アクシデントレポートとは?インシデントとの違い
目次
ヒヤリハットは書いている。事故報告書も様式がある。ところが「アクシデントレポート」と言われると、どれのことを指しているのかが分からない。職場によって呼び方が違い、新しく入った人ほど迷います。
この記事では、アクシデントレポートを、インシデントとの線引き・書く内容・出す先の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社でどの様式を使うかを決められる状態を目指します。
結論:実際に害が及んだものがアクシデント
アクシデントレポートとは、実際に利用者や患者に害が及んだ出来事について書く報告のことです。医療の現場から広まった言葉で、介護の現場でも使われています。
分かれ目は、害が及んだかどうかです。及んでいなければインシデント、及んでいればアクシデント、という分け方が一般的とされています。
ポイントはここです。法令で「アクシデントレポート」という書類が定められているわけではありません。介護保険の制度で求められるのは、事故が発生した場合の市町村への報告と、記録の整備です。
つまり、アクシデントレポートは社内の呼び名であり、法令上の書類としては事故報告書に当たることが多くなります。呼び方を社内で1つに決めておくと、迷いが減ります。
インシデントとの線引き
線引きで迷うのは、害の程度が小さいときです。実務でよく出てくる場面を3つ並べます。
1つ目は、転倒したが外傷が無かった場合です。転んだ事実はあるが、けがは見当たらない。ここは職場によって扱いが分かれます。
2つ目は、誤薬したが影響が出なかった場合です。飲ませてしまった事実はあるが、症状は出ていない。
3つ目は、後から症状が出た場合です。その場では何も無かったのに、翌日になって痛みを訴えた。
迷うものは重いほうで扱うと決めておくと、その場の判断が要りません。後から「あれは書いておくべきだった」となるより、書いておいて問題ないほうを選びます。
大事なのは、分け方を社内で1つに決めておくことです。人によって扱いが違うと、集計しても意味が出ません。
書く内容
アクシデントレポートに決まった様式はありませんが、書く内容は事故報告書と重なります。
いつ、どこで、誰に、何が起きたか。発生の日時と場所、対象になった方の氏名、出来事の内容。
発見の状況。誰が、どうやって気づいたか。
その場で取った対応。バイタルの測定、受診、家族への連絡。
傷害の程度。外傷の有無、受診の結果、経過。
原因と、背景にあったこと。なぜ起きたか。
「原因」の欄がいちばん難しく、いちばん価値があります。「不注意」「確認不足」と書いてしまうと、そこで止まります。その日の人数、その時間帯の忙しさ、物の置き場所。変えられるものにたどり着くまで下ろします。
出す先は社内と社外に分かれる
書いたレポートの行き先は2つあります。
1つ目は、社内です。事故防止の検討委員会や、管理者への報告。記録として保存します。
2つ目は、社外です。一定の事故については、市町村への報告が求められています。報告の基準は市町村によって異なります。
社内のレポートをそのまま市町村へ出すことはできません。市町村が定める様式があるためです。ただし、社内のレポートが詳しければ、写す作業で済みます。
家族への説明も別の流れです。レポートを書く前に、家族への連絡が先になる場面が多くあります。連絡した時刻と内容は、レポートにも残します。
書ける雰囲気をつくる
制度を整えても、書かれなければ何も残りません。書かれない理由は、たいてい2つです。
1つ目は、責められることです。書いた人が叱られる職場では、次から書かれません。出来事を書く場であって、人を裁く場ではないことを、くり返し伝えます。
2つ目は、時間が無いことです。勤務の終わりに書かせると、帰る時間が延びます。勤務時間の中で書ける形にするのが要点です。
様式を短くするのも効きます。A4で1枚に収め、選択式を増やします。書く量が多い様式ほど、書かれません。
書かれたレポートに対して、何が変わったかを返すのも大事です。「この報告を受けて、置き場所を変えました」と伝われば、次も書かれます。
集めた後に何をするか
レポートは、集めて綴じるだけでは事故は減りません。効いてくるのは、並べて見たときです。
並べ方は3つあります。時間帯で並べる、場所で並べる、内容で並べる。
同じ時間帯に集まっていれば、人手の配置の問題です。夕方の忙しい時間に集中しているなら、その時間の人数を見ます。
