避難訓練の記録|年何回、何を残すのかを整理
目次
避難訓練はやっている。ところが記録は「実施した」と1行あるだけで、何をしたかは残っていない。実地指導で「訓練の記録を見せてください」と言われて、慌てて書き足すことになる。よくある形です。
この記事では、避難訓練の記録を、年に何回必要か・何を残すか・使える形にする方法の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の様式をつくれる状態を目指します。
結論:回数と、夜間想定が見られる
避難訓練の記録とは、消防計画にもとづいて行った訓練の内容を残す記録のことです。消防法にもとづくものと、介護保険の運営基準にもとづくものが重なります。
回数は、施設の区分によって変わります。社会福祉施設などでは、消火訓練と避難訓練をそれぞれ年2回以上行うこととされている形が一般的です。所轄の消防署に確かめます。
ポイントはここです。夜間を想定した訓練が見られます。職員が少ない時間帯に火災が起きたときに動けるかが、いちばん問われるところです。
昼間に全員そろっている状態でやる訓練は、実際の場面とかけ離れています。少ない人数で、どこまでできるかを確かめるのが訓練の意味になります。
記録に残すこと
残す内容は8つです。
実施した日時。何時から何時までか。夜間想定なら、その旨も書きます。
訓練の種類。消火、避難、通報、総合。
想定。どこから火が出た設定か、時間帯はいつか。
参加者。職員の氏名と人数。利用者が参加したかどうか。
実施の内容。何をどの順にやったか。
要した時間。避難の完了までにかかった時間。
気づいたこと。うまくいかなかったところ、迷ったところ。
次への改善。何を変えるか。
抜けやすいのは、要した時間と気づいたことです。この2つが無いと、次に生かせません。「実施した」だけの記録は、やったことの証明にはなりますが、訓練の意味がありません。
要した時間は、ストップウォッチで測ります。数字で残すと、次の年と比べられます。
想定を変える
毎年同じ想定でやると、動きが決まってしまいます。想定を変えると、違うところが見えてきます。
変えられるのは4つです。
時間帯。昼間、夕方、夜間、早朝。
出火の場所。厨房、居室、洗濯室、機械室。
避難の経路。いつもの階段が使えない設定にする。
欠けている人。管理者が不在、看護職が不在。
「いつもの階段が使えない」は、実際にやってみると止まります。もう1つの経路を職員が知らない、あるいは物が置かれていることがあります。
想定は、前もって全部を職員に知らせない形も取れます。ただし、混乱させるのが目的ではないので、初めての職員がいるときは事前に説明します。
夜間想定をどうやるか
夜間に実際に集まるのは難しいので、工夫が要ります。実務で取られている形が3つあります。
1つ目は、昼間に夜間の人数でやることです。夜勤の人数だけを動かし、他の職員は見ているだけにします。
2つ目は、夜勤者への個別の訓練です。夜勤に入る前に、1人ずつ動きを確かめます。
3つ目は、机上での訓練です。実際に動かず、手順を口に出して確かめます。
1つ目がいちばん実際に近くなります。2人で20人を避難させることが本当にできるのか、やってみると分かります。
できないと分かったら、それが訓練の成果です。「できなかった」を記録に残すことに価値があります。そこから、火災報知器の位置、扉の開け方、通報の手順、近隣との協力の取り決めを見直します。
利用者の参加
利用者を参加させるかどうかは、状態によります。全員を実際に動かすのが難しい場合、部分的に行う形があります。
歩ける人だけ実際に避難する。車いすや寝たきりの人は、移動の方法だけ確かめる。
居室から廊下まで出る。建物の外まで出るのは難しい場合。
声かけの練習だけ行う。混乱を避けたい場合。
どの形にしたかを記録に書きます。「利用者は参加せず」も記録です。書いておけば、次に何を足すかが決まります。
参加させる場合は、転倒や体調の変化に注意します。訓練で事故が起きては本末転倒です。
通報と連携
訓練で抜けやすいのが、通報と外部との連携です。
消防への通報。誰が、どの電話から、何を伝えるか。住所を言えない職員が多いのが実情です。電話のそばに住所を貼っておきます。
職員への連絡。夜間に職員を呼び出す手順。誰が誰に電話するか。
家族への連絡。避難した後に、誰がどう連絡するか。
近隣や協力機関との連携。協定を結んでいる場合、その手順。
通報の訓練は、実際に電話をかける形にはできないので、文言を口に出して読む形で行います。消防署が訓練用の対応をしてくれることもあるので、相談してみます。
