虐待防止委員会とは?議題の型と記録の残し方
目次
虐待防止委員会は開いている。ところが「うちでは虐待は起きていません」で終わり、10分で閉会になる。それが毎回続くと、開く意味が分からなくなります。
この記事では、虐待防止委員会を、求められること・議題の型・続け方の3つに分けて整理します。読み終えたときに、虐待が起きていない月でも回る形をつくれる状態を目指します。
結論:委員会・指針・研修・担当者の4点で1組
虐待防止委員会とは、虐待の発生とその再発を防止するために、定期的に開く会議のことです。介護保険の運営基準で求められています。
求められているのは委員会だけではありません。指針の整備、研修の実施、担当者の配置とあわせて4点で1組になっています。
ポイントはここです。虐待が起きていなくても4点は必要です。満たしていないと減算の対象になる場合があります。起きたかどうかではなく、体制があるかどうかが問われます。
事故防止、感染症対策、身体拘束適正化の委員会と同じ作りです。合同で開ける場合があるので、まとめて日を取ると回しやすくなります。
議題の型
「虐待はありません」で終わらせないために、型を決めます。5つです。
1つ目は、気になった場面の共有です。虐待ではなくても、言い方が強かった、待たせてしまった、といった場面を出します。
2つ目は、不適切なケアの検討です。共有された場面のうち1つを選んで、なぜそうなったかを見ます。
3つ目は、前回の決めごとの確認です。前の月に決めたことが動いたか。
4つ目は、職員の負担の状況です。人手、残業、休みが取れているか。虐待の背景に負担があることが多いためです。
5つ目は、研修と指針の確認です。次の研修の予定。
4つ目が、他の委員会と違うところです。虐待は、悪意のある人が起こすより、余裕を失った人が起こすほうが多いとされています。負担を見るのが予防になります。
気になった場面を出せるようにする
1つ目の議題がいちばん難しいところです。自分や同僚の言動を出すことになるためです。
出しやすくする工夫が3つあります。
1つ目は、匿名でも出せる形にすることです。紙に書いて箱に入れる、といった形。
2つ目は、個人を特定しない言い方にすることです。「誰が」ではなく「こういう場面があった」と書きます。
3つ目は、出した人が責められないと約束することです。委員会の最初に毎回言葉にします。
出てこない月が続くなら、拾えていないと考えます。日々の申し送りで「ちょっと言い方がきつかった」といった話が出ているなら、それが委員会に上がっていない状態です。
記録に残すこと
議事録は、開いたことを示す唯一の証拠です。書くのは6つです。
開催の日時と場所。出席者。議題。検討の内容。決めたこと。次回の予定。
虐待防止の委員会では、記録の扱いに配慮が要ります。個人が特定される内容を詳しく書くと、後から見た人に影響します。事実は残しつつ、個人名の扱いを決めておきます。
決めたことには、主語と期限を入れます。「意識を高める」では、実行の確かめようがありません。
保存の期間は、介護保険の記録の保存に合わせる形が一般的です。所管の自治体の基準を確かめます。
指針に書くこと
指針は、虐待の防止に関する考え方と手順をまとめたものです。書く内容はおおむね決まっています。
基本的な考え方。虐待を許さないという方針。
委員会その他の組織に関すること。
職員研修に関すること。
虐待等が発生した場合の対応。通報の方法、事実確認、報告。
相談・報告の体制。誰に相談するか、外部の窓口。
成年後見制度の利用支援。
苦情解決の方法。
その他。
「通報の方法」がいちばん大事な部分です。職員が虐待に気づいたときに、誰にどう伝えるか。市町村への通報が法律上の義務であることも書いておきます。
指針は、職員がいつでも見られる場所に置きます。通報の連絡先を、指針とは別に1枚にして貼っておくと、いざというときに使えます。
研修をどう組むか
研修は年に何回かが定められています。回数は事業所の区分によります。
内容に迷うなら、次の3つを軸にします。
1つ目は、虐待の5つの類型です。身体的、介護放棄、心理的、性的、経済的。どれも身近な場面で起きうることを、事例で伝えます。
2つ目は、不適切なケアとの連続性です。虐待は突然起きるのではなく、気になる言い方から連続していることを扱います。
3つ目は、通報の義務と方法です。気づいたら通報すること、通報した人は保護されることを伝えます。
新しく入った職員には、採用時に行う形が求められる場合があります。年間の計画に、採用時の分も入れておきます。
