身体拘束適正化のための指針|書く項目と使い方
目次
指針は作ってある。ファイルのどこかにあるはずだが、最後に開いたのがいつか思い出せない。実地指導で「指針を見せてください」と言われて、探すところから始まる。よくある状態です。
この記事では、身体拘束適正化のための指針を、求められる理由・書く項目・使える形にする方法の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の指針を見直せる状態を目指します。
結論:4点セットのうちの1つ。無いと減算になる
身体拘束適正化のための指針とは、身体拘束を適正化するための考え方と手順をまとめた文書のことです。介護保険の運営基準で整備が求められています。
求められているのは指針だけではありません。委員会の開催、研修の実施、記録の整備とあわせて4点で1組になっています。
ポイントはここです。身体拘束を行っていなくても、4点は必要です。満たしていないと、身体拘束廃止未実施減算の対象になる場合があります。
拘束ゼロの事業所ほど「うちには関係ない」と考えがちですが、減算の理由は手続きの不備であって、拘束の有無ではありません。
書く項目
指針に書く内容は、おおむね決まっています。7つです。
1つ目は、身体拘束適正化に関する基本的な考え方です。原則として行わないこと、やむを得ない場合の扱い。
2つ目は、委員会その他の組織に関する事項です。構成、開催の頻度、役割。
3つ目は、身体拘束等の態様及び時間、利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由の記録に関する事項です。
4つ目は、身体拘束等を行う場合の報告・説明に関する事項です。誰に、どう説明するか。
5つ目は、身体拘束等の発生時の対応に関する事項です。
6つ目は、職員研修に関する事項です。
7つ目は、利用者等に対する当該指針の閲覧に関する事項です。
7つ目が抜けやすいところです。指針を利用者や家族が見られる状態にしておくことが求められます。掲示するか、ウェブサイトに載せるか、求めに応じて示すか。方法を書いておきます。
3要件を指針に書く
指針の中心は、緊急やむを得ない場合の3要件です。切迫性、非代替性、一時性。
書くときは、要件の言葉を並べるだけでなく、自社でどう判断するかまで書きます。
切迫性。誰が、どういう状況で、どう判断するか。
非代替性。どんな代替の方法を試すか。試した記録をどこに残すか。
一時性。期限をどう決めるか。誰がいつ見直すか。
「3要件を満たす場合に限り行う」とだけ書いてある指針は、使えません。いざというときに、この文を読んでも動けないためです。
判断する人も書いておきます。担当者1人では決められない形にしておくのが、拘束を減らす仕組みになります。
ひな形から自社版を作る
自治体や事業者団体がひな形を公開しています。そのまま使うと、自社に無い体制が残ります。手を入れるのは4か所です。
1つ目は、委員会の構成です。自社に無い職種が書かれていないか。
2つ目は、記録の様式名です。自社が実際に使っている様式の名前に直します。
3つ目は、報告と説明の経路です。誰から誰へ、家族へは誰が説明するか。
4つ目は、閲覧の方法です。掲示なのか、求めに応じてなのか。
削る作業がいちばん大事です。自社でやっていないことが書いてあると、指針と実態が食い違います。実地指導で、その食い違いが見つかります。
作成した日と改定した日を入れます。5年前のままの指針は、それだけで見直していないことが分かります。
使える形にする
作った指針が使われないのは、置き場所と長さの問題です。
置き場所。事務室の書棚の奥ではなく、職員がすぐ取れる場所に置きます。データなら、共有の場所に。
長さ。A4で数枚に収めます。長いほど読まれません。
要点の1枚。指針とは別に、3要件と判断の流れを1枚にまとめた紙を作り、現場に貼っておきます。いざというときに読むのはこちらです。
指針は制度のための文書、1枚は現場のための道具と分けて考えると、両方が生きます。
年に1回、委員会で読み合わせる時間を取ります。読まないと、書いてあることを誰も知らない状態になります。
委員会・研修とのつながり
4点は、ばらばらではありません。つながる形にすると、回しやすくなります。
委員会で、指針の見直しの要否を議題に入れます。年に1回で足ります。
研修で、指針を読み合わせます。指針の内容が研修の題材になります。
記録の様式を、指針に書いた名前とそろえます。食い違っていると、どちらかが古くなっています。
