苦情処理簿とは?受け付けから改善までを1枚に残す
目次
家族から言われたことは、その場で対応して終わりにしている。記録は残っていない。実地指導で「苦情の記録はありますか」と聞かれて、初めて必要だったと気づく。小さな事業所でよくある形です。
この記事では、苦情処理簿を、なぜ要るか・書く項目・回し方の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の1枚をつくれる状態を目指します。
結論:苦情を受け付ける体制と、記録が求められている
苦情処理簿とは、利用者や家族から受けた苦情について、内容と対応を記録する帳簿のことです。
介護保険の運営基準では、苦情を受け付けるための窓口を設置するなど必要な措置を講ずることと、苦情を受けた場合に、その内容等を記録することが求められているとされています。
ポイントはここです。「苦情」の範囲は、正式な申立てだけではありません。日常の中で家族から言われた不満や要望も含めて記録しておくほうが、後から役に立ちます。
記録が無いと、同じことをくり返し言われていることに気づけません。1人の担当が対応して終わると、組織としては何も残りません。
書く項目
決まった様式はありませんが、書く内容は決まってきます。8つあれば足ります。
受付の日時。いつ言われたか。
受け付けた人。誰が聞いたか。
申出人。本人か、家族か、その他か。続柄も書きます。
苦情の内容。言われたことを、できるだけそのまま書きます。
その場の対応。すぐに何をしたか、何と答えたか。
原因。なぜそうなったか。
改善の内容。何を変えたか。
申出人への報告。いつ、誰が、どう伝えたか。
抜けやすいのは、最後の2つです。その場の対応までは書かれても、何を変えたか、それをどう伝えたかが空欄になります。苦情は、返すところまでで1件です。
苦情の内容は、要約しすぎないことです。「対応が悪い」ではなく、「昨日の夕方、呼んでも15分来なかった」と、言われたそのままに近い形で書きます。要約すると、原因が見えなくなります。
「苦情」の範囲を広く取る
正式な苦情だけを記録する形にすると、記録はほとんど増えません。範囲を広く取るほうが、使える帳簿になります。
含めておきたいのは3つです。
1つ目は、要望です。「もう少し早く迎えに来てほしい」といった内容。
2つ目は、不満の表明です。強い言い方ではなくても、困っていることが伝わってきたもの。
3つ目は、職員が気づいた不快の様子です。言葉にはなっていないが、表情や態度から伝わってきたもの。
3つ目まで拾うと、大きくなる前に手が打てます。苦情として出てくるものは、その前に何度か小さな形で出ていることが多くあります。
範囲を広げると件数が増えますが、それは悪いことではありません。件数がゼロの事業所ほど、拾えていない可能性が高くなります。
窓口と担当
体制として決めておくのは3つです。
1つ目は、窓口の担当者です。誰が受け付けるかを決め、掲示や重要事項説明書で知らせます。
2つ目は、担当が不在のときの扱いです。その場にいる職員が受けることになるので、受け方の1枚を作っておきます。
3つ目は、外部の窓口の案内です。市町村の窓口、国民健康保険団体連合会など、外部に相談できる先を知らせることが求められています。
外部の窓口を案内すると苦情が増える、と考える必要はありません。案内していないことのほうが、後から問題になります。掲示と書面の両方で知らせておきます。
その場での受け方
受け方に型があると、最初の対応で悪化させずに済みます。4つです。
1つ目は、最後まで聞くことです。途中で説明を始めると、伝わっていない感じが残ります。
2つ目は、事実を確かめることです。いつ、誰が、何をしたか。その場で分からないことは、分からないと伝えます。
3つ目は、その場で結論を出さないことです。「確かめて、いつまでに連絡します」と伝えて時間をもらいます。その場で謝りすぎても、突っぱねても、後で難しくなります。
4つ目は、記録することです。受けたその日のうちに書きます。翌日になると、言われた言葉が変わります。
受けた人が1人で抱えないことも大事です。その日のうちに管理者へ伝える形にしておきます。
改善につなげる
記録が溜まったら、並べて見ます。見えてくるのは3つです。
1つ目は、内容の偏りです。同じ内容がくり返し出ていれば、そこに問題があります。
2つ目は、時間帯や場所の偏りです。夕方の対応についてばかり言われるなら、その時間の人手を見ます。
3つ目は、特定の職員への集中です。これは扱いが難しいところですが、その人の技量の問題とは限りません。配置や担当の持ち方が原因のことがあります。
