口腔ケアの記録|見るところと書き方を決める
目次
口腔ケアは毎食後に行っている。記録には「口腔ケア実施」と書く。それだけだと、口の中がどうなっているかは誰にも伝わりません。次に見た人が、前と比べられない状態が続きます。
この記事では、口腔ケアの記録を、なぜ大事か・見るところ・書き方の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の記録の欄を決められる状態を目指します。
結論:誤嚥性肺炎と食事につながる記録
口腔ケアの記録とは、口の中の清潔を保つ関わりと、そのときに見えた状態を残す記録のことです。
口腔ケアが大事なのは、清潔のためだけではありません。誤嚥性肺炎の予防と、食べる力を保つことにつながるためです。
ポイントはここです。口の中は、ケアのときにしか見えません。そのときに見たことを書かないと、変化に気づく機会が失われます。
「実施」だけの記録が続くと、口内炎ができていても、義歯が合わなくなっていても、誰も気づかないままになります。
見るところ
ケアのときに見る場所を決めておきます。6つです。
歯と歯ぐき。汚れ、出血、ぐらつき、痛み。
舌。白い苔のような汚れ、乾燥、傷。
頬の内側と上あご。汚れ、できもの、口内炎。
唇。乾燥、ひび割れ。
義歯。合っているか、汚れ、傷、割れ。
口臭。強くなっていないか。
舌と上あごが見落とされやすい場所です。歯だけを磨いて終わると、舌の汚れが残ります。とくに経口で食べていない人は、舌に汚れが溜まりやすくなります。
義歯が合わなくなるのは、体重が減ったときに起きやすくなります。食事量の記録とあわせて見ます。
書き方
記録を比べられる形にするには、3つを書きます。
1つ目は、行ったことです。誰が、どのように。自分で磨いたのか、介助したのか、仕上げ磨きをしたのか。
2つ目は、口の中の状態です。見るところ6つのうち、気づいたこと。
3つ目は、本人の様子です。嫌がったか、痛がったか、協力してくれたか。
「異常なし」も記録です。何も無かったことが書いてあれば、次に何かが出たときに「いつからか」が分かります。
選択式にすると続きます。「歯ぐきの出血:あり/なし」「舌の汚れ:多い/ふつう/少ない」。書く量を減らすほど、書かれます。
自分で磨ける人の記録
自分で磨ける人は、記録が薄くなりがちです。それでも見るところがあります。
磨けているか。磨き残しが同じ場所に続いていないか。
道具が合っているか。歯ブラシが古くなっていないか、握りやすいか。
時間と回数。食後に磨いているか、忘れていないか。
「自立」と書いて終わりにしないことです。自分で磨いていても、手が届かない場所が出てきます。週に1回は、こちらで確かめる形にします。
道具は消耗します。歯ブラシの交換の時期を決めておくと、古いまま使い続けることを防げます。
経口摂取していない人の口腔ケア
食べていない人の口腔ケアは、見落とされやすいところです。食べていないほうが、口の中は汚れます。
理由は2つです。唾液が減るため、自浄の作用が働きません。また、口を動かさないため、汚れが流れません。
乾燥がいちばんの問題になります。口の中が乾くと、汚れが張り付き、剥がすときに出血します。保湿の方法を決めておきます。
記録には、乾燥の程度を書きます。「乾燥あり」「湿っている」。保湿剤を使ったかも書きます。
再び食べられるようになったときのために、口の中を保つ意味もあります。
義歯の扱い
義歯についても、記録の欄を作ります。決めるのは4つです。
外す時間。夜間に外すか、つけたままか。本人の希望と、医師や歯科医師の指示。
洗い方。流水で洗う、洗浄剤を使う。
保管の仕方。乾燥させない、専用の容器に。
合っているか。外れやすい、痛い、噛みにくい。
義歯が合わなくなると、食べる量が減ります。「最近食べない」の背景に、義歯が合っていないことがあります。
紛失も起きやすいところです。外した義歯をどこに置くかを決め、名前を書いておきます。ティッシュに包んで置くと、捨てられます。
歯科との連携
口の中の問題は、介護の側だけでは解決しません。つなぐ形を決めておきます。
1つ目は、気づいたことを伝える相手です。看護職、ケアマネジャー、家族。
2つ目は、訪問歯科を使うかです。定期的に来てもらう形があります。
3つ目は、伝える内容です。いつから、どこが、どんな状態か。記録が残っていれば、そのまま伝えられます。
記録が「実施」だけだと、伝える材料がありません。「2週間前から右上の歯ぐきに出血がある」と言えると、歯科の側も判断しやすくなります。
