業務継続計画とは?感染症と自然災害で2本いる
目次
業務継続計画を作らないといけない、とは聞いている。ひな形もダウンロードした。ところが項目が多く、どこから手を付ければよいか分からないまま、フォルダに入ったままになっている。よくある状態です。
この記事では、業務継続計画を、2本いる理由・書く中身・回し方の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の1本目を書き始められる状態を目指します。
結論:感染症と自然災害で、別々に作る
業務継続計画とは、感染症や自然災害が起きても、サービスを続けるための計画のことです。BCPとも呼ばれます。
介護保険の運営基準では、感染症の業務継続計画と自然災害の業務継続計画を策定し、研修と訓練を行うことが求められているとされています。
ポイントはここです。2本要ります。1本にまとめている事業所がありますが、想定する事態も、動き方も違います。
避難訓練や感染症対策とは別の仕組みです。避難は逃げること、業務継続は逃げた後もサービスを続けることを決めるものです。
避難と業務継続の違い
混ざりやすいので、分けて押さえます。
避難計画は、その場をどう離れるかです。火災や水害が起きたときに、どこへどう逃げるか。
業務継続計画は、その後どうするかです。建物が使えない、職員が来られない、水や電気が止まった。その状態で、食事、排泄、服薬、見守りをどう続けるか。
業務継続は、優先順位を決める作業です。全部は続けられません。何を止めて、何を続けるかを先に決めておきます。
止められないのは、生命に関わるものです。食事、水分、排泄、服薬、褥瘡の予防、体温の管理。入浴やレクリエーションは止められます。
感染症の計画に書くこと
感染症の計画では、次の塊を書きます。
平常時の備え。備蓄、体制、研修と訓練。
発生時の対応。発見から報告、隔離、消毒、受診。
職員が減ったときの運営。何人まで減ったら、何を止めるか。
応援の要請。法人内の他の事業所、事業者団体、自治体。
復旧の手順。どういう状態になったら通常に戻すか。
いちばん大事なのは、職員が減ったときの運営です。感染症では、利用者だけでなく職員も出勤できなくなります。半分が休んだときに、何をどう回すか。
ここを数字で決めておきます。「職員が7割になったら入浴を中止」「5割になったら◯◯」。数字が入っていないと、その場で迷います。
自然災害の計画に書くこと
自然災害の計画では、想定する災害を先に決めます。地震、水害、土砂災害、台風、大雪。自社の場所で起きうるものを選びます。
書く塊は次のとおりです。
リスクの把握。ハザードマップで、自社の建物がどうなるかを確かめます。
優先する業務。止められない業務と、止められる業務の切り分け。
必要な資源。人、物、ライフライン、情報。
代替の手段。水が止まったら、電気が止まったら、建物が使えなかったら。
連絡と参集。職員をどう集めるか、来られない場合どうするか。
ハザードマップを見たことがない事業所が多くあります。まずそこからです。浸水の深さ、土砂災害の区域。建物の1階が浸かる想定なら、計画の中身が変わります。
優先する業務の決め方
いちばん手が止まるところです。決め方の順番を示します。
1つ目は、いまやっている業務を全部書き出すことです。食事、排泄、入浴、服薬、記録、送迎、レクリエーション、清掃、洗濯、請求事務。
2つ目は、止めたときに何が起きるかを考えることです。1日止めたら、3日止めたら、1週間止めたら。
3つ目は、3段階に分けることです。止められない、数日なら止められる、止めてよい。
服薬は止められません。薬が手元にあるか、誰が管理しているかまで見ます。
記録も、実は止められません。何をしたかが残っていないと、後から状況を説明できません。簡略化した様式を用意しておく形があります。
書き出してみると、止めてよい業務が思ったより多いことに気づきます。そこが計画の値打ちです。
参集と連絡
職員をどう集めるかは、決めておかないと動けません。
連絡の手段。電話がつながらないことを前提に、複数持ちます。メッセージアプリ、災害用の伝言サービス。
参集の基準。震度いくつで、連絡を待たずに来るのか。来なくてよいのか。
来られない場合の連絡。自分や家族が被災した場合、どう伝えるか。
優先順位。近くに住んでいる人、子どもがいない人など、現実的な順番を考えます。
職員の家族の安全が先であることも、あらかじめ伝えておきます。無理に来させる計画は、実際には動きません。