年に1回、1年分をまとめて見る時間を取ります。件数の増減より、内容が変わったかどうかを見ます。
改善したことは、申出人にも、職員にも返します。返さないと、言っても変わらないという感覚が残ります。
事故報告との関係
苦情と事故は重なることがあります。事故が起きて、それについて苦情が出る形です。
書類は別に残します。事故報告書は事故の記録、苦情処理簿は苦情の記録です。同じ出来事でも、見ている面が違います。
苦情処理簿の「苦情の内容」の欄には、事故そのものではなく、事故への対応について言われたことを書きます。「連絡が遅かった」「説明が分かりにくかった」など。
2つを突き合わせると、事故の対応のどこが足りなかったかが見えます。事故そのものを防げなくても、対応を改善することはできます。
保存の期間
苦情処理簿の保存の期間は、介護保険の記録の保存に合わせる形が一般的です。完結の日から2年が国の基準で、条例で5年としている自治体があります。
年度ごとにつづりを分け、表紙に処分の予定年を書いておきます。中を開かずに判断できる形にしておくと、処分の作業が短く済みます。
個人情報が含まれるため、置き場所と見られる範囲を決めます。処分するときも、復元できない形で行います。
実地指導で見られるところ
実地指導では、次の3つが確かめられます。
1つ目は、窓口を設置し、知らせているかです。掲示と、重要事項説明書への記載。
2つ目は、記録があるかです。受けた苦情について、内容と対応が残っているか。
3つ目は、改善につなげているかです。記録に「改善の内容」の欄があり、埋まっているか。
件数がゼロでも問題にはなりませんが、体制が無いことは問題になります。様式と窓口の掲示は、苦情の有無に関わらず用意しておきます。
苦情の内容によっては、市町村へ報告することが求められる場合があります。所管の自治体の案内で確かめておきます。
苦情を減らす前に、拾える形にする
苦情の件数を減らすことを目標にすると、拾わなくなります。順番が逆です。
先にやるのは、拾える形にすることです。3つあります。
1つ目は、聞く機会を作ることです。面談、送迎のとき、行事の後。こちらから聞くと出てきます。
2つ目は、言いやすい相手を作ることです。担当以外にも話せる人がいると、言いにくい内容が出ます。
3つ目は、小さいうちに扱うことです。「ちょっと気になる」の段階で聞けば、大きくなりません。
件数が増えるのは、拾えるようになった証拠です。そこから内容を見て、同じものが多いところに手を打ちます。
件数が減るのは、その後です。最初から減らそうとすると、記録に残らないだけになります。
苦情から改善までの期限を決める
苦情処理簿が形だけになる理由の多くは、いつまでに何をするかが決まっていないことにあります。
決めるのは4つです。
1つ目は、受け付けたことを伝えるまでの時間です。その日のうちに1回連絡する形が使われています。
2つ目は、事実を確かめるまでの日数です。関わった職員から聞き取る期間。
3つ目は、回答するまでの日数です。決めておかないと、確かめている途中のまま日が過ぎます。
4つ目は、改善を実施するまでの期限です。
4つを様式の欄にします。欄があると埋めようとします。期限の欄が無い苦情処理簿は、受け付けた記録だけが並びます。
内容によっては、すぐに回答できないものがあります。そのときも「いつまでに返す」を先に伝えます。待たされていること自体が、次の苦情になります。
まとめ
苦情処理簿は、苦情の内容と対応を記録する帳簿です。介護保険の運営基準で、窓口の設置と記録が求められているとされています。
書く項目は8つ。抜けやすいのは「改善の内容」と「申出人への報告」です。苦情は、返すところまでで1件になります。
「苦情」の範囲は広く取ります。正式な申立てだけでなく、要望、不満、職員が気づいた様子まで拾うと、大きくなる前に手が打てます。件数がゼロの事業所ほど、拾えていない可能性があります。
外部の窓口も案内します。記録が溜まったら、内容・時間帯・担当の偏りを見ます。保存の期間や報告の要否は、所管の市町村に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 苦情が1件も無い場合、様式だけ用意しておけばよいですか。 A. 体制としては足ります。ただし、本当に1件も無いのかを一度確かめてみるとよいところです。日々の申し送りで家族の言葉が出ているなら、それが記録されていない状態かもしれません。様式があっても、使われ方が決まっていないと書かれません。