記録の保存と使い方
記録は、消防計画とあわせて保管します。保存の期間は、介護保険の記録の保存に合わせる形が一般的です。所管の自治体の基準を確かめます。
年に2回の記録を並べると、同じ課題がくり返し出ていないかが分かります。「2回とも通報に時間がかかった」なら、そこを直します。
記録の最後に「次への改善」を書いておき、次の訓練の最初にそれを確かめます。前回の課題が直っているか。直っていないなら、なぜかを見ます。
消防署の立入検査では、訓練の実施状況が確かめられます。回数と、夜間想定の有無が見られやすいところです。
年間の計画を作る
訓練を思い出したときにやる形だと、回数が足りなくなります。年度の初めに計画を作ります。
書くのは4つです。実施の月、訓練の種類、想定、担当者。
月を決めておくと、他の行事と重なりません。年2回なら、上半期と下半期に1回ずつ置きます。
担当者を決めておくと、準備が進みます。想定を考え、様式を用意し、当日の進行をする人です。毎回同じ人にすると、その人が辞めたときに止まります。
計画は、消防計画や、事業所の年間計画に組み込んでおきます。研修の計画と同じ紙に載せている事業所もあります。
建物の側も一緒に見る
訓練のときは、建物や設備も一緒に確かめます。実際に動いてみないと気づかないところがあります。
1つ目は、避難の経路に物が置かれていないかです。廊下の車いす、階段の踊り場の段ボール。日常では気にならないものが、暗い中では障害になります。
2つ目は、防火扉が閉まるかです。物が挟まっていて閉まらない、押さえてある、という状態が見つかります。
3つ目は、消火器の位置と使用期限です。どこにあるかを職員が知っているか、期限が切れていないか。
4つ目は、非常口の鍵です。施錠していて開かない、鍵の場所を夜勤者が知らない、という形があります。
この4つは、訓練のたびに見ます。気づいたことの欄に書いておけば、直したかどうかを次の訓練で確かめられます。
設備の点検は別に行われていますが、点検で通っていても、日々の使い方で塞がれることがあります。使う側の目で見るのが訓練の役割になります。
訓練の想定を作る
想定を毎年考えるのは負担です。あらかじめ数パターン作っておき、順番に使う形にします。
作るのは4つです。
1つ目は、昼間・厨房から出火。いちばん基本の形。
2つ目は、夜間・居室から出火。人数が少ない想定。
3つ目は、階段が使えない。もう1つの経路を使う。
4つ目は、管理者が不在。指示を出す人が代わる。
紙にして順番に使うと、毎年考えなくて済みます。4つあれば2年分です。
想定ごとに、前回やったときの気づいたことを書き添えておきます。次に同じ想定でやるときに、そこから始められます。
訓練を負担にしない工夫
避難訓練は、回数をこなすことが目的になると形だけになります。負担を減らしながら中身を残す工夫があります。
工夫は4つです。
1つ目は、全員を毎回動かさないことです。特定のフロアだけ、特定の場面だけを試す回を作ります。
2つ目は、短くすることです。15分で終わる訓練でも、目的が1つに絞れていれば意味があります。
3つ目は、机上で行う回を入れることです。紙の上で手順を追う形。夜間想定の一部はこれで足ります。
4つ目は、他の訓練と組み合わせることです。消火訓練や通報訓練を同じ日に行います。
回数の要件は、事業所の種別と消防法令で違います。所轄の消防署と市町村に確かめてください。要件を満たしたうえで、中身を薄くしない形を選びます。
まとめ
避難訓練の記録は、消防計画にもとづいて行った訓練の内容を残す記録です。社会福祉施設などでは、消火訓練と避難訓練をそれぞれ年2回以上行う形が一般的とされています。
夜間を想定した訓練が見られます。職員が少ない時間帯にどこまでできるかを確かめるのが訓練の意味です。昼間に夜勤の人数だけで動かす形が、いちばん実際に近くなります。
記録に残すのは8項目。抜けやすいのは「要した時間」と「気づいたこと」です。この2つが無いと次に生かせません。
想定は、時間帯・出火の場所・避難の経路・欠けている人を変えると、違うところが見えます。回数と様式は、所轄の消防署と所管の自治体に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 年に何回やればよいですか。 A. 施設の区分や規模によって変わります。社会福祉施設などでは、消火訓練と避難訓練をそれぞれ年2回以上とされている形が一般的です。所轄の消防署に、自社の区分を伝えて確かめるのが確実です。回数を満たしていないことは、立入検査で指摘されます。
