事故の分析とは?人を責めずに原因へ下ろす方法
目次
事故報告書の「原因」の欄に、毎回「確認不足」と書かれている。委員会でも「気をつけましょう」で終わる。それで事故が減るはずもなく、同じことがまた起きる。多くの事業所が同じところで止まっています。
この記事では、事故の分析を、なぜ人に向かうか・下ろし方・使う道具の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の委員会で使える型を持てる状態を目指します。
結論:原因を人に置くと、そこで止まる
事故の分析とは、起きた出来事から、変えられるものを見つける作業のことです。誰が悪かったかを決める作業ではありません。
「確認不足」「不注意」と書いたとき、対策は「気をつける」しか出てきません。気をつけることは、次の日には元に戻ります。
ポイントはここです。変えられるものにたどり着くまで下ろします。人の注意は変えられませんが、物の置き場所、手順、人の配置、情報の伝え方は変えられます。
分析の目的は、同じ状況をもう一度つくらないことです。そのためには、状況の側を変えるしかありません。
なぜ人に向かうのか
原因が人に向かうのには理由があります。3つあります。
1つ目は、いちばん近くにいるからです。その場にいた人が見えるので、そこで止まりやすくなります。
2つ目は、書きやすいからです。「確認不足」は1行で書けます。状況を掘り下げるのは時間がかかります。
3つ目は、責任の所在をはっきりさせたい気持ちが働くからです。誰かの問題にすると、組織の問題ではなくなります。
書いた人が責められる職場では、報告そのものが減ります。分析の質を上げる前に、報告が上がる状態を保つほうが先になります。
委員会の最初に「人を責める場ではない」と毎回言葉にする事業所があります。言い続けないと、すぐ戻ります。
「なぜ」を下ろす
下ろし方の型は単純です。出てきた答えに、もう一度なぜと聞く。これを3回から5回くり返します。
例を1つ通します。「利用者が転倒した」
なぜ → 「夜中に1人でトイレに行こうとした」 なぜ → 「ナースコールを押さなかった」 なぜ → 「呼ぶと悪いと思っていた」 なぜ → 「日中、呼んだときに待たされたことがあった」
ここまで来ると、対策が変わります。「ナースコールを押すよう説明する」ではなく、「日中のコールへの応答を早くする」「夜間に定時の声かけを入れる」という形になります。
止まりやすいのは3回目あたりです。そこで人の話に戻りそうになったら、もう一度状況に戻します。「その人がそう思ったのは、何があったからか」と聞きます。
4つの側から見る
なぜをくり返すのが苦手なら、側から見る方法もあります。4つの側を順に当てはめます。
人の側。人数、経験、その日の体調、引き継ぎの内容。
物の側。設備、福祉用具、物の置き場所、明るさ、床。
方法の側。手順、決まりごと、記録の形、情報の伝え方。
管理の側。配置、教育、点検の周期、委員会の回し方。
この4つを順に見ると、人の側で止まりません。「人の側では、夜勤が1人だった」「物の側では、足元灯が無かった」「方法の側では、夜間の巡回が2時間おきだった」。
出てきたもののうち、いちばん早く変えられるものから手を付けます。足元灯を付けるのは今日できますが、夜勤の人数は簡単には変わりません。
委員会での回し方
分析は、1人でやるより複数でやるほうが深くなります。委員会の30分で回す形を決めておきます。
最初の10分で、出来事を共有します。報告書を読み上げ、その場にいた人に補足してもらいます。
次の15分で、下ろします。なぜを3回、あるいは4つの側を順に。ホワイトボードに書きながらやると、人の話に戻りにくくなります。
最後の5分で、対策を決めます。誰が、いつまでに、何をするか。主語と期限が入っていない対策は、実行されません。
1回の委員会で扱うのは1件か2件にします。全部を扱おうとすると、どれも浅くなります。件数が多いなら、似たものをまとめて1件として扱います。
議事録には、下ろした過程も残します。結論だけだと、次に似た事故が起きたときに、同じところから始めることになります。
対策の書き方
対策の欄で止まる事業所が多いところです。書き方に型を決めておくと、進みます。
1つ目は、主語を入れることです。「誰が」を書きます。「全員で」は、誰もやりません。
2つ目は、期限を入れることです。「いつまでに」を書きます。
3つ目は、確かめ方を入れることです。やったかどうかを、どうやって確かめるか。