Q. 電話で受けた苦情も記録しますか。 A. 記録します。電話は記録が残らないため、かえって書いておく必要があります。受けた時刻、相手、内容、答えたことを、その場でメモしておくと後で書けます。折り返しの約束をした場合は、いつまでに誰が返すかも書きます。
Q. 匿名の苦情はどう扱いますか。 A. 申出人の欄に「匿名」と書いて記録します。誰が言ったか分からなくても、内容は事実かもしれません。確かめられる範囲で確かめ、改善につなげます。匿名だからといって扱いを軽くしないことが要点です。
Q. 職員に対する苦情は、本人に伝えますか。 A. 伝え方に配慮が要ります。個人を責める形にすると、萎縮して対応が硬くなります。何が起きたかを共有し、どうすればよかったかを一緒に考える形にします。管理者が間に入るほうが進みます。
Q. 外部の窓口はどこを案内しますか。 A. 市町村の介護保険の窓口、国民健康保険団体連合会、運営適正化委員会などが挙げられます。自社に関わる窓口は、所管の市町村に確かめて、連絡先を掲示と書面の両方に載せておきます。
Q. 苦情処理簿と、日々の記録を兼ねられますか。 A. 兼ねると、苦情だけを抜き出すのが難しくなります。日々の記録に書いたうえで、苦情処理簿に転記する形が扱いやすくなります。転記が負担なら、日々の記録に印を付けて、月に1回まとめて転記する方法もあります。
Q. 改善できない苦情はどう書きますか。 A. できない理由と、代わりに何をしたかを書きます。「人員の都合で対応できない」だけでなく、「代わりに○○の形で対応することにした」まで書くと、検討した跡が残ります。何も書かないのがいちばん避けたい形です。
Q. 苦情が事故につながることはありますか。 A. あります。「危ないと言ったのに直っていない」という苦情の後に事故が起きると、把握していて対応しなかったことになります。安全に関わる苦情は、優先して手を打ちます。
Q. 件数が増えてきたら、どう扱いますか。 A. 増えること自体は悪いことではありません。拾えるようになった結果かもしれません。内容で分類して、同じ内容が多いものから手を付けます。全部を同じ重さで扱うと、どれも進みません。
Q. 苦情処理簿を家族に見せることはありますか。 A. 他の利用者の情報が含まれるため、そのまま見せることはできません。その方に関する部分について説明を求められた場合は、記録をもとに口頭で説明する形が一般的です。
Q. 受け付けた職員が、その場で謝ってしまいました。 A. 謝ること自体が問題になるわけではありません。不快な思いをさせたことへの謝罪と、事実関係を認めることは別です。「ご不快な思いをさせて申し訳ありません」と「こちらの過失です」は違う、と職員に伝えておくと、その場の対応が安定します。
Q. 苦情と要望の線引きはどこですか。 A. 厳密に分ける必要はありません。どちらも記録に残して、内容で扱いを決めます。分けることに時間を使うより、拾って記録するほうが先です。
Q. 同じ人から何度も苦情がある場合は。 A. 内容を見ます。同じことがくり返されているなら、事業所の側が直せていない可能性があります。内容が毎回違うなら、関係そのものを見直す場面かもしれません。管理者が間に入ります。
Q. 苦情処理簿を、他の記録と兼ねられますか。 A. 兼ねると、苦情だけを抜き出せなくなります。日々の記録に書いたうえで、苦情処理簿に転記する形が扱いやすくなります。月に1回まとめて転記する方法もあります。
Q. 苦情と要望の線引きが難しいです。 A. 線を引かずに、どちらも記録する形にしてください。広く拾うほうが、重い苦情の手前で気づけます。分類は記録したあとで構いません。
Q. 匿名の苦情はどう扱いますか。 A. 記録して、内容を確かめます。返す相手がいないので、改善の内容を掲示する形で伝えることがあります。匿名だから扱わない、としないことです。
Q. 職員個人への苦情が入りました。 A. 個人の問題として処理しないことです。同じことが他の職員にも起きていないかを見ます。本人への伝え方は、管理者が直接行い、記録には事実だけを残します。
Q. 苦情処理簿は実地指導で見せますか。 A. 見せることがあります。件数が0件の状態のほうが確かめられます。受け付ける体制ができているかを問われるので、拾えていない可能性を疑われます。
Q. 保存の期間は何年ですか。 A. 運営に関する記録の年数に合わせます。市町村の条例で違うので、所轄の市町村に確かめてください。改善につながった苦情は、より長く残しておくと役に立ちます。