再発防止策の書き方|実行される対策の4つの条件
目次
事故報告書の最後の欄に、再発防止策を書く。「職員間で情報を共有する」「注意喚起を行う」。書いた瞬間から、実行されないことが分かっている。それでも他に書きようがない。多くの現場の実感です。
この記事では、再発防止策を、実行される条件・書き方の型・確かめ方の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の報告書の最後の欄を書き換えられる状態を目指します。
結論:主語・期限・確かめ方・大きさの4つ
再発防止策とは、同じ事故がもう一度起きないように、変えることを決めたものです。事故報告書や委員会の議事録に書きます。
実行される対策には、共通する条件があります。4つです。
主語が入っている。誰がやるのか。
期限が入っている。いつまでにやるのか。
確かめ方が決まっている。やったかどうかを、どう確かめるか。
続けられる大きさである。毎日の負担が増えすぎない。
ポイントはここです。「共有する」「徹底する」「注意する」には、この4つが1つも入っていません。だから実行されません。
なぜ抽象的になるのか
抽象的な対策が書かれるのには理由があります。3つあります。
1つ目は、原因が人に置かれているからです。「確認不足」が原因なら、対策は「確認を徹底する」しか出てきません。原因を下ろさないと、対策も下りません。
2つ目は、書く時間が無いからです。報告書を書き終えた最後の欄で、考える余裕が残っていません。
3つ目は、実行できる範囲を知らないからです。現場の職員は、物を買う、人を増やすといった判断ができません。自分の権限で書ける範囲が「気をつける」しかない、という状態です。
3つ目が見落とされがちです。書く人が何を決めてよいか分かっていないと、当たり障りのないことしか書けません。委員会で決める形にすると、この制約が外れます。
変えられるものの一覧を持つ
何を変えられるのかが分かっていれば、対策は具体的になります。変えられるものを一覧にしておきます。
物の側。置き場所、高さ、明るさ、床の材質、福祉用具、ナースコールの位置。
手順の側。やる順番、確かめる回数、二人で行うかどうか、記録の書き方。
時間の側。いつやるか、どれくらい時間を取るか、他の作業と重ねないか。
人の側。誰が担当するか、何人でやるか、経験のある人を付けるか。
情報の側。どこに書くか、誰に伝えるか、いつ伝えるか。
この一覧を報告書の裏面に印刷しておくと、書く人が選べます。白紙に書くより、選択肢があるほうが具体的になります。
物の側がいちばん早く効きます。置き場所を変える、足元灯を付ける、手すりを足す。今日から変えられて、その場所を通る全員に効きます。
書き方の型
4つの条件を満たす書き方の型を示します。
「(誰が)が、(いつまでに)、(何を)する。(どうやって)確かめる。」
例を1つ通します。
悪い例:「夜間の見守りを強化する」 直した例:「夜勤者が、来週から、22時と2時に◯◯さんの居室を見に行く。訪室の記録に時刻を書き、月末に管理者が確かめる。」
長くなりますが、この長さが実行される条件です。短く書けるのは、決めていないからです。
複数の対策を書きたくなったら、1つに絞ります。3つ書いて1つも実行されないより、1つ書いて実行されるほうが効きます。
大きさを間違えない
対策が実行されない理由でいちばん多いのが、大きすぎることです。
毎日30分増える対策は、1か月で消えます。「全員の居室を1時間おきに見回る」は、人数が足りていれば別ですが、足りていないなら続きません。
大きさを測る目安は、1日あたり何分増えるかです。5分なら続きます。30分なら、他の何かを止める必要があります。
何かを足すときは、何かを止める。この形にすると続きます。「訪室を増やす代わりに、記録の様式を短くする」といった交換です。
人を増やす、物を買うといった対策は、決められる人が委員会にいるかを確かめます。いなければ、その場で決めずに持ち帰ります。
確かめ方を決める
やったかどうかを確かめる形が無いと、実行されたかも分かりません。確かめ方は3つの型があります。
1つ目は、記録で確かめる形です。訪室の記録、チェック表。記録に残る形にしておけば、後から確かめられます。
2つ目は、見て確かめる形です。物の置き場所を変えたなら、その場所を見に行けば分かります。
3つ目は、聞いて確かめる形です。手順を変えたなら、やっている人に聞きます。
確かめる時期も決めます。次の委員会が自然です。議事録の冒頭に前回の対策を書いておけば、必ず確かめることになります。