4つ目は、続けられる大きさにすることです。毎日30分増える対策は、1か月で消えます。
「教育を徹底する」「情報共有を密にする」は、この4つのどれも満たしていません。何をどう変えるのかが入っていないためです。
次の委員会で、前回の対策がどうなったかを確かめます。やっていないなら、その理由を見ます。大きすぎたのか、忘れたのか、担当が不在だったのか。
分析を続ける形にする
分析は、続けないと身に付きません。続けるための工夫が3つあります。
1つ目は、件数を絞ることです。月に1件か2件で足ります。全部を分析しようとすると止まります。
2つ目は、型を決めることです。なぜを3回か、4つの側か。毎回違うやり方だと、慣れません。
3つ目は、結果を返すことです。報告を書いた人に、何が変わったかを伝えます。
続けていると、分析しなくても分かるようになります。「これは夕方の人手の話だ」と、報告を読んだ時点で見当が付くようになります。そこまで来れば、委員会の時間が短くなります。
年に1回、1年分の分析を並べて見ます。同じ原因がくり返し出ているなら、対策が効いていません。そこは、もっと大きなところを変える必要があります。
分析を委員会の外でもやる
委員会は月に1回です。それ以外の場面でも、小さく下ろす形を作ると定着します。
使える場面が3つあります。
1つ目は、申し送りです。その日に起きたことを、1つだけ「なぜ」を1回下ろします。1分で終わります。
2つ目は、報告書を書くときです。原因の欄を書く前に、書いた人に1回聞きます。「それはなぜ起きたと思うか」。
3つ目は、新しく入った職員への説明です。過去の事例を1つ、下ろしながら説明します。
1つ目がいちばん続きます。毎日1分でも、月に20回になります。委員会の15分より多くなります。
下ろした結果、その場で変えられることがあれば変えます。物の置き場所なら、その日のうちに動かせます。
分析の結果をどこに残すか
事故の分析は、結果の残し方を決めていないと、その場の話で終わります。
残すのは4つです。
1つ目は、分析した日と参加者です。誰が入ったかで、出てくる中身が変わります。
2つ目は、事実の整理です。時系列に並べたもの。分析の土台になります。
3つ目は、見つかった要因です。人の側に置いた要因だけになっていないかを、書いたあとに確かめます。
4つ目は、決めた対策と担当と期限です。
4つを1枚にまとめて、次の委員会の冒頭で読み返します。読み返す場面が決まっていないと、書いた紙が使われません。対策の欄に担当の名前が入っていない分析は、必ず止まります。
まとめ
事故の分析は、起きた出来事から変えられるものを見つける作業です。誰が悪かったかを決める作業ではありません。
「確認不足」「不注意」と書くと、対策は「気をつける」しか出てきません。人の注意は変えられませんが、物の置き場所、手順、配置、情報の伝え方は変えられます。
下ろし方は、なぜを3回から5回くり返すか、人・物・方法・管理の4つの側から見るかです。3回目あたりで人の話に戻りそうになったら、状況に戻します。
対策には、主語・期限・確かめ方を入れ、続けられる大きさにします。委員会は30分で、共有10分・分析15分・決定5分。扱うのは1件か2件です。
よくある質問
Q. なぜを5回も続けられません。 A. 3回で止まってもかまいません。大事なのは回数ではなく、変えられるものにたどり着いたかどうかです。たどり着いていれば、そこで止めます。
Q. その場にいた人が委員会に出られない場合は。 A. 事前に聞き取っておきます。書面の報告だけだと、状況が分かりません。5分の聞き取りで、書かれていないことが出てきます。
Q. 分析の結果、人の問題だと分かった場合は。 A. 「その人が悪い」ではなく、その人がそうせざるを得なかった状況を見ます。経験が浅いなら教育、体調なら勤務の組み方、知らなかったなら情報の伝え方です。
Q. 委員会のメンバーは誰にしますか。 A. 管理者、現場の職員、看護職など、立場の違う人を入れます。現場の職員が入っていないと、実際に回らない対策が決まります。
Q. 分析の様式はありますか。 A. 決まった様式はありません。なぜを書く欄を4つ並べた紙か、4つの側を並べた紙を作れば足ります。報告書の裏面に印刷している事業所もあります。
Q. ヒヤリハットも分析しますか。 A. 全部は無理なので、選びます。同じ内容がくり返し出ているものを選ぶと、効率よく手が打てます。件数が多いものが、次に事故になる可能性の高いものです。
