身体拘束の研修|年2回と採用時に何を伝えるか
目次
研修はやっている。ところが内容は毎年同じ資料の読み合わせで、参加した職員の記憶にも残っていない。それでも記録は残るので、体制としては満たしている。もったいない状態です。
この記事では、身体拘束の研修を、回数と対象・伝える中身・記録の3つに分けて整理します。読み終えたときに、次の研修の中身を決められる状態を目指します。
結論:定期と採用時の2つがある
身体拘束の研修とは、身体拘束の適正化のために、職員に対して定期的に行う研修のことです。介護保険の運営基準で求められています。
求められているのは、定期的な研修と、新規に採用した職員への研修の2つです。
回数は事業所の区分によって定められています。年2回以上とされている形が一般的ですが、サービスの種類で変わります。所管の自治体の案内で確かめます。
ポイントはここです。採用時の研修が抜けやすいところです。年2回の定期を回していても、途中で入った人がどちらにも参加していない、という形が起きます。
委員会・指針・記録とあわせて4点で1組です。研修だけを満たしても、他が欠けていれば減算の対象になる場合があります。
伝える中身
内容に迷うなら、5つを軸にします。
1つ目は、原則として行わないということです。まずここから始めます。「やむを得ない場合がある」を先に言うと、例外のほうが記憶に残ります。
2つ目は、何が身体拘束に当たるかです。縛る、囲む、立ち上がりを妨げる、出られない部屋に入れる。ミトンや車いすのベルトも含まれます。
3つ目は、3要件です。切迫性、非代替性、一時性。3つすべてを満たす必要があることを伝えます。
4つ目は、代わりに何を試すかです。センサー、低床ベッド、マット、声かけの工夫。具体的な方法を挙げます。
5つ目は、記録の書き方です。態様と時間、心身の状況、やむを得ない理由。
4つ目がいちばん役に立ちます。「拘束してはいけない」だけでは、現場は困ります。代わりの手が示されて、初めて動けます。
事例で扱う
資料の読み合わせだけだと残りません。事例を出して話し合う形にすると、身に付きます。
使いやすい事例が3つあります。
1つ目は、迷う場面です。「ベッドから落ちそうな人に、柵を4本立ててよいか」。3要件に当てはめて考えます。
2つ目は、拘束に当たるか分かりにくいものです。「介護衣(つなぎ服)は拘束か」「車いすのテーブルは拘束か」。
3つ目は、代替の方法を考える場面です。「夜間に何度も起きる人に、どんな手があるか」。
自社で実際にあった場面を使うのがいちばん効きます。個人が特定されない形に直して扱います。
正解を教えるより、話し合った過程が残ります。「3要件のどれが足りないか」を全員で言葉にすると、次に現場で使えます。
代替の方法を持ち寄る
4つ目の軸は、研修の中で持ち寄る形にすると増えます。
やり方は簡単です。「転落を防ぐために、拘束以外にできること」を全員で挙げる。出てきたものを紙にまとめ、現場に貼ります。
出てくるものの例を挙げます。
環境。低床ベッド、マット、手すりの位置、家具の配置、照明。
用具。離床センサー、体位を保つクッション、滑り止め。
関わり方。定時の声かけ、排泄の誘導、日中の活動を増やす、眠れる環境をつくる。
体制。夜間の巡回の時間、居室の配置、見えやすい場所への移動。
一覧があると、委員会で非代替性を検討するときに使えます。「これは試したか」と順に確かめられます。
年に1回、この一覧を見直します。新しい用具が入ったり、うまくいった方法が見つかったりします。
誰が講師をするか
外部の講師を呼ぶ形もありますが、社内で回すこともできます。
社内でやる利点は、自社の事例を扱えることです。外部の講師は一般論になりがちです。
講師は、身体拘束適正化の担当者か、委員会のメンバーが務めます。持ち回りにすると、講師をする人がいちばん勉強になります。
資料は、指針と、前回の研修の資料があれば作れます。毎回ゼロから作らない形にしておくと続きます。
外部の研修を受けた人が、その内容を社内で伝える形もあります。伝達の研修として記録できます。
記録に残すこと
研修の記録は、体制を示す証拠になります。書くのは6つです。
実施した日時。実施の方法。内容。講師。参加者。参加できなかった人への対応。
抜けやすいのは、最後の2つです。参加者の氏名が無いと、誰が受けたか分かりません。参加できなかった人へのフォローが無いと、全員に行き渡ったことが示せません。
資料も一緒に綴じます。何を伝えたかが後から分かる形にしておきます。
保存の期間は、介護保険の記録の保存に合わせる形が一般的です。所管の自治体の基準を確かめます。