同じ場所に集まっていれば、環境の問題です。特定の居室や廊下で起きているなら、そこを見に行きます。
同じ内容が続いていれば、手順の問題です。移乗のときだけ起きているなら、手順を見直します。
月に1回、この3つの軸で並べる時間を取ります。10分でも、続けていれば見えてきます。
様式を1枚にまとめる
ヒヤリハット、アクシデント、事故報告。3つの様式を別々に持つと、どれを使うかで迷います。1枚にまとめる形も取れます。
まとめるときの工夫は3つです。
1つ目は、先頭に区分の欄を置くことです。「害に至らなかった/害に至った」を丸で囲む形にします。ここで分けられれば、様式は1つで足ります。
2つ目は、区分によって書く量を変えることです。害に至らなかったものは、上半分だけ書けば終わり。至ったものは、下半分の「対応」「傷害の程度」「家族への連絡」まで書く。軽いものが短く済む形にしておかないと、ヒヤリハットが出てきません。
3つ目は、原因の欄に選択肢を置くことです。「人手」「手順」「環境」「本人の状態」「情報の共有」といった区分を並べ、当てはまるものに丸を付けたうえで、1行書き足してもらいます。白紙だと手が止まりますが、選択肢があると書けます。
1枚にまとめると、集計も1か所でできます。区分の欄で抜き出せば、害に至ったものだけを並べられます。
書いた人に返す
レポートを書いた人に、その後どうなったかを返す仕組みがあると、次も書かれます。
返し方は簡単で、委員会で検討した結果を1行書いて戻すだけです。「置き場所を変えました」「手順に1つ足しました」「今回は様子を見ます」。何も変えないという結論でも、返すこと自体に意味があります。
返さないと、書いても何も変わらないという感覚が残ります。そうなると、次からは口頭の申し送りだけで済まされます。
月に1回の委員会の議事録に、検討したレポートの番号を書いておくと、返す作業が漏れません。番号を振っておけば、どれが検討済みでどれが残っているかも分かります。
小さな事業所では、委員会を開かなくても、管理者が一言返すだけで足ります。返す相手と返す時期を決めておくのが要点です。
呼び方を社内で1つに決める
アクシデント、事故報告、インシデント、ヒヤリハット。呼び方が複数あると、会話が噛み合いません。決めるのは3つです。
1つ目は、使う言葉です。社内で使う呼び方を1つに決めます。「事故報告」と「アクシデントレポート」を両方使わない。
2つ目は、様式の名前です。言葉と様式の名前をそろえます。
3つ目は、新しく入った人への説明です。初日に、どの様式に何を書くかを伝えます。
呼び方がそろっていないと、同じ出来事が別の様式に書かれることが起きます。集計も分かれます。
外部とやり取りするときは、相手の言葉に合わせます。市町村の様式は「事故報告書」であることが多いため、社内の言葉と違っても混乱しない形にしておきます。
家族への説明とつなげる
アクシデントレポートは社内の記録ですが、家族への説明の材料にもなります。ここがつながっていないと、説明のたびに作り直すことになります。
つなげ方は4つあります。
1つ目は、事実と推測を分けて書くことです。見た人がいる部分と、そうでない部分。家族に説明するとき、この線を越えると訂正することになります。
2つ目は、時刻を細かく残すことです。気づいた時刻、看護職が見た時刻、家族に連絡した時刻。連絡が遅れたと感じられる場面では、ここが必ず聞かれます。
3つ目は、その後の経過を追記することです。1回書いて終わりにしません。受診の結果、状態の変化。
4つ目は、説明した内容を残すことです。誰に、いつ、何を伝え、どう答えたか。
4つが揃っていれば、説明の場でその紙を見ながら話せます。記憶で話すと、人によって説明が変わります。説明が変わることが、不信のいちばんの原因になります。
まとめ
アクシデントレポートは、実際に害が及んだ出来事について書く報告です。害が及んでいなければインシデント、という分け方が一般的とされています。
法令で定められた書類名ではありません。社内の呼び名であり、制度の側で求められるのは、事故が発生した場合の市町村への報告と、記録の整備です。
線引きに迷う場面では、重いほうで扱うと決めておくと判断が要りません。大事なのは、分け方を社内で1つに決めておくことです。
書いた後の行き先は、社内の記録と市町村への報告に分かれます。市町村の様式は別なので、社内のレポートをそのまま出すことはできません。報告の基準と様式は、所管の市町村に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. インシデントとアクシデントを分ける必要はありますか。 A. 法令で分けることが求められているわけではありません。ただし、分けておくと集計の意味が変わります。害に至らなかったものが多いのか、至ったものが多いのかで、打つ手が変わります。