記録には、実施した日、内容、参加者を残します。参加できなかった人へのフォローも書いておきます。
担当者の役割
4点目が、虐待の防止のための担当者です。誰が担うかを決めて、記録に残します。
役割は3つです。
委員会の準備と記録の取りまとめ。
相談を受ける窓口。職員が気づいたことを言える相手になります。
通報の判断と手続き。管理者と相談して進めます。
管理者が兼ねると、相談しにくくなることがあります。管理者自身の言動が気になる場合、相談できる相手がいなくなります。可能なら、管理者以外にも相談できる経路を用意します。
外部の窓口(市町村、地域包括支援センター)も、あわせて知らせておきます。
職員の負担を議題にする
虐待の背景には、職員の負担があることが多いとされています。委員会で数字を見ます。
見るのは4つです。
人員の充足。シフトが埋まっているか、欠員が続いていないか。
時間外労働。特定の人に集まっていないか。
有給休暇の取得。取れていない人がいないか。
離職と入職。人が入れ替わり続けていないか。
この4つが悪化しているとき、虐待の危険が上がります。数字で見えていれば、虐待が起きる前に手を打てます。
労務の担当が数字を持っているので、委員会に月1回持ち込んでもらう形にします。
職員の負担を数字で見る
議題の4つ目です。数字を持ち込む形にすると、話が具体的になります。
見るのは4つです。
1つ目は、人員の充足です。シフトの穴、欠員の期間。
2つ目は、時間外労働です。総時間と、特定の人への集中。
3つ目は、有給休暇の取得です。取れていない人がいないか。
4つ目は、離職と入職です。入れ替わりが続いていないか。
労務の担当が毎月持ち込む形にすると、委員会で確かめられます。悪化しているものがあれば、次の議題にします。
数字だけを見て、その場で解決しようとしないことです。傾向が見えれば足ります。対応は別の場で決めます。
指針と委員会をつなげる
虐待防止の指針と委員会は、別々に動きがちです。つなげておかないと、指針が読まれません。
つなげ方は4つあります。
1つ目は、委員会の議題に指針の項目を順に入れることです。年間で一巡する形にします。
2つ目は、事例が出たときに指針の該当部分を見ることです。書いてある手順と実際の動きが合っているかを確かめます。
3つ目は、改訂を委員会で決めることです。担当者が1人で書き換えないことです。
4つ目は、研修で指針を使うことです。指針の1章を読み合わせる回を作ります。
指針を作ったきり開いていない事業所が多くあります。開く場面を年間の予定に入れておくと、中身が現場と合っているかを確かめられます。改訂した版は、日付と版数を表紙に入れて配り直してください。
他の委員会と役割を分ける
事業所には委員会がいくつもあります。役割を分けておかないと、同じ話を何度もすることになります。
分け方は4つです。
1つ目は、虐待防止委員会が扱うものです。不適切なケア、権利擁護、職員の負担、通報の手順。
2つ目は、事故防止の委員会が扱うものです。転倒、誤嚥、誤薬、ヒヤリハット。
3つ目は、身体的拘束等適正化検討委員会が扱うものです。拘束の有無、代替の方法、指針の見直し。
4つ目は、重なる部分です。不適切なケアと拘束は地続きです。重なる議題は、どちらで扱うかを先に決めておきます。
同じ日に続けて開く形は使われています。ただし議事録は分けます。要件は種別によって違うので、所轄の市町村や指定権者に確かめてください。
1年の予定を先に組む
虐待防止の取り組みは、年間の予定に落としていないと後回しになります。
組むのは4つです。
1つ目は、委員会の開催日です。年度の初めに全部決めます。
2つ目は、研修の実施月です。定期と採用時。
3つ目は、指針の見直しの月です。
4つ目は、チェックリストや調査の実施月です。
4つを1枚の年間予定表にして、年度の初めに配ります。この1枚があるだけで、実施率が変わります。日を決めていない取り組みは、忙しい月に消えます。
まとめ
虐待防止委員会は、指針・研修・担当者とあわせて4点で1組です。虐待が起きていなくても必要で、満たしていないと減算の対象になる場合があります。
議題の型は5つ。気になった場面の共有、不適切なケアの検討、前回の決めごとの確認、職員の負担の状況、研修と指針。4つ目が、他の委員会と違うところです。
気になった場面を出しやすくするには、匿名で出せる形、個人を特定しない言い方、責めないという約束の3つです。出てこない月が続くなら、拾えていないと考えます。