歯科の指示を受けたら、それを記録と計画に反映します。「歯科から○○と言われた」で終わらせないことです。
加算との関係
口腔に関する加算を算定している場合、要件として記録が求められます。
評価の記録、計画、実施の記録が必要になる形があります。算定している加算ごとに、何が要るかを確かめます。
算定しているのに記録が無いと、返還の対象になります。日々の口腔ケアの記録と、加算のための記録がつながっているかを確かめます。
自社が算定している加算の要件は、改定で変わることがあります。改定のたびに確かめる形にしておきます。
誰が行うかで記録が変わる
口腔ケアの記録は、行った人の職種で書く中身が変わります。ここを混ぜると、加算の要件を満たしているかが分からなくなります。
分けるのは3つです。
1つ目は、毎日のケアです。介護職が行います。磨いた、義歯を洗った、うがいをした。事実だけを書きます。
2つ目は、専門的な口腔ケアです。歯科衛生士などが行うもので、加算の対象になることがあります。行った人の職種と名前が必ず要ります。
3つ目は、歯科医師や歯科衛生士の指導です。事業所の職員への指導の記録は、別に残します。
3つが1つの様式に混ざっていると、実地指導で確かめられません。日々のケアの記録と、加算の根拠になる記録は分けます。
見て気づくところ
口腔の中は、毎日見ている人がいちばん先に変化に気づける場所です。気づく項目を決めておきます。
見るのは4つです。
1つ目は、汚れの残りです。歯の間、義歯の裏、舌の上。
2つ目は、粘膜の状態です。赤み、白いもの、出血、乾き。
3つ目は、痛がる様子です。特定の側で噛まない、熱いものを避ける。
4つ目は、義歯が合っているかです。外れる、当たって痛い、入れたがらない。
4つのどれかに気づいたら、看護職か管理者に伝えます。伝えた内容と日付を残しておくと、歯科の受診につなげるときの材料になります。
誤嚥性肺炎とのつながり
口腔ケアは、誤嚥性肺炎を減らす取り組みの一部として扱われています。ここを職員が知っているかで、ケアの丁寧さが変わります。
つながりは3つあります。
1つ目は、口の中の細菌の量です。汚れたまま唾液を飲み込むと、細菌も一緒に入ります。
2つ目は、食後の残りです。食べ物が口の中に残ったまま横になると、危険が上がります。食後のケアがとくに大事とされている理由です。
3つ目は、口の動きです。ケアで口の周りを触ることが、飲み込みの準備にもなります。
食前に口を動かす取り組みを入れている事業所があります。食事の直前に数分、口と舌を動かす。記録に残しておくと、続けられているかが分かります。
様式を短くする
口腔ケアは1日に複数回行うので、書く量が多くなりがちです。短くしないと続きません。
短くする工夫は3つあります。
1つ目は、行ったことを記号で残すことです。朝昼夕のマス目に印を入れる形。
2つ目は、気づいたときだけ書く欄を別に作ることです。毎回文章を書かせない形にします。
3つ目は、週に1回だけ観察の欄を設けることです。毎日詳しく見るのは続きません。曜日を決めて、その日だけ4項目を確かめます。
毎日全項目を書く様式は、2か月で空欄が増えます。空欄だらけの詳しい様式より、印だけでも毎日埋まっている様式のほうが、記録として役に立ちます。
道具の使い分けと管理
口腔ケアの道具は、人ごとに分けて管理することが前提です。感染対策としてもここは外せません。
決めることは4つあります。
1つ目は、道具を人ごとに分けることです。歯ブラシ、スポンジ、義歯ブラシ。名前を書いて、置き場所を分けます。
2つ目は、乾かす場所です。濡れたまま重ねて置くと、細菌が増えます。立てて乾かせる形にします。
3つ目は、交換の時期です。歯ブラシは毛先が開いたら替えます。月を決めて一斉に替える形にすると、忘れません。
4つ目は、使い捨てにするものです。スポンジブラシは使い捨てが基本です。洗って使い回すと、感染の経路になります。
4つは、口腔ケアの手順書に入れておきます。ケアのやり方だけを書いて、道具の管理が書かれていない手順書が多くあります。
まとめ
口腔ケアの記録は、清潔のためだけでなく、誤嚥性肺炎の予防と、食べる力を保つことにつながります。口の中はケアのときにしか見えないため、そのとき見たことを書きます。
見るところは6つ。歯と歯ぐき、舌、頬の内側と上あご、唇、義歯、口臭。舌と上あごが見落とされやすい場所です。
書くのは、行ったこと・口の中の状態・本人の様子の3つ。選択式にすると続きます。「異常なし」も記録です。
