誤嚥事故とは?起きたときの動きと記録の残し方
目次
食事の場面でむせることは日常的にあります。だからこそ、どこからが事故なのか、どこから記録に残すのかが曖昧になります。実際に詰まらせたときには、手順を思い出している余裕がありません。
この記事では、誤嚥事故を、起きる前の備え・起きたときの動き・記録の3つに分けて整理します。読み終えたときに、職員に渡す1枚をつくれる状態を目指します。
結論:気づいてから1分が分かれ目
誤嚥事故とは、食べ物や飲み物、唾液などが気管に入ることで起きる事故のことです。詰まって窒息する場合と、肺に入って肺炎につながる場合があります。
介護の現場では、死亡につながる事故の中でも多いとされています。市町村への報告の対象になる事故に当たることも多くあります。
ポイントはここです。気づいてからの1分で結果が変わります。呼吸ができていない状態が続くと、短い時間で意識を失います。手順を調べている時間はありません。
だからこそ、手順を紙にして食堂に貼っておくことが、いちばん実際的な備えになります。覚えているかどうかに頼らない形にします。
起きたときの動き
窒息が疑われる場面での動きは、順番が決まっています。
1つ目は、声をかけて反応を見ることです。「喉に詰まりましたか」と聞き、答えられるかを見ます。咳ができているなら、まだ空気は通っています。
2つ目は、人を呼ぶことです。1人で対応しません。大声で応援を呼び、救急への連絡を頼みます。
3つ目は、異物を出す処置です。背部叩打法や腹部突き上げ法が案内されています。方法は研修で体を動かして覚えるもので、文章だけでは身に付きません。
4つ目は、反応が無くなった場合の対応です。心肺蘇生に移ります。
吸引を行うかどうかは、資格と状況によります。誰が行えるかを事業所で確かめておきます。
食事の場面にいる職員が全員、この順番を言える状態にしておきます。年に1回の研修で、実際に動いてみるのが効きます。
起きる前にできること
起きてからの対応より、起きにくくする手当てのほうが効きます。見るのは5つです。
1つ目は、姿勢です。深く腰かけ、足が床に着き、あごが上がっていない状態。車いすのまま食べると、あごが上がりやすくなります。
2つ目は、食事の形態です。刻み、ソフト食、ミキサー。刻み食がかえって危ない場合があるとされていて、まとまりのある形のほうが安全なことがあります。
3つ目は、水分のとろみです。さらさらした水分がいちばんむせやすくなります。とろみの濃さは人によって違います。
4つ目は、食事の速さと一口の量です。急いで食べる人、詰め込む人には、声をかけて間を置きます。
5つ目は、覚醒の状態です。眠そうなときは食べさせません。起こしてからが基本になります。
このうち、姿勢と覚醒の2つは、今日から変えられます。形態やとろみは、看護職や管理栄養士、医師と相談して決めます。
記録に残すこと
誤嚥が起きたら、記録に残します。残す内容は、起きたことと、その後の経過に分かれます。
起きたこと。日時、場所、何を食べていたか、食事の形態、姿勢、誰が付いていたか、どんな様子だったか。
取った対応。声かけ、処置、吸引、救急への連絡、受診。
経過。呼吸の状態、意識、顔色、その後の様子。数日は経過を見ます。
経過の記録がいちばん抜けます。その場は落ち着いたので終わりにしてしまい、翌日に発熱したときに前の記録がありません。誤嚥性肺炎は後から出てくるため、数日は記録を続けます。
食事の形態や姿勢は、記録に残しておくと後で見直せます。「いつもの形態だったのか、その日だけ違ったのか」が分かります。
報告の要否
誤嚥事故は、市町村への報告の対象になることがあります。基準は市町村によって異なりますが、受診した場合や、死亡につながった場合は対象になることが多くあります。
その場で詰まりが取れて何もなかった場合も、社内の記録には残します。報告の対象でないことと、記録に残さないことは別です。
家族への連絡も、その日のうちに行います。何が起きて、どう対応し、いまどうなっているか。受診していない場合でも伝えます。
報告の基準は、所管の市町村に確かめるのが確実です。判断に迷う事故は、電話で相談すると教えてもらえることがあります。
食事の場面の人の配置
誤嚥は、見ていないときに起きます。人の配置が、そのまま備えになります。
決めておくのは3つです。
1つ目は、誰がどの席を見るかです。フロア全体を「誰かが見ている」状態にすると、実際には誰も見ていません。席を割り振ります。