指針では「通報の方法」がいちばん大事な部分です。通報の連絡先は別に1枚にして貼っておきます。開催の頻度と保存の期間は、所管の自治体に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 開催の頻度はどれくらいですか。 A. 事業所の区分とサービスの種類によって定められています。おおむね3か月に1回以上、あるいは毎月とされている形があります。所管の自治体の案内で確かめます。間隔が空きすぎると、議事録の日付から分かります。
Q. 他の委員会と合同で開いてもよいですか。 A. 合同での開催が認められている場合があります。身体拘束適正化、事故防止、感染症対策と同じ日に続けて開く形が取られています。議事録は分けて残し、それぞれの議題を扱ったことが分かる形にします。
Q. 虐待が起きていない月は何を話しますか。 A. 気になった場面の共有、職員の負担の状況、前回の決めごとの確認、研修の予定。この4つで30分は埋まります。「ありません」で終わらせないために、議題の型を紙にしておきます。
Q. 委員会のメンバーは誰にしますか。 A. 管理者、現場の職員、看護職、相談員など、立場の違う人を入れます。現場の職員が入っていないと、実際の場面が上がってきません。持ち回りにすると、全員が一度は参加します。
Q. 職員から「同僚の言動が気になる」と相談されたら。 A. まず事実を確かめます。いつ、どこで、何があったか。個人を責める前に、その人が余裕を失っていないかを見ます。虐待に当たると考えられる場合は、市町村への通報の判断に進みます。
Q. 通報すると、事業所が不利になりませんか。 A. 通報は法律上の義務とされており、通報した人は保護される仕組みがあります。通報しなかったことのほうが、後から問題になります。判断に迷う場合は、市町村や地域包括支援センターに相談できます。
Q. 指針はどこで手に入りますか。 A. 自治体や事業者団体がひな形を公開しています。そのまま使うと自社に無い体制が残るので、削る作業が要ります。通報の連絡先だけは、自社が使うものを正確に書きます。
Q. 担当者に資格は要りますか。 A. 資格の要件が定められているわけではありません。ただし、相談を受けられる立場であることが大事です。管理者が兼ねると相談しにくい場面があるため、別の経路も用意します。
Q. 職員の負担を議題にすると、話が広がりすぎませんか。 A. 数字だけを見る形にすると収まります。人員の充足、時間外、有給の取得、離職。4つの数字を見て、悪化しているものがあれば次の議題にします。その場で解決しようとしないことです。
Q. 記録を市町村に見せることはありますか。 A. 実地指導や監査で確かめられます。個人が特定される内容の扱いは、あらかじめ決めておきます。事実は残しつつ、必要以上に詳しく書かないという線引きが実務的です。
Q. 職員の負担を議題にすると、労務の話になりませんか。 A. なります。ただし、虐待の背景に負担があることは知られています。委員会では傾向を見るだけにして、対応は経営の側で決める形にすると、話が散りません。
Q. 委員会の記録に、職員の個人名を書きますか。 A. 書かない形が安全です。「特定の職員に時間外が集中している」という書き方で足ります。個人名を残すと、記録の扱いが難しくなります。
Q. 委員会の参加者に、現場の職員を入れるべきですか。 A. 入れてください。役職者だけだと、出てくる場面が限られます。順番に回す形にすると、多くの職員が委員会の中身を知ることになります。
Q. 事例が出てこない月はどうしますか。 A. 他の事業所の事例や、公表された事例を扱います。出てこない状態を「無い」と読まないことです。出せる場になっているかを、そのつど確かめてください。
Q. 担当者は誰が適任ですか。 A. 現場を見ていて、相談されやすい人が向いています。役職で決めると、相談が来ない形になることがあります。掲示して名前を知らせるところまでが役割の始まりです。
Q. 委員会の記録を実地指導で見せますか。 A. 見せることがあります。開催の日付と出席者、扱った内容が分かる形にしてください。毎回同じ内容が並んでいる議事録は、形だけと見られます。
Q. 委員会の開催頻度はどれくらいですか。 A. 種別によって求められる頻度が違います。所轄の市町村や指定権者に確かめてください。頻度を満たしたうえで、毎回同じ型で回すことが続けるこつです。