連絡先の一覧は、紙でも持っておきます。携帯電話が使えない状況を想定します。個人情報なので、置き場所と見られる範囲を決めます。
備蓄と代替の手段
必要な資源を洗い出して、足りないものを備えます。
水。飲料と生活用水を分けて考えます。トイレに使う水の量が大きくなります。
食料。やわらかいもの、とろみ剤も含めて考えます。通常の食形態が作れない前提で選びます。
電気。吸引器、エアマット、冷暖房。止まると命に関わる機器を先に挙げます。
衛生用品。おむつ、手袋、消毒液。
情報。ラジオ、充電の手段。
代替の手段も決めます。水が止まったら給水車と備蓄、電気が止まったら発電機かカセットボンベ。近隣の事業所や法人内での助け合いの取り決めも、書いておきます。
研修と訓練
計画を作ったら、研修と訓練が求められます。年に何回かは、事業所の区分によって定められています。
研修は、計画の内容を職員に伝えるものです。全員が計画の存在と、自分の役割を知っている状態にします。
訓練は、動いてみるものです。参集の連絡を実際に回す、優先業務だけで半日回してみる、といった形があります。
やってみると、計画の穴が出ます。連絡先が古い、備蓄の場所を知らない、誰が指示を出すか決まっていない。それを直すのが訓練の目的です。
計画は作って終わりではなく、年に1回見直します。職員が入れ替わり、建物が変わり、地域の状況も変わります。
小規模な事業所での作り方
人数が少ない事業所ほど、負担が大きく感じられます。軽く作る方法があります。
1つ目は、ひな形の項目を削ることです。自社に無い設備や職種は消します。残す項目が少ないほど、見直しも楽になります。
2つ目は、優先業務を3つに絞ることです。食事、排泄、服薬。まずこの3つだけ決めれば、計画の骨格ができます。
3つ目は、法人内でそろえることです。複数の事業所がある法人なら、共通の部分を1つ作り、事業所ごとの部分だけを足します。
4つ目は、他の書類と共通にすることです。備蓄の一覧、連絡先の一覧、ハザードマップの写し。感染症の計画と自然災害の計画で同じものを使えます。
完璧な計画を目指すより、使える計画を1本作るほうが早く形になります。
1本目をどう書き始めるか
ひな形を開いても手が止まる、という段階から抜けるには、順番を決めます。
1日目は、優先する業務を決めることです。食事、排泄、服薬。まずこの3つだけ書きます。
2日目は、いま止まると困るものを洗い出すことです。水、電気、職員。
3日目は、代わりの手を1つずつ考えることです。水が止まったら、電気が止まったら。
4日目は、連絡先を集めることです。職員、家族、自治体、協力機関。
5日目は、ひな形に写すことです。
ひな形から始めると項目の多さで止まります。中身を先に決めてから、ひな形に写すほうが早く終わります。
1本目ができたら、訓練で使ってみます。使ってみて出てきた穴を直すのが、2本目の作業になります。
計画を実際に使える形にする
業務継続計画は、分厚く作るほど使われなくなります。使える形にする工夫があります。
工夫は4つです。
1つ目は、最初の24時間だけを1枚に抜くことです。発生直後にやることだけを、時系列で並べます。
2つ目は、連絡先を1か所にまとめることです。職員、利用者の家族、市町村、取引先、設備の業者。紙で持ちます。
3つ目は、役割を名前で書くことです。「管理者」ではなく、その人がいないときの次の人まで書きます。
4つ目は、置き場所を決めることです。事務室の棚の奥ではなく、持ち出せる場所に置きます。
4つのうち1つ目がいちばん効きます。本体の計画は残したまま、表紙の次のページに1枚の行動表を入れるだけで、使われ方が変わります。
まとめ
業務継続計画は、感染症と自然災害で2本要ります。避難計画とは別で、避難は逃げること、業務継続はその後もサービスを続けることを決めるものです。
中心になるのは、優先する業務を決める作業です。止められないもの(食事、水分、排泄、服薬、記録)と、止めてよいもの(入浴、レクリエーション)を分けます。
感染症では、職員が減ったときの運営を数字で決めておきます。「7割になったら入浴を中止」のように書いておかないと、その場で迷います。
自然災害では、ハザードマップから始めます。自社の建物が浸かるのかどうかで、計画の中身が変わります。回数や様式は、所管の自治体の案内で確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 感染症と自然災害で、1本にまとめてもよいですか。 A. それぞれ策定することが求められているため、分けて作る形が基本になります。ただし、備蓄の一覧や連絡先の一覧など、共通する部分は同じものを添付できます。表紙と本文を分けて、共通の資料を後ろにまとめる作り方があります。