確かめて実行されていなかったら、なぜかを見ます。忘れたのか、大きすぎたのか、担当が不在だったのか。理由によって、直す場所が変わります。
効いたかどうかを見る
実行されたことと、効いたことは別です。効いたかどうかは、時間をかけて見ます。
見るのは2つです。
1つ目は、同じ事故が起きていないかです。3か月、6か月と見ます。
2つ目は、別の場所で同じ形の事故が起きていないかです。1人に対する対策だと、他の人には効きません。
同じ事故がまた起きたら、対策が効いていません。そのときは、対策を足すのではなく、もっと大きなところを変える必要があります。
年に1回、1年分の対策を並べて見ます。同じ内容の対策がくり返し出ているなら、そこは個別の対策では手に負えない場所です。人の配置や、建物の構造の話になっていることがあります。
家族への説明に使う
再発防止策は、家族への説明でも使います。「確認不足でした、今後は注意します」では納得が得られません。
伝えるのは3つです。
何が起きたか。事実を、分かる言葉で。
なぜ起きたか。下ろした原因を、人の話にせずに。
何を変えたか。具体的に。「気をつけます」ではなく、変えたことを言います。
変えたことを伝えると、同じことが起きにくくなったと受け取ってもらえます。逆に、何も変えていないと、次に同じことが起きたときに説明ができません。
説明した内容と日時は、記録に残します。家族に伝えた対策と、社内の記録が食い違わないようにします。
対策の一覧を持つ
過去に決めた対策を一覧にしておくと、同じことをくり返さずに済みます。
列は5つです。決めた日、事故の内容、対策、担当、実行の確認。
この一覧があると、3つのことが分かります。
1つ目は、同じ対策がくり返されていないかです。同じ内容が何度も出ているなら、効いていません。
2つ目は、実行されていない対策が残っていないかです。
3つ目は、対策が偏っていないかです。全部が「注意する」になっていないか。
年に1回、この一覧を委員会で見ます。1年分を並べると、手が打てているかどうかが見えます。
一覧は、事故報告書とは別に持ちます。対策だけを抜き出して見られる形にしておくと、確認が早く済みます。
対策を減らす時期を決める
再発防止策は、増える一方になりがちです。減らす時期を決めておきます。
減らし方は4つです。
1つ目は、期限を最初に入れることです。「3か月試す」と決めて始めます。
2つ目は、期限が来たら効果を見ることです。同じ事故が起きていないか、手間が増えすぎていないか。
3つ目は、残すか、変えるか、やめるかを決めることです。3つのどれかを必ず選びます。
4つ目は、決めた結果を記録に残すことです。やめたことも記録します。
対策が積み上がると、どれも守られなくなります。守れない対策が並んでいる状態は、対策が無い状態より危険です。「やっていることになっている」という思い込みが生まれるからです。
年に1回、対策の一覧を上から見直す時間を委員会に組み込んでください。
まとめ
再発防止策が実行される条件は4つ。主語・期限・確かめ方・続けられる大きさです。「共有する」「徹底する」には、この4つが1つも入っていません。
抽象的になる理由は、原因が人に置かれていること、書く時間が無いこと、実行できる範囲を知らないことの3つです。3つ目は、委員会で決める形にすると外れます。
書き方の型は、「誰が、いつまでに、何をする。どうやって確かめる。」です。長くなりますが、その長さが実行される条件になります。
大きさを間違えないことが要点です。何かを足すときは、何かを止める。確かめる時期は次の委員会に置き、実行されていなければ理由を見ます。
よくある質問
Q. 対策を1つに絞ると、他の課題が残りませんか。 A. 残りますが、次の月に扱えます。3つ書いて1つも実行されないより、1つずつ確実に進めるほうが、1年で見ると多く変わります。残した課題は議事録に書いておき、次回の議題にします。
Q. 物を買う対策は、誰が決めますか。 A. 予算の権限がある人です。委員会に管理者が入っていれば、その場で決められます。入っていないと持ち帰りになり、そのまま止まりやすくなります。金額の目安を先に決めておくと、その場で判断できる範囲が広がります。
Q. 対策が現場から出てきません。 A. 変えられるものの一覧を見せると出てきます。白紙に「対策を書いてください」と言われても、何を書いてよいか分かりません。物・手順・時間・人・情報の5つを示して、どれを変えるかを選んでもらいます。
