ヒヤリハット報告書には原因まで書くのですか。
書く人が原因まで求められる用紙が多いのですが、分析は集めた側で行う分担にすると、枚数も内容も良くなります。現場が書くのは状況までで足ります。
書いたものはどこへ行くのですか。
多くの施設では事故防止の委員会に集められ、種類や場所や時間帯で数えたうえで、多い塊から対策を決めていきます。決まったことは現場へ戻ってきます。
事故になってしまった場合も同じ用紙ですか。
事故に至った場合は事故報告書として別に扱うのが一般的です。様式も報告先も変わります。
書く時間がありません。
用紙が重すぎる可能性があります。選択肢で選べる欄を増やし、自由記述を1つに絞ると、1枚5分まで下げられます。
用紙はどこに置けばよいですか。
各フロアの手の届くところに置きます。事務所まで戻らないと書けない形だと、その場で書けず、あとから思い出して書くことになります。
匿名でもよいですか。
あとから状況を確かめる必要が出ることがあるため、記名としたうえで責めない運用にしている施設が多くあります。
1枚にどれくらい書けばよいですか。
3行から4行で足ります。長く書くほど思ったことが混ざりやすくなります。次に読む人が場面を思い浮かべられるかどうかが目安になります。
何を書けばヒヤリハットになりますか。
迷ったら書く側に寄せます。そのうえで、薬や転倒など影響が大きくなりやすいものを「必ず報告」と決めておくと、現場が迷いません。
自分が当事者のときも書くのですか。
書きます。書き方は変わらず、見たことを自分を主語にして書きます。言い訳を書く欄はありませんが、状況として事実があるならそれは書いて構いません。
他の職員が関わっているときはどう書きますか。
人ではなく動きを書きます。名前を出すかは施設の運用によりますが、いつどの場面で情報が途切れたかが分かれば分析には足ります。
時刻が正確に分からないときは。
おおよそでも構いませんが、「午前中」ではなく「10時40分ごろ」まで絞ります。時間帯の偏りは、集めたあとに効いてくる情報です。