不適切なケアとは?虐待になる前に止める見つけ方
目次
虐待の研修は受けている。自分の職場で虐待が起きているとは思わない。けれど、忙しい日の自分の言い方を思い返すと、少し引っかかる。その引っかかりを、どう扱えばよいのかが分からない。
この記事では、不適切なケアを、どういうものか・見つけ方・止め方の3つに分けて整理します。読み終えたときに、職場で話題にできる状態を目指します。
結論:虐待と地続きにある、日常のケア
不適切なケアとは、虐待とまでは言えないが、利用者の尊厳を損なうおそれのある関わり方のことです。法令で定義された言葉ではありません。
それでも扱うのは、虐待が突然起きるのではなく、不適切なケアから連続しているとされているためです。
ポイントはここです。不適切なケアの段階で止めるのが、いちばん軽く済みます。虐待になってから止めると、利用者にも職員にも大きな影響が出ます。
「うちでは虐待は起きていない」は、多くの場合そのとおりです。問われているのは、その手前がどうなっているかです。
どういうものが当たるか
具体的な場面を並べます。どれも、忙しい日に起きやすいものです。
呼び方。「おじいちゃん」「ちゃん付け」「呼び捨て」。本人の同意なく使っている場合。
待たせる。「ちょっと待ってね」と言ったまま、10分以上戻らない。
急かす。食事や排泄を、職員の都合で早めさせる。
子ども扱い。「上手にできたね」といった声かけ。
無視。呼ばれているのに応じない、返事をしない。
説明しない。移乗や更衣を、声をかけずに始める。
選ばせない。服も食事も、職員が決めてしまう。
どれも、悪意から出ているものではありません。忙しい、人が足りない、その人のことをよく知らない。背景があります。
なぜ起きるのか
背景を見ないと、注意しても戻ります。よく挙がるのは4つです。
1つ目は、時間の余裕がないことです。1人にかけられる時間が短いほど、待たせ、急かします。
2つ目は、人手が足りないことです。2人で行うべき介助を1人でやると、声をかける余裕がなくなります。
3つ目は、その人のことを知らないことです。何が好きか、どう呼ばれたいか、何が怖いか。知らないと、一律の対応になります。
4つ目は、職場の空気です。周りがそうしていると、それが普通になります。新しく入った人ほど、早く染まります。
4つ目がいちばん強く効きます。個人の意識の問題として扱うと、空気は変わりません。
見つけ方
自分では気づきにくいのが、不適切なケアの難しいところです。見つける仕組みを3つ挙げます。
1つ目は、チェックリストです。場面を並べた紙を用意し、各自が丸を付けます。「やったことがある」に丸が付くのが普通で、そこから話が始まります。
2つ目は、お互いに見る形です。ペアを組んで、1日一緒に動き、気づいたことを伝え合います。責める形にしないことが条件です。
3つ目は、委員会で場面を共有することです。匿名で書いて出す形にすると、出てきます。
録音や録画は慎重に扱います。同意の問題があり、監視されている感覚が強くなります。使うなら、目的と扱いを決めてからです。
家族からの声も手がかりになります。苦情処理簿に、対応についての不満が書かれていれば、そこを見ます。
チェックリストの作り方
チェックリストは、自社の場面に合わせて作ると効きます。作り方は3段です。
1つ目は、場面を書き出すことです。呼び方、待たせる、急かす、説明しない、選ばせない。20項目くらいで足ります。
2つ目は、答え方を3段階にすることです。「よくある」「たまにある」「ない」。「ない」しか選べない形にすると、正直に答えられません。
3つ目は、集計して全体で見ることです。個人の結果ではなく、全体で多い項目を見ます。個人を特定すると、次から正直に答えられません。
年に1回か2回、同じチェックリストを使うと、変化が見えます。同じ項目が毎回多いなら、そこは個人の意識では変わりません。時間や人手の話になっています。
止め方
見つけたら、止め方に移ります。個人に注意するだけでは戻るので、3つの側から手を打ちます。
1つ目は、言い換えを決めることです。「ちょっと待ってね」を「あと5分で伺います」に。見通しを伝える形にするだけで、印象が変わります。
2つ目は、時間の使い方を変えることです。その場面に時間がかかっているなら、他の作業をずらします。
3つ目は、情報を増やすことです。その人がどう呼ばれたいか、何が苦手か。ケアプランや記録に書いておくと、誰が担当しても同じ対応になります。
1つ目は今日からできます。言い換えの一覧を作って掲示している事業所があります。