1つ動かすと、他の3つも動く形にしておくと、まとめて最新になります。ばらばらに管理すると、どれかが取り残されます。
閲覧できる状態にする
7つ目の項目です。利用者や家族が指針を見られる状態にします。取られている方法は3つです。
1つ目は、掲示です。事業所の見やすい場所に貼る。
2つ目は、ウェブサイトへの掲載です。
3つ目は、求めに応じて示すことです。この場合も、求められたらすぐ出せる形にしておきます。
重要事項説明書に、指針の閲覧について書いておく形もあります。契約のときに触れておくと、後から聞かれたときに慌てません。
家族から「うちの親は拘束されていないか」と聞かれることがあります。そのときに指針を示せると、方針が伝わります。
実地指導で見られるところ
指針について確かめられるのは4つです。
1つ目は、あるかどうかです。すぐ出せる形になっているか。
2つ目は、7つの項目が入っているかです。とくに閲覧に関する事項。
3つ目は、実態と合っているかです。書いてある委員会が実際に開かれているか、書いてある様式が使われているか。
4つ目は、見直しているかです。作成と改定の日付。
3つ目でつまずく事業所が多くあります。ひな形をそのまま使ったために、やっていないことが書いてある状態です。
指摘を受けたら、指針を実態に寄せるか、実態を指針に寄せるかを決めます。どちらでもよいので、そろえます。
指針の見直しをどう回すか
拘束指針は、作って貼っておけば足りるものではありません。中身が現場と合わなくなったときに直す形を持っておきます。
見直しのきっかけは3つあります。
1つ目は、年に1回の定期の見直しです。委員会の年間の予定に入れておくと忘れません。1年のあいだに起きた事例、増えた設備、変わった人員を反映します。
2つ目は、事例が出たときです。実際に緊急やむを得ない対応を取った場面が出たら、そのときの手順が指針の記述どおりだったかを確かめます。違っていたら、指針か手順のどちらかが実態と合っていないということになります。
3つ目は、制度が変わったときです。運営基準や解釈通知が変わると、指針に書いた根拠の部分がずれます。最新の扱いは所轄の市町村や都道府県の指定権者に確かめます。
見直したときは、版の番号と日付を表紙に入れます。「令和◯年◯月改訂(第3版)」という形です。古い版と新しい版のどちらを見ているのか分からない状態が、いちばん困ります。
改訂した指針は、委員会で決めてから配ります。担当者が1人で書き換えると、現場が知らないまま中身が変わります。委員会の議事録に「指針の◯章を改訂した」と残しておくと、あとから経緯をたどれます。
小さな事業所での作り方
職員が10人に満たない事業所でも、指針は要るとされています。規模が小さいほど、手を抜いた形にしたくなるところです。
現実的な作り方は3つあります。
1つ目は、団体のひな形を土台にすることです。全国老人福祉施設協議会などの職能団体、都道府県の高齢福祉課が、指針のひな形を出していることがあります。それを土台にして、事業所の名前と体制の部分だけを入れ替えます。
2つ目は、委員会を他の会議と同じ日に開くことです。身体的拘束等適正化検討委員会と、事故防止の委員会、感染対策の委員会を同じ日の前後に並べます。議事録は分けますが、集まるのは1回で済みます。
3つ目は、管理者が兼務することです。専任の担当者を置けない規模なら、管理者が担当を兼ねる形で構いません。ただし議事録に出席者として名前が並ぶだけの状態にはしないことです。委員会で何を話したかが1行も残っていない指針は、実地指導で確かめようがありません。
小規模だからこそ、書面を薄くして手順を厚くします。指針の本文は数ページで足りますが、「誰がどの順番で判断するか」の手順は、人が少ない事業所ほど具体的に書いておく必要があります。人が少ないと、判断できる人が休みの日が必ず出るからです。
家族への説明に使う
拘束指針は、実地指導のためだけの書面ではありません。家族に説明するときの土台になります。
説明の場面は2つあります。
1つ目は、契約のときです。重要事項説明書と一緒に、拘束をしない方針を口頭でも伝えます。「万一のときは縛るのですか」という質問は、入居の相談でよく出ます。先に答えておくと、あとの信頼が変わります。
2つ目は、緊急やむを得ない対応を取ったときです。3要件をすべて満たし、手続きを踏んだうえでの対応であっても、家族には説明が要ります。このとき指針があると、その場の判断ではなく決められた手順に沿った対応だったことを示せます。
説明したことは記録に残します。誰に、いつ、何を説明し、どう答えたか。家族の反応まで書いておくと、次の説明の入り口になります。
まとめ