Q. 分析の結果を家族に説明しますか。 A. 事故の説明のときに、原因と再発防止として伝えます。「確認不足でした」では、納得が得られにくくなります。何を変えたかまで伝えます。
Q. 対策が前回と同じになってしまいます。 A. 前回の対策が実行されていなかったか、効いていなかったかのどちらかです。まず、実行されていたかを確かめます。実行されていて効かなかったなら、もっと大きなところを変えます。
Q. 分析に時間が取れません。 A. 30分の型を決めておくと、その時間で終わります。時間が取れないのではなく、終わりが決まっていないことが原因のことが多くあります。
Q. 分析の結果を、本人に伝えますか。 A. 伝えます。ただし「あなたが原因だった」という形にはしません。「この状況だと誰でも起きる」という結論になっていれば、伝えても責める形になりません。分析の目的が伝わります。
Q. 委員会のメンバーが分析に慣れていません。 A. 型を1つ決めて、毎回同じやり方でやります。なぜを3回か、4つの側か。回数を重ねると慣れます。最初の数回は、うまくいかなくてもかまいません。
Q. 原因が複数ある場合は。 A. 複数書いてかまいません。ただし、対策は1つに絞ります。全部に手を付けようとすると、どれも進みません。いちばん早く変えられるものから選びます。
Q. 「なぜ」と聞かれると責められている気がします。 A. 聞き方を変えます。「なぜあなたはそうしたのか」ではなく「なぜそういう状況になったのか」。主語を人ではなく状況にすると、受け止め方が変わります。委員会の最初に、そのことを毎回伝えます。
Q. 分析した結果を記録に残す必要はありますか。 A. 残します。議事録に、下ろした過程を書いておきます。結論だけだと、次に似た事故が起きたときに同じところから始めることになります。過程が残っていれば、続きから考えられます。
Q. ヒヤリハットが多すぎて、どれを分析すればよいか分かりません。 A. 同じ内容がくり返し出ているものを選びます。件数が多いものが、次に事故になる可能性の高いものです。1回の委員会で1件か2件に絞ります。
Q. 分析の結果、人手が足りないという結論になりました。 A. 結論としては正しくても、そこで止まると何も変わりません。人手を増やせないなら、何を止めるか、どの時間に寄せるかまで下ろします。「人手が足りない」の中にも、変えられる部分があります。
Q. 分析の型は、どれを選べばよいですか。 A. なぜを3回下ろす形か、人・物・方法・管理の4つの側から見る形。どちらでもかまいませんが、毎回同じやり方にします。違うやり方を混ぜると、慣れません。
Q. 委員会の外で下ろす時間が取れません。 A. 申し送りで1分だけ、というやり方があります。その日に起きたことを1つ、「なぜ」を1回だけ下ろす。毎日1分なら、月に20回になります。委員会の15分より多くなります。
Q. 分析した内容を、他の事業所と共有できますか。 A. 個人が特定されない形にすれば、事業者団体の研修などで共有されることがあります。他の事業所の事例を聞くと、自社では起きていない形の危険に気づけます。受け取る側としても、参考になります。
Q. 分析に時間がかかり、件数をこなせません。 A. すべての事故を同じ深さで分析する必要はありません。重い事故と、繰り返している事故だけを深く見る形にします。残りは事実の整理と一言の対策で構いません。
Q. 当事者を分析の場に入れますか。 A. 入れたほうが事実が正確になります。ただし責める場にならないことが前提です。入る前に「原因を人に置かない」と全員に言うところから始めてください。
Q. 同じ事故が何度も起きています。 A. 対策が場面に合っていない可能性があります。前に決めた対策を実際に見に行ってください。やられていないのか、やっても効かないのかで、次の手が変わります。
Q. 分析の手法は、決まったものを使うべきですか。 A. 使い慣れたものを1つ決めれば足ります。手法を増やすと、手法の勉強が目的になります。時系列に並べて、なぜを下ろすという基本だけでも十分に機能します。
Q. 分析の結果を、家族に伝えますか。 A. 重い事故では伝えます。原因と対策を伝えると、事業所が向き合っていることが伝わります。個人の名前は出しません。仕組みの話として伝えてください。
Q. 委員会の議事録と、分析の記録は分けますか。 A. 分けたほうが探しやすくなります。議事録は会議の記録、分析の記録は事故ごとの記録です。議事録に「◯月◯日の事故を分析した」と1行残して、分析の紙を参照する形にします。