注意するときは、個人を呼び出すより、全体で決めた言い方に変える形のほうが定着します。「あの人が悪い」ではなく「うちはこう言うことにした」という形です。
新しい職員への伝え方
職場の空気は、新しく入った人にいちばん早く伝わります。だからこそ、最初に何を伝えるかが効きます。
伝えるのは3つです。
1つ目は、うちの言い方です。呼び方、声かけ。「こう言うことにしている」と最初に伝えます。
2つ目は、気になったら言ってよいということです。新しい人の目には、慣れた職員が見落としているものが見えます。
3つ目は、忙しいときの逃げ方です。「待ってもらうときは、必ず時間を伝える」といった、具体的な形を渡します。
新しい人が「前の職場ではこうだった」と言ったときは、聞く価値があります。外から来た人の違和感が、いちばん正確なことがあります。
記録と委員会につなげる
見つけたことは、記録に残して委員会で扱います。残す形は2つです。
1つ目は、気になった場面の記録です。匿名でよいので、いつ・どういう場面があったかを書きます。
2つ目は、チェックリストの集計です。年に1回か2回。
委員会では、1つ選んで下ろします。なぜその場面が起きたのか。時間か、人手か、情報か、空気か。
決めたことは、次の月に確かめます。言い換えを決めたなら、実際に使われているか。現場を見に行くのがいちばん確実です。
年に1回、1年分を振り返ります。同じ項目が残っているなら、個人の意識ではなく、配置や業務量の話として扱い直します。
言い換えの一覧を作る
止め方の1つ目です。言い換えを決めて、一覧にして貼っておきます。
作り方は3段です。
1つ目は、気になる言い方を集めることです。チェックリストや委員会で出てきたもの。
2つ目は、言い換えを全員で考えることです。押しつけると使われません。自分たちで決めた言葉のほうが定着します。
3つ目は、貼って使うことです。事務室、更衣室、フロア。
2つ目が要点です。「こう言いなさい」と渡された言葉は使われません。全員で考えると、自分の言葉になります。
一覧は、年に1回見直します。使われていない言い換えは、現場に合っていないということです。
委員会と記録につなげる
不適切なケアは、見つけたあとにどう扱うかでその後が変わります。委員会と記録につなげておきます。
つなげ方は4つです。
1つ目は、場面として出すことです。誰がやったかではなく、どういう場面だったかで出します。
2つ目は、背景を一緒に見ることです。人が足りない時間帯、急がせる業務の並び。個人の問題にしないことが、次に出してもらえるかを決めます。
3つ目は、決めたことを記録に残すことです。言い換え、手順の変更、人の配置。
4つ目は、次の回で確かめることです。変えたことが続いているか。
4つを回すと、報告が増えます。報告が増えることは悪いことではありません。見えていなかったものが見えるようになったという意味です。件数が減ったことを成果にすると、報告そのものが止まります。
忙しさを理由にしない形にする
不適切なケアの背景に、忙しさがあることはよく知られています。ただし忙しさを理由にすると、そこで話が止まります。
止めないための考え方は3つです。
1つ目は、忙しい時間帯を特定することです。「いつも忙しい」ではなく、朝の何時から何時までなのかを出します。
2つ目は、その時間帯にやっていることを並べることです。並べると、その時間でなくてよいものが混ざっています。
3つ目は、1つだけ動かすことです。全部を組み替えようとすると動きません。1つ動かして、1か月見ます。
忙しさは事実ですが、動かせる部分が必ずあります。動かせる部分を探す話にすると、現場も参加できます。人を増やす話だけになると、そこで終わります。
まとめ
不適切なケアは、虐待とまでは言えないが、尊厳を損なうおそれのある関わり方です。法令で定義された言葉ではありませんが、虐待と地続きにあります。
当たるのは、呼び方、待たせる、急かす、子ども扱い、無視、説明しない、選ばせないといった場面です。悪意から出ているものではなく、背景があります。
背景は、時間の余裕、人手、その人の情報、職場の空気の4つ。空気がいちばん強く効きます。個人の意識の問題として扱うと変わりません。
見つけ方は、チェックリスト、お互いに見る形、委員会での共有。止め方は、言い換えを決める、時間の使い方を変える、情報を増やすの3つです。言い換えは今日からできます。
よくある質問