Q. 同じ事故がくり返し起きます。 A. 対策が効いていないか、実行されていないかのどちらかです。まず実行されていたかを確かめます。実行されていて効かなかったなら、原因の下ろし方が浅い可能性があります。もう一段下ろします。
Q. 「注意喚起」と書いてはいけませんか。 A. 書いてはいけないわけではありませんが、それだけだと実行の確かめようがありません。「朝礼で◯◯について伝える」「掲示を出す」のように、動作にすると確かめられます。
Q. 対策に費用がかかる場合は。 A. 費用と効果を並べて、決められる人に判断してもらいます。「足元灯を3個で◯円」のように具体的にすると、判断が早くなります。金額が分からないまま「買う」と書いても進みません。
Q. 市町村への報告書にも同じことを書きますか。 A. 報告書の様式に再発防止の欄があります。社内で決めたことを書きます。抽象的な内容だと、追加の説明を求められることがあります。具体的に書いておくほうが、後のやり取りが減ります。
Q. 対策を決めるのに時間がかかります。 A. 委員会の15分で1件を扱う形にすると収まります。時間内に決まらなければ次回に持ち越します。無理に結論を出すと、実行されない対策が増えます。
Q. 個人に向けた対策はいけませんか。 A. その人に固有の状況がある場合は、個人に向けた対策も必要です。ただし、他の人にも起きうる形なら、環境や手順の側も変えます。個人だけに向けると、同じことが別の人で起きます。
Q. 効果をどう測りますか。 A. 同じ事故が起きていないかを、3か月・6か月で見ます。件数が少ないと統計的には分かりませんが、同じ場所・同じ時間帯・同じ内容が消えているかは見られます。消えていなければ、対策を見直します。
Q. 対策を決めたのに、現場が動きません。 A. 大きすぎるか、伝わっていないかのどちらかです。まず、決めたことが本人に直接伝わっているかを確かめます。議事録の回覧だけだと、自分のこととして受け取られません。
Q. 家族から「対策が不十分だ」と言われました。 A. 何をどう変えたかを具体的に伝えます。「注意します」では不十分に聞こえます。変えたことが伝われば、受け止めが変わります。伝えた内容を記録に残します。
Q. 対策の一覧は、どこに置きますか。 A. 委員会の資料と同じ場所です。毎月の委員会で開く形にしておくと、更新されます。事故報告書のつづりとは別にしておくと、対策だけを追えます。
Q. 効果が出るまで、どれくらい見ますか。 A. 3か月から6か月です。件数が少ないと統計的には分かりませんが、同じ場所・同じ時間帯・同じ内容が消えているかは見られます。消えていなければ見直します。
Q. 変えられるものの一覧は、どう作りますか。 A. 物・手順・時間・人・情報の5つに分けて、自社で変えられるものを書き出します。報告書の裏面に印刷しておくと、書く人が選べます。白紙に書くより具体的になります。
Q. 対策が現場の負担になっています。 A. 大きすぎます。1日あたり何分増えるかを測ります。5分なら続きますが、30分なら他の何かを止める必要があります。何かを足すときは何かを止める、という形にします。
Q. 対策を決めても、現場がやってくれません。 A. 手間が増える対策は続きません。いまやっていることと入れ替える形にできないかを考えてください。足すだけの対策は、忙しい日から抜けていきます。
Q. 対策の効果は、どうやって測りますか。 A. 同じ種類の事故の件数で見ます。件数が少なくて分からない場合は、手前のヒヤリハットの件数で見ます。報告が増えているなら、気づける状態になっているという意味です。
Q. 設備を変える対策は、費用がかかって決められません。 A. 費用がかかるものは委員会では決められません。経営の側に上げる、というところまでを委員会の決定にします。上げた記録を残しておくと、次の予算の材料になります。
Q. 家族への説明で、対策をどこまで伝えますか。 A. 決めた内容と、いつから始めるかを伝えます。まだ決まっていないことは、決まっていないと伝えます。あいまいに伝えると、実施したかどうかをあとで問われます。
Q. 対策の担当者は、どの立場の人にしますか。 A. その対策を実際に動かす部門の人にします。管理者の名前をすべての対策に書くと、動きません。担当が現場の人なら、期限も現実的なものになります。
Q. 事故の直後に決めた対策が、あとから大きすぎたと分かりました。 A. 縮めて構いません。やめたのではなく、大きさを直したという記録を残します。直した経緯が残っていれば、次に同じ事故が起きたときの説明になります。