経口摂取していない人ほど、口の中は汚れます。唾液が減り、口を動かさないためです。乾燥の程度を記録します。加算を算定している場合は、要件を所管の自治体に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 毎食後に記録が必要ですか。 A. 毎回、口の中の状態まで書くのは負担が大きくなります。実施の有無は毎回、状態の観察は1日1回、といった形にしている事業所があります。決めた頻度を計画に書いておくと、統一されます。
Q. 嫌がる人には、どうしますか。 A. 嫌がる理由を見ます。痛い、冷たい、口を触られるのが嫌、何をされるか分からない。理由によって手当てが違います。試したことと結果を記録に残すと、次の人が続きから試せます。
Q. 口腔ケアはどこまでが医療行為ですか。 A. 通常の口腔ケアは介護職が行える範囲とされていますが、出血しやすい方や、重度の歯周病がある方については扱いが分かれます。判断に迷う場合は、看護職や歯科医師に確かめます。
Q. 義歯の洗浄剤は毎日使いますか。 A. 製品によって使い方が異なります。流水での洗浄と組み合わせる形が一般的です。本人や家族の希望、歯科の指示があればそれに従います。決めた方法を記録に書いておきます。
Q. 舌の汚れは取ったほうがよいですか。 A. 舌の汚れは口臭や誤嚥性肺炎に関わるとされています。ただし、強くこすると傷つきます。専用のブラシを使う、力を入れすぎない、といった方法を看護職や歯科に確かめてから行います。
Q. 口腔ケアの用具は誰が用意しますか。 A. 施設によって、事業所が用意する場合と、本人や家族が用意する場合があります。契約のときに決めておきます。交換の時期も決めておくと、古いまま使い続けることを防げます。
Q. 経口摂取していない人にも毎日行いますか。 A. 行います。食べていないほうが唾液が減り、汚れが溜まります。乾燥もしやすくなります。保湿の方法と頻度を決めて、記録に残します。
Q. 訪問歯科はどう頼みますか。 A. ケアマネジャーや家族と相談して進めます。地域の歯科医師会が窓口になっていることもあります。定期的に来てもらう形にすると、変化に早く気づけます。
Q. 記録に写真を使ってもよいですか。 A. 同意を得たうえで使えます。口の中は言葉で伝えにくいため、写真があると歯科への相談が早く進みます。保存の範囲と見られる人を決めておきます。
Q. 口臭が強くなってきました。 A. 汚れ、乾燥、歯周病、消化器の問題など、原因がいくつか考えられます。いつから、どんなときに強いかを記録に残し、看護職や歯科に伝えます。口臭は本人が気づきにくいため、周囲が伝える役割になります。
Q. 口腔衛生管理加算を取るには、何が要りますか。 A. 歯科専門職の関与や計画、記録が求められているとされています。加算の区分によって要件が違うので、算定の前に所轄の市町村に確かめてください。要件を確かめてから様式を作ります。
Q. 本人が口を開けてくれません。 A. 無理に開けません。時間帯を変える、姿勢を変える、道具を変える。3つを試して記録に残します。拒否が続く場合は、痛みや不快が原因のことがあるので、歯科の受診につなげます。
Q. 義歯は毎日外しますか。 A. 夜間に外して洗う形が一般的です。ただし本人の状態によって扱いが違うので、歯科医師や歯科衛生士の指導に従ってください。外した義歯の置き場所は、人ごとに決めて名前を書きます。
Q. 口腔ケアの記録は何年残しますか。 A. サービス提供の記録と同じ扱いになります。年数は市町村の条例で違うので、所轄の市町村に確かめてください。加算の根拠になる記録は、とくに揃えて残します。
Q. 訪問歯科を頼むかどうかは、誰が決めますか。 A. 本人と家族が決めます。事業所は、口の中の状態を伝えて選択肢を示すところまでです。伝えた内容と日付を記録に残しておくと、あとで経緯をたどれます。
Q. 口腔ケアの手順書は、事業所で作るものですか。 A. 作っておくと、職員による差が減ります。歯科衛生士に見てもらった形にすると、根拠のある手順になります。作ったら研修で1回配り、その後は更衣室や洗面所に貼っておきます。
Q. うがいができない方には、何をしますか。 A. 拭き取る形のケアになります。水を使う量と姿勢を、看護職と一緒に決めてください。顔を上向きにしたまま水を入れると危険なので、姿勢は必ず手順書に書きます。
Q. 口の中を見る時間が取れません。 A. 全員を毎日見る必要はありません。曜日を決めて、その日の担当の方だけ見る形にします。1人あたり30秒で足ります。見た結果を残す欄を、既にある記録に1列足すところから始めてください。