Q. 消防署に連絡してから行う必要がありますか。 A. 施設の区分によって、訓練を行う旨をあらかじめ消防機関に通報することが求められる場合があります。所轄の消防署に確かめます。連絡しておくと、立ち会ってもらえたり、助言をもらえたりすることがあります。
Q. 夜勤者が訓練に参加できません。 A. 全員が同じ日に参加する必要はありません。夜勤に入る前に個別に行う形や、複数回に分けて行う形が取られています。参加できなかった人へのフォローを記録に残しておくと、体制として説明できます。
Q. 訓練で利用者が転んでしまったら。 A. 訓練中でも事故は事故です。事故の記録を残し、必要なら市町村への報告も行います。訓練の記録にも、何が起きたかを書きます。次からは、その人の参加の形を変えるという改善につながります。
Q. 記録の様式はどこで手に入りますか。 A. 消防署が様式を示していることがあります。自治体や事業者団体が公開しているものもあります。自社の建物や人員に合わせて、想定や気づいたことの欄を広くしておくと使いやすくなります。
Q. 訓練の内容が毎年同じになってしまいます。 A. 想定の4つの軸を1つずつ変えると、違う訓練になります。時間帯だけ変えても動きが変わります。前回の記録の「気づいたこと」を出発点にすると、自然に内容が変わります。
Q. 小規模な事業所でも、同じ回数が必要ですか。 A. 施設の区分によって求められる内容が変わります。規模が小さいほど、夜間の人数も少ないため、訓練の意味は大きくなります。所轄の消防署に確かめます。
Q. 避難した後、どこに集まりますか。 A. 集合場所を決めて、職員全員が知っている状態にします。訓練で実際に行ってみると、遠すぎる、狭い、雨のときに困るといったことが分かります。近隣の施設と協定を結んでいる事業所もあります。
Q. 訓練と、業務継続計画は別ですか。 A. 別の仕組みです。避難訓練は火災や災害のときにどう逃げるか、業務継続計画は起きた後にどうやってサービスを続けるかを決めるものです。訓練の中に、続ける側の確認を入れている事業所もあります。
Q. 気づいたことが出てきません。 A. 時間を測る、経路を1つ塞ぐ、人数を減らす。この3つのどれかを入れると、必ず何か出ます。うまくいったという記録だけが続くなら、訓練が実際の場面から離れている可能性があります。
Q. 訓練で子どもや利用者が不安になります。 A. あらかじめ伝えておく形と、伝えずに行う形があります。初めての人がいるときは伝えておきます。訓練の後に声をかけ、不安があれば個別に対応します。記録にも残します。
Q. 消防への通報訓練は、実際にかけますか。 A. 実際にかける形は取れません。文言を口に出して読む形で行います。消防署が訓練用の対応をしてくれることがあるので、相談してみます。住所を言えるかを確かめるのが目的です。
Q. 訓練のとき、利用者の避難はどこまでやりますか。 A. 状態によって変えます。歩ける人だけ実際に動く、居室から廊下まで出る、移動の方法だけ確かめる。どの形にしたかを記録に書きます。「利用者は参加せず」も記録です。
Q. 夜勤者が訓練に参加できません。 A. 夜勤帯に短い訓練を行う形にします。実際に動く人が参加していない訓練は、いちばん人が少ない時間帯の備えになりません。記録には、参加した時間帯も書いてください。
Q. 利用者を実際に動かしてよいですか。 A. 全員を動かす必要はありません。移動が難しい方は、避難させる方法を職員が確かめるところまでで構いません。本人の負担と、訓練の効果を比べて決めてください。
Q. 消防への報告は要りますか。 A. 訓練の実施について、消防への通報や届出が求められる場合があります。所轄の消防署に確かめてください。届出の要否は、建物と事業所の種別で変わります。
Q. 訓練の記録には何を書きますか。 A. 日時、想定、参加者、流れ、かかった時間、気づいたこと、次に直すこと。かかった時間を測ることが、いちばん役に立ちます。去年と比べられます。
Q. 訓練の想定を毎回変えると、準備が大変です。 A. 変えるのは1つだけにします。時間帯、出火場所、使えない出口。1つ変えるだけで、動きは大きく変わります。全部を作り直す必要はありません。
Q. 建物の設備は誰が確かめますか。 A. 法令で定められた点検は有資格者が行います。日常の確認は職員が行えます。非常口の前に物が置かれていないかを毎月見る形にすると、訓練の日以外にも気づけます。