2つ目は、危険の高い人を誰が見るかです。むせやすい人、食べる速さが速い人。その人の近くに職員を置きます。
3つ目は、職員が食事の介助以外の作業をしないことです。配膳、下膳、記録。食事の時間に他の作業を入れない形にできるかを見ます。
人数が足りないなら、食事の時間をずらすという手もあります。全員を同時に食べさせないことで、見られる人数が増えます。
研修で体を動かす
手順を紙にしても、いざというときに動けるとは限りません。年に1回は、体を動かす研修を入れます。
やるのは3つです。背部叩打法の姿勢、腹部突き上げ法の手の位置、応援の呼び方。人形や職員同士で、実際に手を当ててみます。
あわせて、その場にいない人を呼ぶ練習もします。大声で呼ぶのか、ナースコールを使うのか、内線をかけるのか。決まっていないと、その場で迷います。
研修の記録は残します。実施した日、内容、参加者。参加できなかった人へのフォローまで決めておくと、全員に行き渡ります。
消防や自治体が救命の講習を行っていることがあります。外部の講習を使う形でもかまいません。受けた記録を事業所で残します。
食形態を変えるときの手順
むせが続く人の食形態を変えるときは、手順を決めておきます。4段です。
1つ目は、記録を集めることです。いつ、何を食べたときにむせたか。1週間ぶんあれば傾向が見えます。
2つ目は、専門職に相談することです。看護職、管理栄養士、医師、歯科。介護の側だけで変えません。
3つ目は、変更と周知です。変えた内容を、厨房と現場の両方に伝えます。掲示と記録の両方にします。
4つ目は、変更後の記録です。むせが減ったか、食べる量が変わったか。2週間は丁寧に記録します。
3つ目でずれることがあります。厨房には伝わったが現場に伝わっていない、あるいはその逆。両方に伝えたことを記録に残します。
形態を変えると、食べる量が減ることがあります。安全と、食べる楽しみの両方を見ながら決めます。
家族に食形態を伝える
誤嚥の対策は、家族の協力が要る場面があります。伝え方を決めておきます。
伝えるのは4つです。
1つ目は、いまの食形態です。きざみ、ソフト食、とろみの濃さ。言葉だけでなく、実物か写真で見てもらうと伝わります。
2つ目は、変えた理由です。むせる回数が増えた、飲み込みに時間がかかる。事実で伝えます。
3つ目は、差し入れの扱いです。持ち込みの食べ物で事故が起きることがあります。何なら大丈夫かを具体的に伝えます。「気をつけてください」では伝わりません。
4つ目は、面会のときの介助です。家族が食べさせる場合の姿勢と一口の量。
3つ目がいちばん多い事故のもとです。本人が好きなものを持ってきたいという気持ちは自然なので、頭ごなしに止めない形で伝えます。相談してもらえる関係のほうが、結果として安全になります。
まとめ
誤嚥事故は、気づいてからの1分で結果が変わります。手順を調べている時間はないため、紙にして食堂に貼っておくのが実際的な備えになります。
起きたときの動きは、声をかけて反応を見る、人を呼ぶ、異物を出す処置、反応が無ければ心肺蘇生の順です。方法は研修で体を動かして覚えます。
起きにくくする手当ては、姿勢、食事の形態、とろみ、速さと一口の量、覚醒の状態の5つです。姿勢と覚醒は今日から変えられます。
記録は、起きたこと・対応・経過の3つ。抜けやすいのは経過で、誤嚥性肺炎は後から出てきます。市町村への報告の基準は、所管の市町村に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. むせただけでも記録に残しますか。 A. 残しておくと、その人のむせやすさが見えてきます。毎食むせている人は、形態や姿勢を見直す対象です。1回ごとの重さではなく、続いているかどうかが手がかりになります。
Q. 吸引は誰が行えますか。 A. 資格や研修の要件があります。事業所で誰が行えるかを確かめ、一覧にしておきます。その場で「誰ができるか」を探すことにならない形にします。
Q. 刻み食は安全ではないのですか。 A. まとまりが無く、口の中でばらけることで、かえってむせやすくなる場合があるとされています。どの形態が合うかは人によって違うため、看護職や管理栄養士、医師と相談して決めます。
Q. とろみの濃さはどう決めますか。 A. 薄すぎるとむせ、濃すぎると飲み込みにくくなります。専門職の評価をもとに決め、濃さを記録に残して同じように作れる形にします。作る人によって変わるのが、いちばん多い問題です。