Q. 職員がけがをした場合も、アクシデントレポートですか。 A. 職員の負傷は労働災害の側の話になります。労働者死傷病報告など、別の手続きが関わります。利用者に関する記録とは分けて残します。
Q. 様式は1つにまとめられますか。 A. ヒヤリハットと事故報告を1つの様式にしている事業所もあります。ただし、書く量が変わるため、軽いものは短く書ける形にしておかないと、ヒヤリハットが出てこなくなります。
Q. 誰が書きますか。 A. 発見した人、あるいは関わった人が書くのが基本です。ただし、本人が動揺している場合は、聞き取りながら他の人が書く形でもかまいません。誰が書いたかを記録に残します。
Q. 書いたレポートは何年残しますか。 A. 介護保険の記録は完結の日から2年、条例で5年としている自治体があります。事故に関する記録は長めに残している事業所が多くあります。所管の自治体に確かめます。
Q. 原因の欄に「不注意」と書いてはいけませんか。 A. 書いてはいけないわけではありませんが、そこで止まると次につながりません。なぜ注意が向かなかったのかまで下ろすと、変えられるものが出てきます。人数、時間帯、物の配置など。
Q. 家族へは、レポートを見せますか。 A. 見せる決まりはありませんが、説明の内容と食い違わないようにします。開示を求められた場合の対応も、あらかじめ決めておくと慌てません。
Q. 集計は何を見ればよいですか。 A. 件数の増減より、内容の偏りを見ます。件数が増えたのは報告されるようになっただけかもしれません。同じ場所・同じ時間帯・同じ内容が続いているかを見ます。
Q. レポートが一件も上がらない月は、何もしなくてよいですか。 A. 起きていないのか、書かれていないのかを確かめます。ゼロが続く職場は、書けない雰囲気になっていることが多くあります。日々の申し送りで小さな出来事が出ているなら、それが書かれていない状態です。
Q. 医療機関から来た職員が、別の呼び方を使います。 A. 医療の現場では、インシデントとアクシデントの分け方が定着しています。介護の現場の言葉に合わせてもらうか、両方が同じものを指していることを共有します。新しく入った人に最初に伝える内容の1つです。
Q. レポートの枚数を評価に使ってもよいですか。 A. 使うと、書かれなくなります。枚数が多い職員が問題があるように見える形にすると、報告が止まります。報告が上がっていることを評価する向きにするほうが、結果として事故が減ります。
Q. 家族から報告書の写しを求められたら。 A. 開示の手順を決めておきます。他の利用者の情報が含まれる部分は除きます。求められることを前提に書いておくと、そのまま出せます。手順と費用を重要事項説明書に書いておく形もあります。
Q. レポートの様式を変えたいのですが、いつ変えますか。 A. 年度の変わり目が区切りとして分かりやすくなります。ただし、書きにくさが原因で報告が減っているなら、すぐ変えます。変えた日を記録に残し、旧様式との対応が分かるようにしておきます。
Q. 事故とヒヤリハットで、様式を分けるべきですか。 A. 1枚にまとめて区分の欄を作る形が扱いやすくなります。軽いものが短く済む形にしておかないと、ヒヤリハットが出てこなくなります。集計は区分の欄で抜き出せます。
Q. アクシデントレポートは、書いた人の評価に使われますか。 A. 使わないことを明示してください。評価に使うと、報告が出てこなくなります。出てこない事故は、対策も打てません。方針を文書にして、研修のたびに繰り返し伝えます。
Q. 夜勤で1人のときに起きた場合、誰が書きますか。 A. 気づいた本人が書きます。ただし1人で全部を書ききる必要はありません。朝の申し送りで共有し、時刻と見たことだけ先に残して、続きは日勤帯で足す形で構いません。
Q. 訪問系のサービスで、利用者宅で起きた場合はどうしますか。 A. 同じように書きます。加えて、その場にいた家族の有無と、連絡した相手を残します。サービス提供責任者とケアマネジャーにも共有してください。
Q. 事故の当日に書けなかった場合、日付はどうしますか。 A. 起きた日と、書いた日の両方を残します。さかのぼって書いたように見せないでください。遅れて書いたと分かる形のほうが、記録として信用されます。