Q. ひな形はどこにありますか。 A. 厚生労働省や自治体が公開しています。サービスの種類ごとに用意されていることがあるので、自社に近いものを選びます。ひな形は項目が多いため、自社に無いものを削る作業が最初の仕事になります。
Q. 研修と訓練は年に何回ですか。 A. 事業所の区分とサービスの種類によって定められています。年に複数回とされている形が一般的です。所管の自治体の案内で確かめます。感染症対策の研修や訓練と分けて記録します。
Q. 訓練はどんな形でやりますか。 A. 参集の連絡を実際に回す、優先業務だけで半日回してみる、机上で状況を読み上げて動きを確かめる、といった形があります。実際に動くほど穴が見つかります。やってみて出てきたことを、計画に反映します。
Q. 計画は誰が作りますか。 A. 管理者が中心になることが多くありますが、現場の職員の意見を入れないと使えない計画になります。優先業務の切り分けは、実際にやっている人でないと決められません。作る段階で1回、現場の意見を聞く時間を取ります。
Q. ハザードマップはどこで見られますか。 A. 市町村が公開しています。国土交通省のポータルでも見られます。浸水の深さ、土砂災害の区域、避難所の位置を確かめます。写しを計画に添付しておくと、職員が見られます。
Q. 建物が使えなくなった場合はどうしますか。 A. 代替の場所をあらかじめ考えておきます。法人内の他の施設、近隣との協定、自治体の福祉避難所。決まっていなくても、候補を挙げて連絡先を書いておくだけで、動き出しが早くなります。
Q. 職員が来られない場合、どこまで想定しますか。 A. 半分、3割といった段階で考えます。何割になったら何を止めるかを決めておけば、その場の判断が要りません。実際には想定どおりにならないので、細かく作りすぎないほうが使えます。
Q. 計画を作ったことを、どこかに届け出ますか。 A. 届出の仕組みは一般にありませんが、実地指導で確かめられます。策定していること、研修と訓練を行っていることが記録で示せる形にしておきます。
Q. 作っていないと、どうなりますか。 A. 運営基準の違反として指摘され、減算の対象になる場合があります。まず1本作り、使いながら直していく形が現実的です。完成度より、あることのほうが先になります。
Q. 訓練は、どんな形でやればよいですか。 A. 参集の連絡を実際に回す、優先業務だけで半日回してみる、机上で状況を読み上げて動きを確かめる。実際に動くほど穴が見つかります。やってみて出てきたことを計画に反映します。
Q. 法人内の他の事業所と共通にできますか。 A. 共通の部分(方針、連絡先、備蓄の考え方)は1つにまとめられます。事業所ごとに違う部分(建物、優先業務、職員の体制)は別に作ります。共通部分を1つにすると、見直しも楽になります。
Q. 計画を作ったあと、どれくらいで見直しますか。 A. 年に1回が目安です。職員が入れ替わり、連絡先が変わり、建物や設備も変わります。訓練で出てきた穴も反映します。見直した日を計画に書いておきます。
Q. 計画は誰が作りますか。 A. 管理者が中心になりますが、1人で作ると現場と合いません。各部門から1人ずつ出して作る形にしてください。作る過程そのものが訓練になります。
Q. 訓練はどうやって行いますか。 A. 机上で構いません。想定を1つ決めて、手順を追います。途中で「この連絡先は今も正しいか」を確かめるだけでも、価値があります。
Q. 感染症と自然災害で、同じ部分はまとめられますか。 A. 連絡先や体制など、共通する部分はまとめられます。ただし優先する業務と、人が減ったときの動き方は別になります。分けて書いてください。
Q. 計画の見直しはいつ行いますか。 A. 年に1回と、訓練のあと、大きな変更があったときです。職員が入れ替わったら連絡網は必ず直します。古い連絡網は、無いのと同じです。
Q. 要件を満たしているか不安です。 A. 求められる内容は種別によって違います。所轄の市町村や指定権者に確かめてください。自治体がひな形を出していることがあるので、あわせて確かめると早く整います。
Q. ひな形をそのまま使ってもよいですか。 A. 土台に使うのは構いません。ただし建物の造り、人員、地域の危険は事業所ごとに違います。そこだけは自分で書き換えてください。ひな形のままだと、訓練で必ず行き詰まります。