全員に行き渡らせる
シフト制の職場では、1回で全員は集まりません。行き渡らせる方法が3つあります。
1つ目は、複数回やることです。同じ内容を2回か3回に分けます。
2つ目は、資料を渡して読んでもらう形です。読んだことを記録に残します。
3つ目は、録画を使う形です。撮っておけば、後から見てもらえます。
年に1回、誰が何回受けたかを一覧にします。受けていない人が見つかったら、その人だけに個別に行います。
新しく入った人は、採用時の研修の対象です。年間の計画に、採用の予定を見込んで入れておきます。
研修の効果を見る
研修をやったかどうかではなく、変わったかどうかを見ます。見るのは3つです。
1つ目は、拘束の件数です。減っているか。ゼロが続いているか。
2つ目は、委員会で出てくる代替の案の数です。「他に手が無い」で終わらず、案が出るようになっているか。
3つ目は、記録の中身です。拘束の記録の「非代替性」の欄に、試したことが書かれているか。
3つ目がいちばん分かりやすい変化です。研修が効いていると、記録の中身が変わります。
年に1回、この3つを委員会で見ます。変わっていなければ、研修の中身を変えます。
外部の研修を使う
身体拘束の研修は、全部を自前でやる必要はありません。外の研修を使うほうが中身が濃くなる場面があります。
使える形は3つあります。
1つ目は、都道府県や市町村が開く研修です。無料か低額で、制度の最新の扱いが入っています。1人が出て、戻ってから伝達研修をする形が一般的です。
2つ目は、職能団体や協議会の研修です。同じ種別の事業所の事例が出てくるので、自分の事業所に当てはめやすくなります。
3つ目は、録画や配信の教材です。シフトが合わない職員に届けるにはこれがいちばん確実です。視聴の記録が残る仕組みのものを選びます。
外部研修を使うときの注意は、記録の書き方です。「◯◯研修に参加」だけでは、事業所の研修を実施したことにはなりません。戻ってから誰に何を伝えたかまで書いて、はじめて事業所の研修の記録になります。
伝達研修の形は簡単で構いません。A4で1枚、要点を3つだけにします。持ち帰った資料をそのまま配ると、誰も読まないまま終わります。
新しく入った人への伝え方
採用時の研修は、定期の研修とは中身を変えます。新しく入った人が、その日から迷わない形にします。
伝える順番は3つです。
1つ目は、この事業所では拘束をしない、という事実です。考え方の説明よりも先に、方針を1文で伝えます。前の職場でやっていた形をそのまま持ち込ませないためです。
2つ目は、拘束にあたる具体的な行為です。ベッド柵で囲む、つなぎ服を着せる、車いすにベルトで固定する、居室に鍵をかける、部屋から出ないように言葉で制止する。言葉による制止が入ることを、必ず伝えます。ここがいちばん抜けます。
3つ目は、迷ったときの相談先です。誰に言えばいいかを名前で伝えます。「管理者に」ではなく「◯◯さんに」と言います。
新人が最初の1か月でやってしまう形は決まっています。危ないと思った瞬間に、とっさに止める。悪意はありません。だから研修では、止めたくなる場面の代わりの動きを具体的に持たせます。声をかけて隣に座る、別の場所に誘う、担当者を呼ぶ。この3つだけでも渡しておくと違います。
採用時の研修は、入職後どのくらいで行うかを決めておきます。1か月後では遅く、初日だと詰め込みすぎになります。1週間以内に1回、1か月後にもう1回という形がよく使われています。
研修の中身を毎年変える
同じ資料を毎年使うと、3年目には誰も聞かなくなります。芯は変えず、事例だけ入れ替えます。
入れ替える材料は3つあります。
1つ目は、その年に自分の事業所で出た場面です。個人が特定されない形にして使います。いちばん効きます。
2つ目は、公表された事例です。市町村や都道府県が虐待の事例と検証結果を出していることがあります。自分の事業所と条件が近いものを選びます。
3つ目は、代替方法の共有です。「拘束しないためにこうした」という実際の工夫を職員から集めます。集めた工夫は一覧にして残すと、翌年の材料にもなります。
毎年の芯は同じで構いません。3要件、5つの手続き、拘束にあたる行為の一覧。ここは変えずに毎年繰り返します。繰り返すから身につきます。
まとめ
身体拘束の研修は、定期的な研修と新規に採用した職員への研修の2つが求められます。回数は事業所の区分によりますが、年2回以上とされている形が一般的です。
採用時の研修が抜けやすいところです。年2回の定期を回していても、途中で入った人がどちらにも参加していない形が起きます。