身体拘束適正化のための指針は、委員会・研修・記録とあわせて4点で1組です。身体拘束を行っていなくても必要で、満たしていないと減算の対象になる場合があります。
書く項目は7つ。抜けやすいのは「利用者等に対する指針の閲覧に関する事項」です。掲示、ウェブサイト、求めに応じて示す。方法を書いておきます。
中心は3要件です。要件の言葉を並べるだけでなく、自社でどう判断するかまで書きます。「3要件を満たす場合に限り行う」だけでは使えません。
ひな形から作るときは、削る作業がいちばん大事です。やっていないことが書いてあると、実地指導で食い違いが見つかります。指針とは別に、現場に貼る1枚を作ると両方が生きます。
よくある質問
Q. 指針はどこで手に入りますか。 A. 自治体や事業者団体がひな形を公開しています。サービスの種類によって求められる内容が少し変わるため、自社に近いものを選びます。そのまま使わず、自社に無い体制を削る作業が要ります。
Q. 身体拘束をしていなくても指針が要りますか。 A. 必要です。減算の理由は手続きの不備であって、拘束の有無ではありません。拘束ゼロの事業所ほど「関係ない」と考えがちですが、4点すべてが求められています。
Q. 指針は何枚くらいが適当ですか。 A. A4で数枚に収まる長さが使われやすくなります。長いほど読まれません。7つの項目が入っていれば、簡潔でも足ります。詳しい手順は別の紙にして、指針からそちらを参照する形もあります。
Q. 改定はどれくらいの頻度で行いますか。 A. 決まりはありませんが、年に1回は見直す事業所が多くあります。委員会の議題に「指針の見直しの要否」を入れておくと、忘れません。改定しなかった場合も、確認した記録を残します。
Q. 閲覧の方法は、どれを選べばよいですか。 A. 掲示がいちばん確実です。場所が取れない場合は、ファイルを事業所の玄関に置く、ウェブサイトに載せるといった方法があります。どの方法を取るかを指針に書き、実際にその形にしておきます。
Q. 委員会と指針を、他のものと合わせられますか。 A. 委員会は合同で開ける場合がありますが、指針は身体拘束適正化のものとして別に整備します。虐待防止の指針と1つにまとめている事業所もありますが、それぞれの項目が入っているかを確かめます。
Q. 現場に貼る1枚には何を書きますか。 A. 3要件、判断する人、記録する様式、家族への説明の順番。A4で1枚に収めます。いざというときに読むのはこちらなので、文章ではなく箇条書きにします。
Q. 指針と実態が食い違っていることに気づいたら。 A. どちらかに寄せます。指針に書いた体制を実際に作るか、実態に合わせて指針を直すか。実地指導の前に気づけば直せます。放置すると、指摘の対象になります。
Q. 訪問系のサービスでも指針が要りますか。 A. サービスの種類によって求められる内容が変わります。訪問系でも整備が求められる場合があります。所管の自治体に、自社のサービスの区分で確かめるのが確実です。
Q. 指針を作ったことを、どこかに届け出ますか。 A. 届出の仕組みは一般にありません。実地指導で確かめられます。整備していること、委員会と研修を行っていること、記録があることが示せる形にしておきます。
Q. 指針は何ページくらいが目安ですか。 A. 決まりはありません。運営基準で求められている項目が入っていれば、5ページ前後でも足ります。長くすると誰も読まなくなります。読ませたい部分だけを抜いた1枚の要約を別に作ると、現場で使われます。
Q. 指針をホームページに載せる義務はありますか。 A. 掲示や備置きが求められているものですが、公開の方法は事業所の種類によって扱いが違います。運営規程の概要などを掲示する義務と混同しやすいところなので、所轄の市町村や指定権者に確かめてください。
Q. 委員会の議事録は何年残しますか。 A. 運営に関する記録の保存期間に合わせるのが一般的で、2年から5年の幅があります。都道府県や市町村の条例で年数が違うので、指定権者に確かめてください。迷ったら長いほうに合わせます。
Q. 指針と手順書は分けたほうがいいですか。 A. 分けたほうが使われます。指針は考え方と体制を書くもの、手順書は現場の動き方を書くものです。1つにまとめると、現場が読む部分にたどり着くまでが遠くなります。
Q. 指針に、緊急やむを得ない場合の様式まで載せますか。 A. 載せるか、別冊にして指針から参照する形にします。指針だけがあって様式が無いと、実際に使う場面で手が止まります。様式は3要件の確認、家族への説明、経過の観察、解除の判断まで一続きで書ける形にします。