Q. 不適切なケアは、通報の対象になりますか。 A. 虐待に当たるかどうかで変わります。当たらない場合でも、記録に残して委員会で扱います。判断に迷う場合は、市町村や地域包括支援センターに相談できます。通報の対象でないことと、放置してよいことは別です。
Q. チェックリストで「よくある」に丸が付いたら、その人を注意しますか。 A. 個人を特定して注意する形にすると、次から正直に答えられません。全体の集計として見て、多い項目から手を打ちます。個人の問題ではなく職場の問題として扱うほうが、結果として変わります。
Q. 呼び方は、本人が望んでいれば「ちゃん付け」でもよいですか。 A. 本人が望んでいるなら、それを記録に残しておきます。ただし、他の利用者や家族から見ると同じには見えません。誰がどう呼ばれたいかを記録に書き、担当が代わっても同じになる形にしておきます。
Q. 忙しくて、どうしても待たせてしまいます。 A. 待たせること自体より、見通しを伝えないことが問題になります。「あと5分で伺います」と伝え、5分で戻れないならもう一度声をかける。時間がかかるのは変えられなくても、伝え方は変えられます。
Q. 同僚の言い方が気になりますが、言いにくいです。 A. 個人に直接言うより、委員会で場面として出す形が動きやすくなります。匿名で書いて出せる仕組みがあると、さらに出しやすくなります。全体で決めた言い方に変えるという形にすると、誰かを責めずに済みます。
Q. 研修で扱うとき、どう伝えればよいですか。 A. 事例を出して「これは不適切か」と話し合う形が定着します。正解を教えるより、自分たちで線を引くほうが残ります。自社で実際に出てきた場面を使うと、いちばん身近になります。
Q. 新しく入った人が、前の職場のやり方を持ち込んできます。 A. まず、うちの言い方を伝えます。そのうえで、前の職場のやり方に良いところがあれば取り入れます。外から来た人の違和感は、慣れた職員が見落としているものを示していることがあります。
Q. 人手が足りないのが原因だと分かっても、増やせません。 A. 増やせないなら、時間の使い方を変えます。その場面に時間がかかっているなら、他の作業をずらす。全部を今までどおりにやりながら丁寧にするのは無理です。何かを止める判断が要ります。
Q. 家族から「対応が冷たい」と言われました。 A. 苦情として記録し、どの場面のことかを確かめます。具体的な場面が分かれば、そこから背景を見られます。「気をつけます」で終えると、同じことがくり返されます。
Q. チェックリストの項目は、どこかにひな形がありますか。 A. 自治体や事業者団体が公開しているものがあります。ただし、自社の場面に合わせて作り直すほうが効きます。自分たちの言葉で書かれているほうが、正直に答えられます。
Q. 不適切なケアを見つけたとき、その場で止めますか。 A. 利用者に影響が出ている場面なら、その場で止めます。そうでなければ、後で個別に話すか、委員会で場面として出します。その場で他の職員の前で指摘すると、関係が悪くなります。
Q. 自分がやってしまったと気づいた場合は。 A. 委員会に場面として出します。責められる場ではないことが伝わっていれば、出せます。自分から出した場面は、他の職員にとってもいちばん学びになります。
Q. 不適切なケアと虐待の線は、どこで引きますか。 A. 線を引くことに時間をかけないほうが実務的です。どちらも止める対象です。虐待にあたるかどうかの判断は市町村が行います。迷う場面は、所轄の市町村に相談してください。
Q. 他の職員のケアが気になりますが、言い出せません。 A. 直接言わなくて構いません。虐待防止の担当者か管理者に伝えます。匿名で出せる仕組みを作っている事業所もあります。1人で抱えないことが大事です。
Q. 家族から見て不適切に見える場面があるようです。 A. 家族から指摘があったら、苦情として記録に残し、委員会で扱います。説明して終わりにしないことです。外から見てそう見えたという事実自体が、見直しの材料になります。
Q. チェックリストは、名前を書いて提出させますか。 A. 無記名で集める形から始めるほうが、本当のことが出ます。集計だけを委員会で扱う形にすると、書く側の負担も減ります。慣れてきたら記名に変える選択もあります。
Q. 言い換えを決めても、つい元の言い方が出ます。 A. 出て構いません。気づいて言い直せるようになることが第一段階です。その場で言い直した回数を数える取り組みをしている事業所があります。責めずに続けられる形です。