伝える中身は5つ。原則として行わないこと、何が拘束に当たるか、3要件、代わりに何を試すか、記録の書き方。4つ目がいちばん役に立ちます。
記録には、日時・方法・内容・講師・参加者・参加できなかった人への対応を残します。回数と保存の期間は、所管の自治体に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 年に何回やればよいですか。 A. 事業所の区分とサービスの種類によって定められています。年2回以上とされている形が一般的です。あわせて、新規に採用した職員への研修が求められます。所管の自治体の案内で、自社の区分を確かめます。
Q. 虐待防止の研修と一緒にできますか。 A. 内容が重なる部分があるため、同じ日に続けて行う事業所があります。ただし、それぞれの研修として記録を分けて残します。合わせて行えるかどうかは、所管の自治体に確かめておくと安心です。
Q. 採用時の研修は、いつまでに行いますか。 A. 採用後できるだけ早い時期に行う形が求められます。実際に介護に入る前に伝えておきたい内容なので、初日か、最初の数日のうちに組み込んでいる事業所があります。記録に日付を残します。
Q. 講師に資格は要りますか。 A. 資格の要件が定められているわけではありません。身体拘束適正化の担当者や委員会のメンバーが務める形が一般的です。外部の研修を受けた人が社内で伝える形も、研修として記録できます。
Q. パートや夜勤専従の職員も対象ですか。 A. 介護に関わる職員は対象になります。集まりにくい勤務形態ほど、複数回に分ける、資料を渡す、録画を使うといった工夫が要ります。誰が受けたかを一覧にして、抜けを見つけます。
Q. 資料はどこで手に入りますか。 A. 自治体や事業者団体が研修用の資料を公開しています。自社の指針と、前回の資料があれば作れます。自社の事例を1つ加えると、一般論で終わらない研修になります。
Q. 参加できなかった人には、どう対応しますか。 A. 資料を渡して読んでもらう、後日個別に行う、録画を見てもらう。どの方法でもかまいませんが、対応した記録を残します。記録が無いと、全員に行き渡ったことが示せません。
Q. 研修の効果を、どう測りますか。 A. 拘束の件数、委員会で出てくる代替の案の数、記録の「非代替性」の欄の中身。この3つを年に1回見ます。とくに3つ目は、研修が効いていると変わってきます。
Q. 事例を扱うとき、個人が特定されませんか。 A. 年齢や状況を変える、複数の事例を混ぜるといった形で、特定されないように直します。自社の事例を使う利点は大きいので、直したうえで扱います。扱ってよいかを委員会で確かめる形もあります。
Q. 研修の記録は何年残しますか。 A. 介護保険の記録の保存に合わせる形が一般的です。完結の日から2年が国の基準で、条例で5年としている自治体があります。年度ごとにつづりを分け、資料も一緒に綴じておきます。
Q. 派遣や委託の職員にも研修は要りますか。 A. 現場でケアに関わる人には伝えます。雇用の形にかかわらず、拘束にあたる行為をしてしまえば事業所の問題になります。派遣元の研修とは別に、事業所の方針を伝える時間を取ってください。
Q. 研修の時間はどのくらい必要ですか。 A. 時間数の決まりは種別によって扱いが違います。時間より、全員が受けていることのほうが確かめられます。所轄の指定権者に必要な回数を確かめたうえで、記録に時間と出席者を残してください。
Q. 外部研修の資料を、そのまま事業所の研修資料にできますか。 A. 配布の可否は主催者によります。無断で複製できない資料もあるので、確かめてから使ってください。要点を自分の言葉で書き直した1枚を作るほうが、結局は現場で使われます。
Q. 研修を受けていない職員が1人残ってしまいました。 A. 未受講のまま年度をまたがせないことです。録画や資料での受講に振り替え、受講日を記録に残します。「全員実施」と書いて1人抜けている記録が、いちばん困る形になります。
Q. 研修の効果は、どう測ればいいですか。 A. テストより、現場の言葉の変化で見ます。受講から数か月後に、拘束にあたる行為を5つ挙げられるかを口頭で聞く形でも足ります。記録に残すなら、実施前後で「迷った場面の相談件数」がどう動いたかを並べます。
Q. 研修資料はどのくらい残しますか。 A. 出席簿と一緒に、実施した年度の資料を残します。中身が毎年変わるので、資料が無いと「何を伝えたか」を後から示せません。保存年数は運営の記録に合わせ、指定権者に確かめてください。