Q. 食事中に眠ってしまう人はどうしますか。 A. 起きるまで食べさせないのが基本です。起きない場合は、食事の時間そのものを見直します。夜の睡眠や薬の影響が背景にあることがあるので、看護職に相談します。
Q. 家族から「詰まらせないでほしい」と言われたら。 A. 完全に防ぐことはできないことを、はじめに伝えておきます。そのうえで、事業所が取っている手当てを具体的に説明します。契約のときに伝えておくと、事故が起きたときの受け止めが変わります。
Q. 誤嚥性肺炎は事故に入りますか。 A. 直前の誤嚥との関係が分かる場合は、事故として扱うことがあります。報告の対象になるかは市町村の基準によります。記録が残っていないと関係を説明できないので、経過を残します。
Q. 食事の様子を動画で撮ってもよいですか。 A. 本人や家族の同意が要ります。嚥下の評価のために専門職が撮ることはありますが、扱いを決めておきます。撮ったものの保存と、見られる範囲も決めます。
Q. 一口の量はどれくらいが目安ですか。 A. 人によって違いますが、スプーンに山盛りにしないことが基本です。その人に合う量を決めて、記録に残すと、介助する人が代わってもそろいます。
Q. とろみの濃さを、誰が決めますか。 A. 専門職の評価をもとに決めます。決まった濃さを記録に残し、作る人が代わっても同じになる形にします。計量の道具を使うと、ばらつきが減ります。
Q. 食事中に人手が足りません。 A. 食事の時間をずらす、配膳や下膳を別の職員が行う、記録を後回しにする。この3つで、見る人数を増やせます。人手を増やせなくても、時間の使い方は変えられます。
Q. 誤嚥性肺炎は、どれくらい後に出ますか。 A. すぐに症状が出るとは限りません。数日後に発熱する形があります。誤嚥があった日から数日は、体温と呼吸の様子を記録に残します。記録が無いと、関係を説明できません。
Q. 食事の介助を1人で何人まで見られますか。 A. 明確な基準がありません。むせやすい人が何人いるか、自分で食べられる人が何人かで変わります。1人が見る人数を決めて、実際にやってみて無理があるなら見直します。
Q. とろみを嫌がる人がいます。 A. 味や口触りが理由のことがあります。とろみ剤の種類を変える、温度を変える、少量から試す。試したことと結果を記録に残すと、次の人が続きから試せます。専門職にも相談します。
Q. 経管栄養の方でも誤嚥は起きますか。 A. 起きます。唾液や逆流によるものがあります。口腔ケアと、姿勢の管理が予防につながります。食事をしていないからといって、誤嚥の危険が無いわけではありません。
Q. 食事の記録に、むせの有無を書く欄を作るべきですか。 A. 作ると、続いているかどうかが分かります。丸を付けるだけの形にすれば、書く負担は増えません。毎食むせている人は、形態や姿勢を見直す対象になります。
Q. 食堂に貼る1枚には、何を書きますか。 A. 声をかける、人を呼ぶ、処置、救急。この4段を大きな字で書きます。裏面に、起きにくくする5つ(姿勢・形態・とろみ・速さ・覚醒)を書いておくと、日ごろの確認にも使えます。
Q. 研修で処置の練習をしたいのですが、人形がありません。 A. 職員同士で、位置と姿勢を確かめる形でもできます。背中のどこを叩くか、手をどこに当てるか。消防や自治体が救命の講習を行っていることもあるので、外部の講習を使う形もあります。
Q. むせただけの場合も記録に残しますか。 A. 残します。むせた回数が増えている状態は、次の事故の手前です。1行で構わないので、食事の記録に残す欄を作ってください。回数が見えると、食形態の相談ができます。
Q. 吸引は介護職が行えますか。 A. 一定の研修を修了し、条件を満たした場合に行える範囲があるとされています。事業所の体制と個人の要件の両方が要ります。所轄の都道府県の担当課に確かめてください。
Q. 食事の介助中に他の人から呼ばれたらどうしますか。 A. 介助を中断して離れないことが原則です。離れるときは、いったん口の中を空にしてからにします。呼ばれたときの動き方を、事業所の手順に書いておいてください。
Q. とろみの濃さが人によって違ってしまいます。 A. 計量する道具を決めて、濃さの見本を作ります。言葉だけでは必ずばらつきます。作った人の名前を残す運用にすると、濃さの違いに気づけます。
Q. 食事の姿勢は、どこまで細かく決めますか。 A. 角度、足の位置、テーブルの高さ、顎の向き。この4つを人ごとに決めて、居室か食堂に写真で貼っている事業所があります。言葉より写真のほうが揃います。